江戸商人・勘助と学ぶ 一番やさしい儲けと会計の基本

  • 江戸商人・勘助と学ぶ 一番やさしい儲けと会計の基本

  • 定価: 1300円+税
    著者: 眞山 徳人
    出版社: 日本実業出版社
    ISBN-10: 4534051743
    ISBN-13: 978-4534051745
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著者インタビュー

― 『江戸商人・勘助と学ぶ 一番やさしい儲けと会計の基本』についてお話を伺えればと思います。まず、この本の特徴として「やさしい」というものが挙げられると思います。 「数字」や「会計」を難しいものとして苦手意識を持っている人でも理解できるためにどういった工夫をしましたか?

眞山 : おっしゃる通り、会計の話は難しくなりがちなのですが、その原因としてビジネス自体が複雑になってきていることが挙げられます。会社がやっていることがややこしくなってきているから、それを表現する方法である会計もややこしくなってしまった、ということです。
だから、この本では、「会計」を説明する際の実例として取り上げる「ビジネス」自体をできるだけシンプルにしようと思っていました。
そのためにどんなビジネスを取り上げるかということを考えたのですが、ストーリーで親しみやすく読んでもらおうという狙いもあって、まだ会計において今のようなルールがない江戸時代を舞台にしました。そこで何も知らない見習いの少年がイチから商いに必要な会計を学んでいくと。そういった設定のところは工夫しましたね。

― ストーリーも眞山さんが作られたんですか?

眞山 : 私が作りました。元々作家になりたいという夢がありつつ、結果として会計士になったので、今でもストーリーを作るのが好きなんです。

― 「ビジネスが複雑になった」とおっしゃっていましたが、どのように複雑になったのでしょうか。

眞山 : ひとことで言えば「関係者がものすごく増えた」ということでしょうね。
例えば現代の株式会社の制度では、会社を「持っている人」つまり株主と「経営する人」は一緒であるとは限りません。そして、働いている人も契約の形態が何種類もあり、取引先との契約の仕方も多様です。
商品を仕入れるとか売るということについても、商社や流通業者を間に入れたり、ということが出てきますし、決済のやり方もいろいろです。
そういったことそれぞれを言葉にして表現するのが簿記の世界なのですが、これだけ各所が細分化すると、会計のルールもそれに応じてどうしても細かくなってしまいます。

― 読者として特にどんな方を想定して書かれたというのはありますか?

眞山 : 経理だけでなく、もっと広い範囲の人に会計を学んで欲しいと思ってこの本を書きました。なので、これまでそういった勉強をしてこなかった人、あるいは学生や新入社員にも読んでほしいと思っています。
この本の勘助という主人公は、最初は今でいう「営業マン」として商品を売るのですが、次の章では「バイヤー」の役割も経験して、その次には「販売戦略」を立てるようになります。そうやって様々に立場を変えていくわけですが、会計とかお金はどの立場でも絡んでくるわけです。
この物語を通じて、会計の知識があると、経理の担当でなくてもとても役立つのだということを伝えられたらいいなと思っています。

― 社会人としてある程度キャリアがある方でも、「数字は苦手」という人は多いのでしょうか。

眞山 : 多いですね。会社で月次の報告資料を作る時に数字を使うけど、その資料の数字しかわからないとか。
最近はKPI(重要業績評価指標)といって、それさえ追いかけていれば業績が出るような数字があって、たとえば営業マンであれば、訪問件数がどれくらいでアポイントは何件で、成約が何件というような数字を追うことで、ある程度成績をあげられるようになりました。
ただ、その数字だけを見ても、どんな商品が売れ筋で、どれが値下がりして赤字の原因になっているかということは必ずしもわかりません。こういう状態になっている人や会社はものすごく多いのです。
だからこそ、会計をビジネスの全体像として見るために役立てていくというのは意味があることなんです。

― その会計を生業にされている眞山さんですが、数字や会計の面白さはどのようなところにあるとお考えですか?

眞山 : その会社が持っている“イズム”というか、ドラマが見えるところだと思います。 例えば労働環境ひとつとっても、福利厚生にどれだけお金を使っているかとか、人件費の売上に占める割合、一人当たりの人件費など、数字から読み取れることは多いんです。そういうところが面白さだと思いますね。

― 会計や簿記を勉強する時に挫折しがちなポイントがありましたら教えていただければと思います。

眞山 : 会計という学問を整理すると、まず財務諸表というものがあって、その財務諸表を作る技術が「簿記」で、できあがった財務諸表を読み、活用する技術が「財務分析」です。
特に「簿記」に言えることですが、財務諸表を作る時に必要なのが、一つひとつの取引をどう仕訳して勘定環境を変えていくかというスキルです。それを覚えていくという地味な作業が生まれるわけですが、これに耐えられなくなって挫折するというのはよくあるパターンです。
「財務分析」の方は全体像をイメージしながら比較的楽しくやれるはずなのですが、やはり基礎を作っていく過程で細かい計算方法や略号の意味などを覚えなければなりません。そういう地道な作業が必要なところでどうしても挫折しやすくなりますね。

― 会計士になってしばらくは「監査」をされていたという眞山さんですが、たとえばニュースなどでよく見る「粉飾決算」のような事例にぶつかったことはありますか?

眞山 : 「それは今まではこういう処理をしていたのに、今回だけ違うやり方をするのはおかしいでしょう」という事例には、この仕事をしているとやはりぶつかります。
ただ、これを「粉飾」と言い切って良いかは分かりません。一つの取引に関して、少しでも外部からよく見える処理の仕方があるのなら、できることなら有利な方法をとりたいというのは、会社としては仕方のないところではあるので。だからこそ、その線引きをしっかりするために私たちが監査をするわけです。
本当に悪質な粉飾の事例には、私個人は幸か不幸かぶつかっていません。だから、割と平和に監査をやってきたのかもしれませんね。

― 監査時代の変わったエピソードがありましたら、教えていただければと思います。

眞山 : 企業の棚卸に監査の一環で会計士が立ち会うのですが、とある飲食店の監査でマイナス40℃の冷凍庫に入って、冷凍食品のカウントをした時は大変でした。
ものすごく厚いコートを着て、目出し帽をかぶって、ゆっくりそっと呼吸しながらカウントしていくという。
あとは、ある粉末を作る工場に行った時は、材料のタンクによじ登って目盛りを読んで、体積や重量がどれくらいかを計算したことがあります。クライアントの方も「そんなに奥のほうは見ないだろう」というような顔をしていたんですよ。それで逆に燃えてしまって「やってやろうじゃないか」と。まあ、おかげでスーツは真っ白になってしまいましたが(笑)。

― どんな部署だとしても、数字や会計の知識は大事だとされる理由はどんなところにあるのでしょうか。

眞山 : 「何のために働くか」というのは人それぞれ違うと思いますが、「会計」という観点で見た時、人材は何のためにいるのかというと、それは「利益をあげるため」ということになると思います。
では、利益をあげるために自分は何をすればいいかと考えると、自分の仕事の内容を理解するだけでは足りなくて、利益が出る仕組みを理解する必要があります。そうでないと、自分がどんなことをどうがんばれば、どのように儲けが出て利益になるということがわからない。そして、利益が出る仕組みを理解するための一番大事な枠組みが「会計」なんです。

― 本書には、その「会計」の、最低限必要な部分が取り上げられているというわけですね。

眞山 : 本当にギリギリのところまで削って、これくらい知っていれば何とかなるかな、というところですね。
読んだ方がもうちょっと知りたい、もっと先に進んでみたいというモチベーションを感じるところまでがこの本の役割だと思っています。

― 最後になりますが、読者の方々にメッセージをいただければと思います。

眞山 : 会計は難しい、ややこしい、経理じゃないから必要ないと考えているビジネスマンの方はすごく多くいらっしゃいますし、経営学部じゃないから縁がないと思っている学生も多いです。
でも、会計はたとえどんな仕事であれ、使えるようにしておくと物凄く便利なものです。もちろん専門家になるのは難しいですし、それなりの勉強が必要なのですが、いち社会人として役立てるレベルまで身につけるということであれば決して難しいことではありませんし、面白いと思えることもたくさんあるはずです。そういうところを、本書を通じて感じとっていただけたらいいなと思っています。
この本の内容は会計の「入口」の部分なので、気楽に楽しく読んでいただければうれしいですね。

江戸商人・勘助と学ぶ
一番やさしい儲けと会計の基本

定価: 1300円+税
著者: 眞山 徳人
出版社: 日本実業出版社
ISBN-10: 4534051743
ISBN-13: 978-4534051745

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