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水野俊哉 矢島雅弘対談
 様々な本が刊行されているビジネス書。書店の書棚を見てみると、帯に写った様々な著者の顔を見ることができるだろう。しかし、その一方でビジネス書の勢いが一時期に比べて落ちてきている話もあるが、実際の業界の動きはどのようになっているのだろうか?
 今回、新刊JPで開設された「ビジネス書検定」の監修者で、『ビジネス本作家の値打ち』の著者である水野俊哉さんとブックナビゲーターの矢島雅弘さんの2人が対談。ビジネス書の“現在”を語ってもらった。

 ■ ビジネス書の現在は“バブルが弾けた後”?

矢島

今回はビジネス書作家の水野俊哉さんとともに、現在のビジネス書について語っていきたいと思います。今日はよろしくお願いします!
水野 よろしくお願いします!
矢島 水野俊哉さんと言えば、年間1000冊は読破するというビジネス書研究家としても有名です。最近では2009年8月に『「ビジネス書」のトリセツ』(徳間書店)や、2010年6月に『ビジネス本作家の値打ち』(扶桑社)をご執筆されていますね。

『ビジネス本作家の値打ち』の冒頭では、現状に悲観しているというか、水野さんの言葉でいう“ポンチ本”が出て、粗製乱造な業界になってきていると警鐘を鳴らしていらっしゃいました。それから約1年が経ちましたが、2010年から2011年の、最近の傾向をどのように見ていらっしゃいますか?
水野 『ビジネス本作家の値打ち』のはじめに、「ビジネス本ブームから、ビジネス本バブルへ」というようなこと、そして、なぜビジネス書バブルなのか、もしかしたらもうそのバブルは崩壊しているんじゃないかということを書いていたのですが、今の状況を言うと、バブルが崩壊した…というよりは、ビジネス本のブームが冷えてきているのかなと思っています。

どういうことかといいますと、今日の株価は日経平均で8500円(2011.9.22現在)くらいとかになっていまして、これはちょうど1980年代前半の値なんですね。バブルの絶頂期の頃は4万円近くだったんですが、要はその頂上、つまりバブルに達して、今その前に戻ってしまったというのが日本の株価の状況なんです。そして、ビジネス書の方もブームが始まって、バブルの絶頂があったとしたら、今はその前に戻ったくらいの感じなのかという気がしていますね
矢島 私が感じているのは、ビジネス書バブルが始まる前は有名な社長さんが書かれた本が多かったのですが、最近は、これはバブルの影響かわからないのですが、著者さんもバラエティに富むようになったな、と
水野 そうですね。自分の企画で恐縮なんですが、雑誌『BRUTAS』で、2009年11月ごろに「ビジネス書ベストセラー年表」というものを作ったんです。これは1958年から2009年までを一気に振り返る年表なのですが、これを見るとビジネス書バブルがいつ起こったのかというのが見えてきます。

六本木ヒルズが2003年に開業して、ライブドアショックが2006年に起こったのですが、ビジネス書のバブルは2003年ごろからはじまって、ライブドアショックによって株価が下がったところから、またもうちょっと盛り上がっているんですね。そして、勝間和代さんが登場したのが2007年なのですが、2010年ごろにライブドアショックならぬ、勝間ショックみたいなのが起きて、全体的に盛り下がって、元に戻りつつあるのかなと思います
矢島 2003年のベストセラーはなんでしたか?
水野 神田昌典さん、本田健さん、和田博美さんの『和田裕美の人に好かれる話し方』が2005年で、あと山田真哉さんの『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』も2005年ですね。この辺りが盛り上がってきている頃になります。

矢島さんがさっきおっしゃったように、有名な経営者ですとか、大御所が執筆することが多かったビジネス書に、神田正則さんや本田健さんなど、本を出すまでは一般に知られていなかった方の本が出て、売れるようになってきた時期です
矢島 そうですね。そして、ビジネス書を出版した本田さん、神田さんを自分の文脈としてとらえて、また新たな人がビジネス書を執筆するというサイクルが生まれた。そして、勝間和代バブルがやってきたという印象ですよね
水野 ですから、2003年から2005年は、内容的にもしっかりした本がベストセラーになる傾向が多かったのですが、それ以降になると、ビジネス書が売れるということで、各出版社の参入も増えてきて、どんどん新刊のタイトルが増えていったという印象があります。そして、内容がついていかなくなったり、書き手が足りなくなったりして、どんどん新しい著者を発掘して、どんどん本を書かせるということが当たり前になってきますよね。 特に勝間さんが彗星のように飛び出した2007年頃は、『私も勝間さんになりたい!』とか、自分も本を出してベストセラーを出して独立したいという方たちがビジネス書業界の周辺に集まってきたように思います
 ■ 名刺代わりに「本」を使うビジネス書著者たち

矢島

なるほど。では、良い本と売れる本というところで、ここ最近、ビジネス書は売れるけれど、内容の質は下がってきているのではないか、という主張についてどうお考えになっているのかお聞かせ願えますでしょうか
水野 私自身は売れる、売れない、良い、悪いという表面的な分類はあまり好きではないのですが、ビジネス書の編集部の傾向として、後追いの発想というのが非常に多くを占めているように思います。もちろん、常に売れる本を模索することは当たり前なんですが、安易に売れた企画に飛びつきすぎる、と。たとえば課長の本が売れると、『課長の手帳術』だ、『課長の朝飯』だ、と。もちろん朝飯なんていうのはないですけど(笑)。

そういう形で、売れた企画に飛びつきすぎる。それが行き過ぎてしまうと、パクリ癖というか、誰かが言ってた面白そうなことをすぐパクってしまったりとか、これは本来はいけないことなんですけど、「赤信号みんなで渡れば怖くない」的にパクったらパクり返すという空気が生まれてしまって、新しいものが出てきにくくなるんです。

ですから、売れる、売れないという発想ではなくて、『このメッセージを世に発信したい』、とか『こういうことが書きたい!』という発想で執筆しないと、ビジネス書全体のクリエイティブのレベルが下がってしまい、読書が好きな人たちからはより倦厭されてしれてしまうのではないかと思うんです
矢島 ふつう、本は著者と編集者の共同関係で出来ていくと思うのですが、良い本を作る上でその二者の力関係はどういうのがベストだと思いますか?
水野 単純な見方をしますと、書き手側の問題がありまして、別のゴーストライターに執筆を頼んでいる場合が多いですね。また、ビジネス書を書きたいという人の中には、何かを伝えるために本を書きたいという人ももちろんいますけど、ただ著者になりたいという人が多く、実際のところ7割くらいは占めていると思います
矢島 そんなに! つまりは名刺代わりに本を使うという目的ですね
水野 そうですね。たとえば編集者に中身を決めてもらって、そのテーマに沿って自分がしゃべって、それを誰かがまとめてくれる形で本が出れば嬉しいと思っている方も多いですから、編集者との関係はそもそも本来の関係ではないことが多いですよね
矢島 つまり、書きたいものを持ち込んで、編集者と一緒に練り直していきながら本を出すという旧来のスタイルがなくなってきている
水野 そうです。こちらはもう少数派です。『最初からライターをつけて欲しい』というケースも多いのではないでしょうか
矢島 出版社側はビジネス書を出したいし、ビジネス書作家になりたい人は『とりあえず本の著者になりたい』という、そのニーズがマッチしている状態ですよね
水野 全部が全部ではありませんが、そういう傾向はあると思います。たとえば、今、フェイスブックの中に著者コミュニティというのがあって、そこには400人くらい集まっているようなのですが、その中のほとんどの方は1、2冊しか出したことがないんですよね。
矢島 まさにバブル的な兆候ですね。
水野 別に集まるのが悪いとは思いませんが、結局アマゾンキャンペーンの応援合戦のようなものが発生したり、そういうものを仕切ろうとする人間が必ずでてくる。
矢島 では、真似ではないエポックメイキングな本で、近年で『これはいいぞ』という本はありましたか?
水野 エポックメイキングというと難しいですが、手前味噌になりますが、次の私の新刊で『幸福の商社 不幸のデパート』(10月25日刊行/大和書房)は、私の12作目の本となるのですが、作風もがらりとかわり、ビジネス私小説というか、今までにあまりなかったタイプのビジネス書になっています
矢島 今までの水野さん本は、客観的な分析をしながら、ビジネス書を茶化した本が多かったように思いますが、今作はサブタイトルが『僕が3億円の借金地獄で見た景色』とのことで、もしかしてノンフィクション的な話でしょうか…?
水野 そもそもは私が借金3億円から復活して、なぜ今、上手くいってるのか? その理由を教えるという企画で、私がしゃべったことを秘書がレジュメに起こしてまとめいくというスタイルだったのですが、去年の年末くらいに、読者の心に届く企画が少なくなっているということに気づいたんです。

そこで、私が感じたことを時系列的に並べていって、そのとき何を感じ、どう行動したのかをちゃんと伝えたいと思いまして、一回原稿はできていたのですが、それを全部捨てて、ゼロから書き直しました
 ■ビジネス書を選ぶとき、タイトルには気をつけろ!?

矢島

読み手としては、ビジネス書を選ぶときにどんなことに気をつければいいですか?
水野 これは自分の中の選ぶ目を高める必要がありますね。出版社はタイトルで売り抜こうとする発想があって、最近売れた本の傾向として気になったのが、例えばビジネス雑誌を読んでいるような方だけではなく一般の方にも読まれている『バカでも年収1000万円』や、年代別でターゲットにあてる本、例えば大塚寿さんの『40代を後悔しない50のリスト』がヒットして、類似したタイトルの本が何十冊も出ています。

特に年代別の本はもしかしたら本に書いてある中身とタイトルが合っていない可能性があります。本来違うタイトルだったかも知れないのに、「今は年代本にしておいた方がいいのではないか」という力が働く可能性がありますから

あとは、最近ブレイクしている千田琢哉さんに関しては、もともときこ書房で千田さんの本をベストセラーにした有名なビジネス書編集者の方がかんき出版に移って、そのときに千田さんが先に原稿を書いて、ご祝儀としてお渡ししたらしいんです。そして、その本を出したところベストセラーになって、以降、十何社から一気にオファーがくるようになったということを聞きましたね

この業界は自称カリスマ編集者も多いんですけど、中には1割くらい、やっぱりその方が手がけると、確実にクオリティが高くて、売れる本が出るということもあります。だから、ちょっとマニアックですけど、その方々が手がけた本を読んでみるという方法もありますよね。

また、女性の読者の方であれば、同じ女性の方が言っていることのほうが、同じことを説明していても感情移入しやすいというか、共感しやすいっていうのがあると思います。昔はビジネス書も男性社会で、女性で本を書きたいという方がいても参入できないということもあったと思うのですが、今は本を出している女性の方も多いので、これだったら私も出せるのではないかということで、どんどん勇気を出してチャレンジしている方が多いと思います。だから女性の著者の方の本も注目だと思います
矢島 今の水野さんのお話を聞きつつ、僕も自分なりに最近のビジネス書を振り返ったみたのですが、すごく細分化されてきているように思いますね。僕自身、本を人に紹介する仕事をしていますから、色んな本を読んでいますが、本当に色んな業種の方がいろんな人に向けて書いているように思います。そういう意味では、『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』が大ヒットしたのは驚きましたね。まだ、こんなにたくさんの人に読まれる本があるのか、と。『もしドラ』がビジネス書かどうかというのは評価がわかれるところではありますが
水野 ですから、セールスの傾向としては、一部のショートヘッドとロングテールじゃないですけれど、一部の本は初期の段階から注目を集めることによって、どんどんプラスのフィードバックが働いて、色んなメディアで取上げられて一人勝ちするわけですけど、(全体の)売上の90%くらいを占めているそれ以外の本というのは、ニーズが細分化していているという、両極端な傾向にあるでしょう。そして、どれがショートヘッドになるかというと、それはわからない(笑)
矢島 そうですね(笑)。だからこそ、色んな本が出るわけですね。水野さんは、今後のビジネス書業界はどうなっていくと考えていますか?
水野 表向きはそんなに変わらないと思いますね。例えば1980年代くらいの日本の経済と今の経済の状況というのがどのくらい大きく変わったのかということになると、ビジネス書もバブルが崩壊したといってもビジネス書業界がなくならない限りは、これからも新刊が同じように出てきますし、全体のパイは少しずつ減っていったとしても、その中で一部のものすごく売れる本もあれば、そこそこの本がいっぱい出ると思います。

その中で、自分としては、売れる企画ありきではなくて、自分の書きたい本とか、求められているであろう本など、同じことをやろうとするのではなくて、違うことにも挑戦していくべきかなと。

例えば、お笑い芸人さんとかにしても一時ネタ見せ番組が増えたとき、自称・お笑い芸人みたいな人たちがたぶん何百人もデビューしたと思うんですけど、そういった方はほとんどいなくなっていますよね。そういう人たちは言うなれば1冊だけ本を出した人たちと一緒であって、なんとなく一発ネタがはやっているから同じことをやろうといことでは、いずれ忘れ去られてしまいます。だから、そういうことではなくて、自分で一番面白いと思っていることや、やりたいことを突き詰めていくというのはビジネス書でも同じだと思います
矢島 専門性のあるビジネス書作家が求められているというのは、僕もそう思いますね。一発屋が多い現状は確かにあると思います。ですが、今後ビジネス書、日本の経済とあわせて不況は免れないと思いますし、その中でも面白い本が出てくることを期待したいですね。今日はありがとうございました
監修者プロフィール
水野俊哉

1973年生まれ。大学卒業後、ベンチャー起業するも、個人保証を入れていた3億円の負債を抱えて取締役を解任。
その後、絶望から再生し、経営コンサルタントとして数多くのベンチャー企業経営に関わりながら、世界中の成功本やビジネス書を読破、成功法則を研究する。現在は著述を中心に、セミナー、講演などの活動も行なっている。
著書は、シリーズ10万部突破のベストセラーとなった『成功本50冊「勝ち抜け」案内』(光文社ペーパーバックス)の他、『「法則」のトリセツ』(徳間書店)、『お金持ちになるマネー本厳選50冊』(講談社)、『徹底網羅!お金儲けのトリセツ』(PHP研究所)など多数。

最新刊は ビジネス私小説「幸福の商社 不幸のデパート」(大和書房) 10月25日発売予定
http://www.bk1.jp/product/03462516

主宰する出版セミナーからは、大手出版社より受講生が続々とデビューしている。
水野俊哉出版セミナー 実践編 http://www.pubca.net/mt_jissen/9_10/

「ビジネス書のトリセツ」(徳間書店)をベースにした理論編は 11月13日(日曜日) 1400-1700
http://pubca.net/mt_riron/11_12/

水野俊哉ブログ
http://d.hatena.ne.jp/toshii2008/

オフィシャルサイト
http://mizunotoshiya.com/

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矢島雅弘

1982年11月29日生まれ。埼玉県出身。
新刊ラジオのパーソナリティとして、 これまで約1300冊の書籍を紹介してきた。
モットーは『難しいことを、面白く分かりやすく』。