―『任せきりでも10億円!週休5日社長の 任せる力』についてお話を伺えればと思います。真藤さんの実体験がベースにある本書ですが、まずは真藤さんが仕事を「任せる」ことができなかった頃の心理を教えていただけますか。
真藤:会社を立ち上げた経験がある人はおわかりになると思いますが、創業した当初からマネジメントに専念できるケースというのは少なくて、ほとんどの場合はスタッフが少ないなかで創業者自身もプレーヤーとして仕事をこなさないといけません。
僕の場合もそうで、経営者であると同時にいちコンサルタントでもありました。それもあって、スタッフが増えてある程度マネジメントに専念できるようになっても、それまで自分でやっていた仕事をスタッフに任せることに恐怖感があったんです。「部下に任せることでクオリティが落ちたらどうしよう」ということで、仕事を自分で抱え込んでしまっていたんです。
―ただの上司ではなく経営者ということで、会社で行われている全てのことにかかわっていないと気が済まなかったのではないですか?
真藤:業務量が増えてくるとさすがにそこまではいかないのですが、一通り知らないと気が済まないというのはありました。こういう心理は経営者でなくても、部下をお持ちの方なら一緒じゃないかと思いますね。大体上司というのは部下が何をしているか知りたいものですから。
―真藤さんが仕事を部下に任せられるようになったきっかけがありましたら教えていただければと思います。
真藤:どうしてもスタッフに仕事を任せざるを得ない時があったんですよ。祖母が危篤で、“仕方ないから頼む”という感じで任せたんですけど、戻ってくると仕事はきちんと終わっていて、問題はなにも起きていませんでした。それを見て「あれ?彼はこんなに仕事ができる人だったっけ?」と思ったのがきっかけです。
その後も、単純に業務量が増えて一人では回らないということも出てきましたし、僕が大事な打ち合わせに出ている時にポンと新しい仕事が入ることもありました。そうなるともう任せるしかありませんし、任せてみたら思ったよりうまくいくと。じゃあ次も任せてみようかということで、だんだん仕事を部下に任せられるようになっていきました。
―そして今ではほとんどの仕事を部下に任せてしまって、ご自身は週に二日ほどしか出社されないようですね。
真藤:実は週二日も行ってないんです。今は八ヶ岳の方に住んでいてそんなに頻繁に出社できないんですよ。今月は一回出社したかな(取材日は9月下旬)。あとは給料日くらいですね。だからもう会社が何をしているかさっぱりわからない(笑)。
自由な社風なので、たまに出社すると誰かの飼い犬がいたり、奥さんや子どもがいたりで、いつも驚かされます。
―それは、大丈夫なのでしょうか……。出社しないにしてもメールでやりとりはされているんですよね?
真藤:それもしていません。会社からのメールは月に一回くらい来るかな、という感じで。
―会社の売り上げなどは気にならないんですか?
真藤:気にはなります。でも、今では僕が変に出ていくよりもスタッフの方が仕事ができますから、彼らがやったほうがいいし、そうなってしまうと僕は出社している必要はないんです。まあ、知り合いの経営者には「お前の会社の社長をやったら気が狂う」と言われますが。
―本書を読んで、上司が仕事を抱え込んでしまう理由として「自分の方がうまくできる」という自負だけでなく、「仕事を部下に任せてしまったら自分は不要になるのではないか」という恐怖心もあるように思いました。こういった感情はどのように乗り越えていけばいいのでしょうか。
真藤:周りを見回して、成功している上司を探せばいいんですよ。ずっとバリバリのプレーヤーのまま出世していく人もいるにはいますが、それはどちらかというと少数派で、プレーヤーとしてはさして優れていないものの、人望があって部下から慕われるというタイプの方が多いはずです。 もちろん、「自分はプレーヤーのまま出世していきたい」という人はそれでいいのですが、上には上がいますから、結局はどこかで壁にぶつかってしまいます。それよりも、部下の力を上手に使って成果を出していくほうが一番上までいきやすいというのはいえると思いますね。
―「何か問題が起きたらどうしよう」という不安から、仕事を任せられないタイプの上司も多いと思います。実際に仕事を部下に任せたことで何か問題が起こるケースというのはどれくらいあるのでしょうか?
真藤:僕は経営コンサルタントとして企業の研修などもやっているのですが、その一環で上司を強引に仕事から引き離すことがあります。会社に行かせないのはもちろん、電話も没収です。一種のショック療法ですね。
それでわかったことですが、よほどのトラブルが起こった場合は別として、上司がいないから仕事が回らないことなんてまずありません。だって、人事異動で何も知らない上司が来ても会社は回るでしょう?
それに、トラブルにしても、「自分がいなきゃダメだ」と思っている人ほど、不測の事態って起こらないんですよ。そういう人は常日頃から備えていますからね。逆に「大丈夫、大丈夫」って言っている人ほど危ない(笑)。
―「任せる」を「丸投げ」することだと勘違いしている人も多いものです。仕事を「任せる」時のポイントと任せた後の距離感についてお話をうかがえればと思います。
真藤:僕は相手のタイプによって対応を変えています。直感で動くタイプ(「直感重視タイプ」)に対しては“丸投げ”以外は通用しません。彼らの一番のモチベーションは「すごい人だと思われたい」なので、努力を見られることや途中経過を見せるのを極端に嫌うんです。こういう人に仕事を任せる時は「これはすごい案件だからぜひやってくれ、お前ならできる」と丸投げしてしまうんです。そうするとものすごく頑張る。徹夜して仕上げてきたとしても、それを見破られないようにシャキッとした顔をして出勤してきます。
もう一つのタイプは、「人柄重視タイプ」といって、「誰のために仕事をするのか」を重視するタイプです。このタイプは途中経過とプロセスを共有することが大事なので“丸投げ”は絶対ダメ。一緒にやっている感覚を出してあげるのが大事ですね。
最後は「結果重視タイプ」で、このタイプの人は、与えられた仕事の意義や目的が腑に落ちると、自分でスケジュールを決めて進めていけます。彼らに対してやってはいけないのは、「ペースを崩すこと」です。仕事の要点や条件を明らかにして、求める結果と期限を決めたら、そこまではやらせるというのが重要になります。このタイプも、途中経過を細かく監視しないほうがいいです。
―今おっしゃった3つのタイプというのはどのように見分ければいいのでしょうか。
真藤:ある程度見た目や受け答えでわかります。たとえば、「直感重視タイプ」の人はとにかく荷物が少ない。仕事をしに来ていても、持ち物はノートパソコン一台とケーブルだけというのが珍しくありません。バッテリーが切れたらその時はその時、という考え方ですね。
「結果重視タイプ」は、「自分のノートパソコンは1日の使用時間は6時間で、ちゃんと持つように準備してありますから大丈夫です」と、明確な答えが返ってきます。もちろん予備のバッテリーも持っています。
準備するものが多すぎてやたらと大きい鞄を持ち歩いているのは「人柄重視タイプ」ですね。こういう人は何でもスペアがないと気が済まないから、どうしても荷物が多くなってしまうというわけです。
―何となくわかる気がします。
真藤:メールの書き方もタイプが出ますね。びっしりと文章で埋まっているようなメールは「人柄重視タイプ」です。箇条書きでポイントがまとめられているのが「結果重視タイプ」、「直感重視タイプ」はメールの文面自体が2、3行しかないというのが特徴です。
―部下のタイプを把握して、それぞれに合った仕事の任せ方や指導をするには、上司の方にもかなり経験が必要になるのではないでしょうか。
真藤:そうですね。ほとんどの上司の方は、上手に仕事を任せられるようになるよりも、「任せないで自分でやったほうが手っ取り早い」という考え方です。マネジメントや部下を育てることというのは優先順位が低い。本当は自分の仕事よりもそっちの方が優先なんだよということが、会社全体で共有されれば、上司の人の価値観も変わっていくんでしょうけどね。
それと、日本の場合はプレーイングマネージャーが多くて、マネジメントだけをやる人が少ないというのも、部下に仕事を任せられない原因になっていると思います。たとえば、営業部の課長で自分は営業に行かないという人はあまりいなくて、マネジャーでありながら自分も営業成績を残さないといけないという。
それもあって、特に中間管理職の人を中心に、「部下の育成まで手が回らない」という人は多いと思いますが、部下を育てて、彼らからの人望を集めることが自分の将来に繋がるんだというくらいの大きな視点を持って、自分の業務以外の部分に意識して時間を割くようにすると、少しずつ「任せる力」はついていくのではないかと思います。
―上司が仕事の仕方を変えて、これまで自分でやろうとしていたことを部下に任せるようになった時、ぶつかりやすい「壁」はありますか?
真藤:先ほどもお話したように、ほとんどの場合、自分の仕事を部下に任せてしまっても、問題は起こりませんし、案外うまく回ります。そこで、「自分は必要ないのかもしれない」という無価値感や「このままでは部下に追い抜かれてしまう」という不安など、メンタルの面で苦しくなってしまうことはあるかもしれません。
それと、日本は「汗水たらして働く」のが美徳というところがまだまだありますから、上司が仕事を部下に任せて早く帰ってしまったりすると、周りからやっかみが出ることもあります。でも、そうやって社内から批判や抵抗が出てくるというのは自分が上司としてレベルアップした証拠ですよ。仕事をしていないように見えてきちんと結果が出ているからこそ周りはやっかむわけで、うだつの上がらない管理職には誰も何も言いませんから。
―プレーヤーであれば自分の成績を上げるというのがモチベーションになったかと思いますが、上司としてマネジメントする立場になったらどのように目標を立てたり、モチベーションを保っていけばいいのでしょうか。
真藤:昇進して上司になるという人はだいたいプレーヤーとして優秀な人ですから、「自分の成績を上げる」というプレーヤーとしての楽しみをたくさん味わってきたと思うのですが、上司になったらその価値観のままではなくパラダイムシフトが必要です。
プレーヤーのうちは一個人ですから目標も小さいものでしたが、上司としてチームを動かすとなると、どんどん大きな目標を立てて、大きな仕事に取り組むことができます。それはそれで楽しいことだと思うので、夢や目標の持ち方といいますか、大きさを変えることが大事です。
―最後になりますが、上司として行き詰って悩んでいる方々に向けてメッセージをいただければと思います。
真藤:まずは「直感重視タイプ」「結果重視タイプ」「人柄重視タイプ」のうち、自分はどれなのか、また部下はどのタイプなのかを把握することから始めてみてください。それだけでも人間関係の悩みの大部分が解決してしまうかもしれません。
それと、部下の言い分に耳を傾けることですね。「仕事が遅い」「仕事ができない」といったことについて、ただ不満を持つのではなく「どうして遅いのか」「なぜできなかったのか」部下の言い分を聞いてあげる。そうすることで互いの理解が進んで信頼関係ができたり、仕事の任せ方がわかってきます。この二つはぜひやってみていただきたいですね。
1967年栃木県宇都宮市生まれ。東京大学工学部卒業後、リクルートに入社。営業マンとして毎日15時間の激務をこなし、駅で血を吐いて倒れたことも。経営コンサルタント会社を経て、26歳で独立。以後20年間、経営コンサルタントとして活動。現在、3つの会社を経営しているが、そのほとんどを社員に任せ、自らは八ヶ岳南麓で週休5日の生活を送る