インタビュー

 毎月きびしいノルマに追われ、営業先では無理難題を突きつけられと、つらい思いをしている営業マンは多いはずです。しかし、その一方で企業や個人宅に飛び込み営業をかけて、次々と契約を取ってくるツワモノも。
 この両者の違いは才能や適性だけなのでしょうか?
 飛び込み営業で圧倒的な実績を残し、トップセールスに登り詰めた杉山彰泰さんの著書『トップセールスはお客さまの何を見ているのか?』(かんき出版/刊)からは、その答えの一端が見えてきます。
 「売れる営業マン」は営業をどのように捉え、仕事をしているのか。杉山さんにお話をうかがいました。

写真

― 『トップセールスはお客さまの何を見ているのか?』についてお話を伺えればと思います。飛び込み営業というと、きつかったりなかなか成果が出ないイメージが強いのですが、杉山さんがこの仕事で結果を出せた秘訣はどんなところにあるのでしょうか。

杉山:
 営業を「難しいこと」だと思い込まなかったのが良かったのではないかと思います。
 というのも、営業の結果というのは、それを難しいと捉えるか、簡単だと捉えるかで全く変わってくるんです。これは「ナンパ」に似ていて、「ナンパは難しい」「断られるのが怖い」と思っているとうまくいかない。
 こういう人は、難しい結果を一気に出そうと考えすぎているんです。初対面の人間に話しかけて、自分を好きにさせて、デートをするまでが「ナンパ」だと捉えて、自分でハードルを上げてしまう。
 「結果を出す人」というのは、ナンパの例で言うなら、町で見つけたかわいい人に、「かわいい」と伝えることを考えます。営業であれば、飛び込みでいきなり契約を取るのではなく、挨拶と自己紹介だけしようと考えるんです。気持ち的にも卑屈にならずに「今後、自分がお客さんにしてもいいか確かめよう。いい人だったら契約してもいいけど、悪い人だったら契約させてあげないよ」くらいに構えて、まずはその調査のために訪問する、といように考える。「飛び込み営業」という仕事に難しさを入れないことが大事ですね。

― それがわからない人はいきなり「売ること」を考えてしまう。

杉山:
 そうですね。いきなり売ろうとするから売れない。売ろうとする前にまずは自分が相手に何かを与えることを考えないといけません。
 訪問先の会社にとって価値のある情報を提供するのもいいですし、ちょっとした手土産を持って行ったり、相手を褒めるのも「与えること」の一つです。何も与えずに刈り取ることだけ考えてもうまくいきません。

― 本書を読んで驚いたのが、トップセールスの人の洞察力や観察眼の鋭さです。訪問先の会社に飛び込む前に、細かなところから驚くほど多くの情報を得てしまう。この能力は誰にでも身につくものなのでしょうか。

杉山:
 「テーマ」を持って飛び込めるかどうかでしょうね。
 「イナゴ営業」というんですけど、片っぱしから飛び込んで営業をかけていくようなやり方だと、断られたらそれでおしまいで二度と行かない、場合によっては行けなくなってしまう。こうなるとマーケットがどんどんなくなってしまいますよね。
 高度成長期だったらこういうやり方でもいいのかもしれませんが、これから日本の人口がどんどん減って、会社も少なくなっていく状況でこれをやるとどんどん遠くに営業に行かないといけなくなってしまって効率が悪いんです。
 じゃあどうすればいいかというと、僕の場合は自分のマーケットを大事にして、そのマーケットの中の会社を自分のファンにしてしまえば、遠くまで行かなくても済むんじゃないかと考えました。こういう「テーマ」を持っていたから、飛び込み先の会社やそこで働いている人の「褒めるポイント」は絶対に見逃したくなかったんです。こういうところから、細かなところに気づいて情報を得る目が磨かれていったんだと思います。
 自分なりのテーマを持って客先を訪問することが大事だと思いますね。

― 確かに、むやみに飛びこんで行くだけでは気づかないことは多いかもしれません。

杉山:
 このやり方でやっていたら最終的にはほとんど100%に近い確率で、飛び込んだ先の企業を見込み客化できるようになりました。
 飛び込み方も、単なる「営業」ではなく「お礼訪問」の形にするように工夫しましたね。
 たとえばA社とB社が隣あっていたとしたら、A社に訪問して、道に迷った体でB社の場所を尋ねます。すると「隣だよ」と教えてくれますから、「ありがとうございます。おかげでプレゼンの時間に間に合います」とお礼を言って、応対してくれた人の名前を聞いて帰る。
 その後何時間かしてから、今度は手土産にお菓子か何かを持って「お礼訪問」として訪ねるわけです。「先ほどはありがとうござました。よかったら食べてください」というふうに。そこで「すいません、自分の分も買ってしまったので一緒に食べていいですか?」と聞けばまず断られません。
 それで一緒に食べていれば雑談になりますから、「B社で何のプレゼンをしてきたの?」と聞かれます。そこで始めて自分の営業の話をすればいい。聞かれたことに答えているわけですから、どちらに転んでも悪印象は持たれにくくなります。

写真

― 本書では、「いかに訪問先企業の経営者の性質を知るか」という点がかなり重視されていると感じました。これは飛び込み営業の訪問先として中小企業を想定されているからですか?

杉山:
 そうですね。日本の会社の99%は中小企業で、そういった会社というのは、たとえば従業員が20名以下で、決裁権は社長か社長の奥さんが持っていて、弟が専務をやっているというようなケースが非常に多い。だからこそ社長がどんな人物かをつかむことが大事になるんです。

― 「飛び込み営業」ということでいうと、会社ではなく個人宅を訪問することもあると思いますが、その場合でも本書で明かされているノウハウは役立つのでしょうか。

杉山:
 ちょっとした外観から情報を得るというところでは役に立つと思います。
 特に一戸建ての住宅はヒントが隠れていることが多いんです。どんな車に乗っているのか、庭はどうなっているか、どんな表札がかかっているか、といったポイントはすべて「どんな人が住んでいるか」を推測するヒントです。
 たとえば、ソーラーパネルなどは基本的に訪問販売の営業マンに提案されて買うものですから、屋根にソーラーパネルがついている家は、そういったセールスに弱いタイプの人ではないかという推察ができます。

― 「まずは挨拶と自己紹介だけするつもりで飛び込む」というのはよくわかるお話だったのですが、そうはいっても営業マンですからいつかは商談に入らないといけません。このタイミングが難しいと思いますが何かコツはありますか?

杉山:
 いつ自分の商談を切り出すかを考えながら相手の話を聞いている時点で、あまり相手と親しくなれないですよね。
 相手は中小企業とはいえ社長ですから百戦錬磨ですよ。「売ろう」「売りたい」という魂胆はまちがいなく見透かされますから、はじめのうちは「売りたいオーラ」をとにかくゼロにして接することを考えた方がいい。最初は相手の話を聞くことに徹して、時間になったら帰るくらいがちょうどよくて、商品の話はするにしても最後の5分です。
 最初の訪問では社長と仲良くなることを目的にして、一度で売ろうとしないことです。相手だって丁寧に扱われたいわけですから。

― 焦って売ろうとしてしまう背景には、営業マンに課せられる「ノルマ」があります。この「ノルマ」をこなしつつ焦らずに営業していくポイントはありますか?

杉山:
 「ノルマ」についてトップセールスマンが工夫しているのは、会社や上司に文句を言われる時間が無駄なので、1件受注を隠し持っておくことです。月初、みんなはゼロからスタートですが、トップセールスはその隠しておいた1件をそのタイミングで出します。
 受注4件がノルマだとしたら、その時点で1件取っていますから残りは3件。そうなると気持ち的にだいぶ違うはずです。そして、その3件に加えてもう1件また隠し持っておくと、会社や上司からの信頼も得やすくなりますから、自由に動ける時間が増えます。この循環はぜひ作っていただきたいですね。

― 今、結果が出ていなくても今後伸びる営業マンの特徴としてどんな点が挙げられますか。

杉山:
 とにかく勉強をしていることです。
 自分が飛び込んだ件数に対してどれだけ契約が取れたかという確率を出したり、契約を取れた原因を自分なりに分析している人は伸びます。自分の仕事をコントロールするという意味でも、少なくとも自分の日割り達成率を聞かれてパッと答えられるようにはしておいてほしいですね。

― 「飛び込み営業」というとストレスが溜まることも多そうです。ストレスとの付き合い方についても教えていただきたいです。

杉山:
 飛び込んだ先の会社で冷たい対応をされることでストレスが溜まるというのであれば、言われた言葉を全てポジティブに変換する装置を自分の中に持っておくことが大事です。
 「要らないよ」ならば「今はお腹いっぱいです。もう少し経ったらまた来てください」、「嫌い」だったら「もう少しお互いを知ったら好きになります」と、全てポジティブに変換してしまう癖をつければ、これまでいちいち傷ついてきたことをかわせるようになります。
 ただ、営業のやり方が身についてくれば、たとえ飛び込み営業であってもひどいことを言われて追い返されることはなくなってきますから、ストレスを感じること自体減ってくるはずです。
 相手に失礼なことを言われる時というのは、自分も失礼なことをしてしまっているんですよ。

― 営業という仕事に一番必要な要素はどんなものだとお考えですか?

杉山:
 相手を喜ばせようという気持ちでしょうね。営業は「ありがとう」を集める仕事で、売上や契約はその「ありがとう」にくっついてくるものです。売上のことばかり考えるとどうしても「相手からお金を奪う」という発想になりがちで、これだと営業すればするほど相手に嫌がられて契約も取れないという悪循環にはまってしまいます。
 まずは「ありがとう」を集めにいく意識でやっていただきたいですね。

― しかし、自信を持てないうちはなかなかそういった姿勢で仕事をするのは難しいかもしれません。営業マンとしてのセルフイメージを高める方法がありましたら教えていただけませんか?

杉山:
 自分の「夢ノート」を作るのをおすすめします。そのノートに、自分は将来どこまでいく人間なのかを書いておく。たとえば、その夢が「年商1000億の会社を経営する」というものなら、年商100億の会社の社長の前に出てもびびらないですよ。それが実際にできれば「年商100億の会社の社長にもびびらない自分」というストーリーが描けるわけで、自信になるはずです。
 また、相手と比べて自分が勝っている点を一つでも見つけることは心理的な余裕につながります。「腕力なら俺の方が上だ」でもいいですし「白髪は俺の方が少ない」でもいいです。何でもいいので相手より自分が優れている点、勝っている点を見つけていただきたいですね。

― 最後になりますが、結果が出ずに悩んでいる営業マンにアドバイスやメッセージをお願いいたします。

写真

杉山:
 まず言えることは、営業という仕事が好きになれないまま続けているという人は、無理に営業にしがみつく必要はありません。自分の才能をより生かせる分野に行くことを考えた方がいいと思います。
 ただ、営業が好きなのに結果が出ないという人は、今の状態を変えていくためにも自分の営業のやり方や考え方を見直してみるべきです。まずやるべきなのは、周りの営業マンで結果を出している人を3人選んで、共通点を探すこと。それが訪問する件数なのか、担当しているマーケットなのか、フロント商品なのかはわかりませんが、よく観察すると彼らが共通して行っていることが見えてくるはずです。それがわかったら素直にマネするのが成長する一番の方法だと思います。

(新刊JP編集部)
ペ―ジの一番上に戻る