なぜ、あなたの薬は効かないのか?
薬剤師しか知らない薬の真実
定価: 798円
著者: 深井 良祐
出版社: 光文社
ISBN-10: 4334037860
ISBN-13: 978-4334037864
―今回は深井さんの著書『なぜ、あなたの薬は効かないのか?薬剤師しか知らない薬の真実』についてお話を伺えればと思います。医師の方はともかく薬剤師の方が書かれた本というのは珍しいのですが、この本を書かれた動機についてお聞かせ願えますか。
深井:「身近な薬の疑問を解決できれば」という考えから本書を執筆しました。薬剤師という立場上、薬の相談を受けることは多いです。ただ、医師に言われるがまま薬を服用している人が多すぎるということを感じています。何も疑問を持たずに薬を服用してもいいですが、薬を服用すべき場合とそうでない場合があります。
例えば、風邪薬は風邪を治しません。むしろ、風邪を長引かせてしまいます。また、糖尿病や高血圧の治療薬は症状を抑えてくれますが、完全に治すわけではありません。こうした生活習慣病では、食事や運動面からのアプローチの方がはるかに効果的です。薬を使わずに病気を治すことが可能だということです。
―まえがきで書かれているように、私たちの多くは薬についてほとんど知識がありません。素人が薬についての知識を深めることにどのような意味があるとお考えですか?
深井:「自分の健康を自分で管理できるようになる」という点に大きな意義があります。現在はセルフメディケーションという言葉があり、これは医療機関を過度に頼ることなく、自分で病気を治療していくという意味も含まれます。
「自分の健康」や「家族の病気」など、薬に頼るべき場合とそうでない場合を見極めることができれば、さらに健康な生活を送ることができるはずです。
―薬について知らないことで起こる事故としてどんな例が挙げられますか?
深井:「薬に頼りすぎる場合」や「薬を怖がりすぎる場合」などがあります。例えば、薬への頼りすぎで問題となるケースに頭痛薬があります。頭痛薬を服用し続けていると、よけい頭痛を悪化させてしまうことがあります。これを薬物乱用頭痛と呼び、安易な連用は避けなければいけません。
薬の怖がりすぎで問題となるケースには、妊婦の服用があります。「胎児への影響が怖い」と考えて妊婦の方が薬の服用をやめると、症状の悪化を招き、これが胎児に深刻な影響を及ぼすことがあります。
―2章の副作用のお話が興味深かったのですが、私たちが日常的に服用する薬で、重大な副作用を起こすなどトラブルが起こる可能性が高いものをいくつか教えていただけませんか。
深井:日常的な薬の代表に「解熱鎮痛剤(熱を下げたり痛みを抑えたりする薬)」があります。ドラッグストアで誰でも購入可能な薬ですが、小児のインフルエンザに対して解熱鎮痛剤を使用すると脳症のリスクが高くなります。
また、この薬を妊婦に投与すると胎児に悪影響を及ぼす可能性があるため、「頭痛がおさまらない」などの理由で服用すると、不都合な作用が表れる可能性を否定できません。このように、ありふれた薬であっても大きなリスクを備えています。
―また薬害問題やドラッグラグなど製薬業界の問題点についても書かれていましたね。薬剤師という「現場の人間」の目から見て、製薬の世界はどのように変わるべきだと思いますか。
深井:もっと情報をオープンにしていくべきだと思います。「薬は病気を治さない」「薬害はなぜなくならないのか」「ジェネリック医薬品の利点と欠点」など、医療関係者にとっては常識であっても、一般の方へ浸透していない事実はたくさんあります。
これらの基礎知識を身に付けることができれば、自分の健康を守りやすくなるのではないでしょうか。本書ではその点についても触れています。
―自分の健康を守るために、私たちは薬剤師の方とどのように付き合っていけばいいのでしょうか。
深井:たとえ処方せんを持っていなかったとしても、地域の薬剤師を「健康相談の場」としてご活用ください。
病気を発症した場合は医療機関を受診します。しかし、薬の疑問を解決したいときやちょ
っとした健康指導を受けたいときに、わざわざ医療機関を訪れる人はいません。そのときに、「近くの薬剤師に相談すればいい」と気軽に思えるようになってほしいです。
―本書で書かれたことのうち、とくに一般の方々に知っておいてほしいことはどんなことですか?
深井:薬の副作用についてです。「副作用はなぜ起こるのか」「回避方法はないのか」だけでなく、本書を理解すれば「服用中止後、副作用から解放される目安時間」まで推測できるようになります。
薬と副作用は切っても切れない関係にあるため、副作用の正しい知識を身に付けることが「自分自身の健康を守ること」に繋がります。
―最後に、本書の読者の方々にメッセージをいただければと思います。
深井:日々の生活を営むうえで薬は欠かせない存在です。しかし、「自分は薬の性質をよく知っている」という人は少ないはずです。
薬を服用するうえで、「そもそも、薬って何?」「薬の飲み合わせとは?」「個体差・人種差とは?」など、このような身近な疑問を感じたことがあるはずです。本書では、こうしたちょっとした疑問に答えています。
「薬とは何か」という基礎的な概念を理解し、自分自身だけでなく、家族が服用する薬への理解を深めるためのツールとして本書を活用していただければ幸いです。
薬剤師。1986年岡山県岡山市生まれ。岡山大学薬学部卒業後、同大学院で創薬化学(メディシナルケミストリー)を専攻し、修士課程を修了。
在学時に薬学系サイト「役に立つ薬の情報~専門薬学」(http://kusuri-jouhou.com/)を開設。月110万PV以上のアクセス数をほこる(2014年2月現在)。難解な学問と思われる「薬学」を一般向けに分かりやすく解説し、情報発信を行う。
医薬品卸売企業の管理薬剤師として入社後はDI(ドラッグインフォメーション)業務・教育研修を担当。独立後、現在は薬剤師として臨床にも従事しつつ医療系コンサルタントとして活動している。