インタビュー

 テレビのコメンテーターの肩書きとしてよく見かける「コンサルタント」だが、彼らがカバーする領域は実に幅広い。経営やPRなどいったビジネス分野から、今では「おそうじ」「結婚」といった実用的なフィールドを専門とする人もでてきた。

 しかし、やはりコンサルタントの思考術が活きるのは「経営」だろう。
寺嶋直史さんは大手電機メーカーを退職して、コンサルタントとして独立。専門としている領域は「事業再生」だ。現在では中小零細企業相手にコンサルティングを行っている。
 この程、寺嶋さんが執筆した『事業デューデリジェンスの実務入門』(中央経済社/刊)は、事業デューデリジェンス(対象となる企業を調査・評価し、調査報告書を作成する活動)の教科書的な一冊で、コンサル活動に必要なスキルや思考法が詰まっている。

 今回、寺嶋さんに、コンサルタントにとって大事なことは何なのか、コンサルタントや経営者が抱えている問題はどんなものなのか、お話をうかがった。
(新刊JP編集部)

大手電機メーカーからコンサルタントへ転身 その理由とは?

― いきなりですが、普段はラフな格好でお仕事されていらっしゃるとお聞きしました。コンサルタントってすごくカッチリしたイメージがあるのですが…。

著者近影

 寺嶋:そうですね。夏は半そでのワイシャツに黒のズボンが多いです。基本的に私は中小や零細企業のクライアントが多いので、相談しやすい気さくな雰囲気を出したいというのもありますし、あとはこの季節、暑いので(笑)。不潔感が出ないように気をつけています。

― 中小や零細企業がクライアントだとおっしゃいましたが、規模感でいえばどのくらいの企業がお客様になるのですか?

 寺嶋:デューデリジェンス(調査)でいうと、小さい企業で年商5000万円、大きい企業で年商30億円くらいですね。顧問では年商数千万円~数億円が多いです。

― 企業の大きさで調査の仕方は変わるのでしょうか?

 寺嶋:人数が増えれば増えるほど、経営不振の原因を探る際にいろいろな人が関わってきます。零細企業では、社長と、客観性を持たせるためにもう一人くらいヒアリングすれば大枠はつかめるのですが、社員数が多いところは十数人にヒアリングすることもあります。

― コンサルタントというと「数字を見て経営を判断し、適切にアドバイスを行う」という仕事のイメージです。

 寺嶋:数字は結果として出ているものなので、調査の前にすべて確認します。その上で、どうしてこの状況になってしまったのか突き止めるために調査をするんです。決算書をいくら細かく分析しても、それだけではその会社を改善することはできません。
 調査をするのは、数字だけでその原因の根っこの部分まで把握することはとても難しいからです。例えば利益が下がっている要因は人件費の高騰という結果があっても、なぜ高騰しているのかは数字上からは分からないですよね。いろいろな要因があって、それを細かく切り分けて深く掘り下げていってようやく分かる。

― 何が起こっていたかを把握するんですね。

 寺嶋:そうです。再生企業を立て直す上で調査は必要不可欠です。そうでないと、どこに問題の原因があるのかが把握できず、現場の改善ができません。でも、数字だけを見て終わり、というケースも多々あるのが現状です。業績が悪化している理由に全く触れずに、借入の返済のために売上高や利益伸ばす計画を立てましょう、というような。それは意味がないですよね。だから、問題の先送りになってしまうケースが多いんです。

 また、大手のコンサルティングファームの場合、「現場の改善」よりも「報告書の質向上」が目的になってしまって、「報告書をいかにきれいに作成するか」に注力する傾向があります。つまり、「見えない問題点の発見」や「問題点の原因の追求」より、「それが本当に問題なのかの検証の追求」に時間と労力をかけるため、問題点の数や原因究明が不十分になるのです。そのため、報告書としては説得力があってわかりやすくはなりますが、どうしても内容が薄くなります。銀行受けはいいんですけど。
 中小零細企業の場合、ヒト・モノ・カネの経営資源が大企業より遥かに乏しいため、例えば「報告のフォーマットがない」「パソコンが使えない」のような細かいことが、事業進捗のボトルネックになることが多々あります。大企業でそんな問題点を指摘すると「そんな事個人で解決すればいいのに」と思われてしまうようなことが、組織の問題点となるのが中小零細企業です。だから、細かく掘り下げてメスを入れることが、中小零細企業の再生への近道になるのです。

― もともと大手電機メーカーに勤めていらっしゃって、営業をされていたそうですね。そこからどうしてコンサルタントに転向したのですか?

 寺嶋:もちろん営業をやっていた頃は、独立もコンサルタントも頭にありませんでした。ただ、仕事は好きだったのでバリバリやっていたのですが、業務を進める上で知識がなかったんです。良い仕事をするには知識が大事ですから、とにかく勉強しようといろいろな資格を7、8年で十数個取得しました。

― 営業ではどのような商品を扱っていたのですか?

寺嶋:コンピューターの営業ですね。最初にコンピューターの資格を沢山取ったのですが、個人的に(コンピューターが)好きになれなかったんですよ。資格を取っても、結局よく理解できなくて(苦笑)。それで、コンピューターではない、別の領域の知識を身につけようとして取った資格のが中小企業診断士です。

― 寺嶋さんは理系の大学をご卒業されていますよね?

寺嶋:実は…学んでいたのは経営工学だったので、バリバリの理系ではないんです(笑)。

― 中小企業診断士の資格を取得した後はどうなされたのですか?

 寺嶋:会社をやめました。中小企業診断士の勉強をしていた時に、将来は独立しようと決断していました。

― 今でこそ、不祥事で揺れている大手電機メーカーですが、当時は一流企業です。安定した生活がのぞめる中で、そうした決断をするのはすごいです。

 寺嶋:抵抗なくやめられました。どうしても組織の壁があって、自分の意見が絶対正しいと思っても受け入れられなかったり、まったく意味のない仕事を上からの命令でやることも多くて、がまんできなくて上司とぶつかることも多くなって。幹部候補にも選定してもらって、とてもいい評価をもらって、周囲の人からも良くしてもらって、居心地は良かったのですが、仕事の中身で不満がたまっていったんです。上司と言い争いになった後に「また評価下がったなぁ」と思うこともありましたが、所詮評価は人がするもので、そんなことを気にしていることに限界を感じて、「このままこの会社にいたら将来絶対に後悔する、もっとやりたいことを自由にやっていきたい」という思いが強くなっていきました。

コンサルタントの思考法を自分のモノにするためには?

著者近影

― 大手電機メーカーをやめたあとは、コンサルティングファームに転職します。

寺嶋:独立するためですね。コンサルタントとしての能力を高めるために転職しました。

― 営業ではなく事業再生というフィールドを選んだのは?

 寺嶋:最初は営業コンサルをやろうと思っていたのですが、フィールドは広い方がいいということで、販売促進なども含めた「売り上げアップ」のコンサルタントでいこうと決めました。そんな中、知り合いで事業再生のコンサルタントをしている方から、経営に関する幅広いフィールドをカバーするので、いろんな経験ができると言われたんです。また、困っている人を助けるというのも心に刺さりました。大変だけど成長できるし、役に立っている実感が得られる。それはそれまで味わえなかったことですから。

― 営業や販促のコンサルティングと事業再生のコンサルティングは全く違うのですか?

 寺嶋:やり方は違いますよ。営業や販促や製造は、その部分だけ見ればいいけれど、事業再生は網羅的ですから。

― 最も過酷なフィールドの一つですよね。

 寺嶋:そうかもしれません。でも私にとってはすごく水の合うフィールドでしたね。どんどん新しい知識を身につけられるし、様々な経験ができる。休みが取れず、「朝から朝まで仕事」というのが普通になって、体力的には過酷なこともありますが、どんどん成長していると実感でき、確実に役に立っていることを実感できるので、ワクワク感がありました。

― この『事業デューデリジェンスの実務入門』の執筆動機を教えて下さい。

 寺嶋:一人でも多くのコンサルタントが、短時間で高品質な事業調査報告書を作成できるようになってほしいからです。調査はどうしてもコストがかかるので、その分金額も高くなってしまい、零細企業は依頼しにくいんですよ。だから、中小・零細企業を相手にしている私たちのような、個人でやっているコンサルタントがスキルアップして、助けないといけない。

― コンサル料に大きな違いがあるんですね。

 寺嶋:私は一冊の調査報告書を作って、安くて30万円から、一番高いときで170、80万円くらいですね。大手コンサルファームですと、調査だけで数百万というところもあります。

― こうした状況の一番の問題はなんですか?

 寺嶋:病院に例えると、再生企業は重病患者でコンサルタントは医者です。今、この医者が不足していて、高いお金を払わないとちゃんと調べてくれないんですね。
また、調べてもらっても「あなたが悪いんです」と言われて終わりということもあります。重病患者なのに。
まだまだ事業デューデリジェンスができる個人のコンサルタントが少ないから、結局大手のコンサルファームに依頼がいって、単価が高くなる。だから、もっと品質の高い事業デューデリジェンスができる個人コンサルタントが増えない限り、単価は下がらず、零細企業の再生は難しい状況は続くのです。
そういった問題を解決するためにこの本を書きました。

― 教科書のように情報がすっきりと整理された一冊です。書く上で気を付けたことはなんですか?

 寺嶋:事業デューデリジェンスについて書かれた本がまだ少ないのですが、今出ている本は、知識だけに終始していることが多いんです。だから一人で、現場でできるようになることを踏まえて書いています。あとは、分かりやすさを重視しました。

― 実務で使える部分を意識された、と。ただ、実務で知識を使うのはとても難易度が高いと思うんですね。

 寺嶋:だから大切なのは実践を見据えて知識を得ることです。私自身、仕事の幅を広げて、深みを増したいと思って勉強をはじめたのですが、実務に還元することが前提にあったため、効率よくできました。

― イメージしながら勉強すると身に付きやすいですよね。コンサルタントの思考術が書かれた本はたくさんありますが、ただ読んだだけでは応用できないものが多いと思います。寺嶋さんはどのようにその思考法を身につけていったのですか?

 寺嶋:最も重要な思考法は「問題解決の手順」です。まずは現状を把握し、その中から問題点を見出して、原因を究明する。そして望ましい姿・ゴールを描いて、そのゴールまでの道筋を立てるのです。コンサルティングは多くの場合、この思考のプロセスに沿って導き出した解決策をクライアントに提示します。私は営業時代、売るだけでなくトラブル処理も多く、このトラブルを処理する時に、問題解決の思考法を身につけました。繰り返し、この手順で思考することが、問題解決力を高めるポイントです。

― 経営者の方とお仕事をされるなかで、どのように関係の距離を保つのでしょうか。

著者近影

 寺嶋:コンサルタント側が、経営者の問題を解決できるスキルを持っていることが絶対条件です。まずは合理的な関係がないと成立しません。その上で、人間関係を築くのですが、近づけば近づくほどいいというのが私の認識です。

― 最後に、読者の皆様にメッセージをお願いします。

 寺嶋:コンサルタントはどうしても単価を上げる、お客を取るというところが先行しがちになるけれど、コンサルタントとしての強みを身につけないと、良い仕事はできません。だから、まずは「これだけのスキルがあれば間違いなくクライアントの問題を解決できる」と自信を持って主張できる強みを作りましょう。そして、1つのベースとなる専門分野を確立したら、少しずつ領域を広げていくと、業務の幅が広がっていきます。1つ1つの領域で深いノウハウを身につけて、その領域が拡大していくと、色々なことが1人でできるようになって、仕事が楽しくて仕方がなくなります。
(了)

著者プロフィ―ル

寺嶋直史

 事業再生コンサルタント。中小企業診断士。株式会社レヴィング・パートナー代表取締役。 2010年に事業再生コンサルティング会社を立ち上げ、現在は全国の様々な業種の事業DDの他、実際に中小零細企業の現場に入って、経営のしくみ構築、業務改善、売上アップなど、幅広い再生支援を行っている。
著書に共著「社員をホンキにさせるブランド構築法」(同文舘出版)等がある。

目次

第1章
事業再生とは
第2章
事業デューデリジェンス(事業DD)とは?
第3章
事業DDで知っておくべきフレームワーク
第4章
ヒアリング力向上が事業DDの品質向上の鍵
第5章
訪問前にやるべき事前準備
第6章
事業調査報告書の全体構成と会社概要
第7章
事業調査報告書の外部環境分析
第8章
事業調査報告書における収益構造の特徴
第9章
内部環境分析~経営、組織、人事~
第10章
内部環境分析~営業活動~
第11章
内部環境分析~製造活動~
第12章
業種別内部環境分析
第13章
事業調査報告書とSWOT分析
第14章
アクションプランと事業計画書
このエントリーをはてなブックマークに追加