理不尽な給料―なぜサラリーマンは優秀でも公務員より安月給なのか?
著者: 山口 俊一
―職業別、地域別、雇用形態別など、さまざまな場面で理不尽な賃金格差が発生していることが分かり、被雇用者として、これはある意味で非常にショッキングな内容の本だと思いました。本書を執筆した狙いはなんだったのでしょうか。
「あとがき」にも書きましたが、読者や読者の家族が、就職先や転職先選択の際、あくまで報酬水準の観点から正しい判断ができる材料を提供したいということです。
もちろん「やりたい仕事」「自分に適した職業」が明確であるなら、そのことの方が優先度は高いでしょうが、もし同じ仕事をするなら「報酬の高い方」を選ぶ方がよいのではないでしょうか。
また「仕事の価値や能力、努力が正当に評価されて、それに見合った報酬が支払われる会社や世の中」に少しでも近づいて欲しい、という願いもあります。
―こうした理不尽な格差が存在していることに対して、被雇用者である私たちができることはなんですか?
まずは、実態を正確に把握し、これから就職・転職先を考えている人は、適切な選択をすること。たとえば、ある大学生が大企業に入りたいけれど採用してくれる会社がない。そのとき、(1)あくまで大企業に就職したいので就職浪人するのか?(2)中小企業の中から良い会社を見つけ就職するのか? (3)中小企業に就職するくらいなら、フリーターになるのか? といった選択肢の中からどれを選ぶかによって、その後の人生や生活は大きく変わります。私なら、断然(2)をお勧めします。
―ここからは本書で執筆されていることを中心にお聞かせ願えればと思います。まず、さまざまな資金格差が本書でつづられていますが、山口さんが最も理不尽だと思う格差はなんですか?
やっぱり公務員と民間企業の官民格差ですね。特に、退職金や天下りに対して。
ただし、公務員全ての賃金が高いと思っているわけではないのです。完全年功賃金のため、20代、30代の若手は決して高くありません。また、中央省庁で国の政策立案や法改正の中心的な役割を担っている人材については、一流企業並みの報酬が支払われるべきと思います。
あと民間企業の中に限定すれば、正社員と非正規社員の雇用間格差です。賃金差があること自体に問題があるのではなく、一旦正社員で入社した人は定年まで正社員の身分が保証され、パート・アルバイト、契約社員で入社した人は一生そのままという、格差の固定化こそが問題と考えます。サッカーのJリーグで、毎年J1とJ2の入れ替えがあるように、ダメな正社員と優秀な非正規社員の入れ替えが柔軟にできるようになれば、理不尽な状態はかなり解消します。
―年功序列と成果主義、平均してどちらの方が労働者は多く賃金を得られるのですか?
これは難しい質問ですね。優秀な人は成果主義、平均以下の実力の人は年功序列、という答えになるでしょうか。
私自身は成果主義論者ですが、完全な年功序列の会社があってもいいと考えています。そのような会社を希望する人材は少なくありませんし、それで優秀な人材が集まれば、会社としては十分成り立ちます。
―賃金格差という点からベストな就職先はどこだと思いますか? また、企業・業界選びで最も重要視すべき点はなんですか?
これまでは、公務員、独立行政法人などの準公務員、電力会社やガス会社といった規制産業、あとは総合商社や金融機関などの大企業でした。
これから就職先を考えるのであれば、今後も成長が見込まれる高収益の企業。たとえば電子部品や産業機械のメーカー・専門商社の中には、世間的に有名ではなくても、優れた企業がたくさんあります。優れた会社は、給料水準だけでなく、社員が成長できる環境がありますので、自らのレベルアップの観点からも有望です。
―本書にサラリーマンの過去10年くらいのサラリーマンの年間昇給率の平均値が1.5%とありました。しかし、リーマン・ショックまでは景気を持ち直し、企業は儲かっていたはずです。儲かっているのに昇給はなされない。では、今後、労働者の給料が増えるということはあるのでしょうか?
残念ながら、日本全体の給料水準が増えていくという見込みは薄いでしょう。今でも、 円高の影響もあり、中国などアジア諸国と比較すれば、高待遇ということになります。
しかしながら、会社ごとの収益格差はますます拡大していくと思われますので、高収益企業については、賃金アップも望めます。
―本書では超難関として知られる公認会計士が失業者養成資格になりつつあることを指摘しています。それはどうしてですか?
公認会計士などの資格自体には定年がありません。また、ここ何年かの間で、国の政策により必要以上に試験合格者を大幅に増やしました。その一方で需要はそれほど増えておらず、むしろ減っているくらいです。当然、供給過剰ということになり、仕事のない有資格者が大量発生することになったのです。これは、歯科医師なども全く同じ構造といえます。
―また、今後、失業者養成資格になりそうな職業はなんですか?
弁護士や税理士なども、これから資格をとろうかという人にとっては、厳しい環境が待ちかまえています。不動産鑑定士、土地家屋調査士、建築士といった、建築・不動産関連の資格も、国内市場では苦しいかもしれません。調剤薬局やドラッグストアの拡大で引く手あまたの薬剤師なども、今後の法改正によっては安泰かどうかわかりません。
―逆に今後ニーズが高まり、賃金が増えていく職業はなんだと思いますか?
たとえば新興国など海外市場を攻めたい会社は増える一方ですので、海外向けに英語を使った営業ができる人材、海外拠点の運営が任せられる人材などは、高い報酬が見込まれます。語学だけではダメです。「語学+仕事ができる」人材は、ますます有望ではないでしょうか。
―今後、本書で書かれている様々な種類の賃金格差はさらに広がっていくと思いますか?
いえ。「理不尽な格差」は、時間はかかるかもしれませんが、いずれ是正されていくと思います。世界的に見ても、先進国の賃金水準は頭打ちになり、新興国は上がっていくことで、確実に格差は狭まっています。いずれ、日本人より中国人の方が高給取りになるという予測もあります。国内でも、公務員や規制産業の給料水準は下がっていくでしょう。一方で、パートタイマーやアルバイトの時給は徐々にではあっても上がっていく傾向にあります。
―本書をどのような方に読んで欲しいとお考えですか?
特に、若いサラリーマンや学生の皆さん、学生を子どもに持つ親御さん。これからの職業選択次第で、いくらでも可能性のある人たちです。
―インタビュー読者の皆様にメッセージをお願いします。
職業や就職先を選ぶ際、皆さんは何を重視するでしょうか。仕事内容、会社の将来性、社風、勤務地、・・・。賃金以外にも、さまざまな要素があり、どれを重視するかは、人それぞれでよいのです。しかしながら、生活の糧である以上、給料水準も重要な判断材料であることは、間違いありません。
世の中の「理不尽な状態」を自らが直すのは難しくても、正しく理解し、自らが適切な選択をすることは可能です。
情報化社会と言われますが、案外正確な情報は伝わっていないように感じます。この本がきっかけとなり、皆さんの正しい企業研究、職業研究が進めば嬉しいですね。
株式会社新経営サービス 常務取締役 人事戦略研究所所長。
人事コンサルタント
中小企業から上場企業に至るコンサルティング、講演、執筆活動を中心に活躍している。職種別人事をベースにした独自の発想と、企業の実状に沿った指導に定評がある。
著書に「3時間でわかる職種別賃金入門」「成果主義を自分の味方につける法」「成果主義人事入門」「成果主義人事・賃金システム」「店舗経営者・店長のための高収益を実現する人事&人材育成」「会社をプロ集団に変える階層別新賃金システム」(以上、中央経済社)「自社に適した人事評価・賃金制度を1年間12ヵ月で作成するマニュアル」「中堅・中小企業の新賃金決定マニュアル」(以上、アーバンプロデュース)がある。