―― 『子宮を温めれば妊娠体質になる!』についてお話をうかがえればと思います。 普段は鍼灸師として活動されている宮﨑さんが、今回「妊娠」についての本をお書きになった理由から、まずはうかがえればと思います。
宮﨑:僕は「スタジオシュカ」という鍼灸院を経営しているのですが、そこでは一般的な鍼灸の治療だけでなく、不妊に悩んでいる方を対象にした治療も行っています。
そうした方々の治療をしていて感じるのが、鍼灸や体外受精といった治療を行わなくても、普段の生活習慣を変えるだけで状況が改善する人がかなり多いということです。
そういう人に、一度自分の習慣を見直してみて欲しいなということで、この本を書かせていただきました。
―― 「不妊」と「鍼灸」というのは、イメージとしてなかなか関連性が見えにくいところがあります。どういった経緯で宮﨑さんの医院では不妊の方々への治療を始めたのでしょうか。
宮﨑:一般的な鍼灸のイメージは、「体の痛いところに鍼を刺すと、その痛みがなくなる」というものだと思うのですが、本来の鍼灸はそうではなくて、体全体の状態を変えることで、調子を良くしていこうというものです。
たとえば、傷を塞いで治す力を「自然治癒力」と言いますが、傷の治りが早い人とそうでない人がいるように、自然治癒力は人によって強い人と弱い人がいます。妊娠についても同じことが言えて、妊娠しやすい人というのは自然治癒力をはじめ、人間が本来持っている力が強いんです。
この力を高めるためには、体全体の調子を整えないといけない、ということで僕の鍼灸院では不妊の方々に向けた治療を提供しています。その意味では「不妊」と「鍼灸」は、実はそれほどかけ離れたものではないと言えます。
―― たしかに、タイトルこそ「子宮を温めれば」となっていますが、内容を読むと体全体にアプローチしていることがわかります。
宮﨑:そうですね。体全体を変えることで、結果として子宮が温まりますよ、という風に考えていただければと思います。
―― 今、「体全体を変える」というお話があったように、本書では血行を改善し、体温を上げることで妊娠しやすい体質を作る方法を提唱されています。ただ、不妊のタイプと原因は様々です。 この方法で解決できる不妊と解決できない不妊があるのではないですか?
宮﨑:たとえば、「卵管」という卵子が通る道が生まれつき塞がってしまっている人がいるのですが、こういう場合に必要なのは手術であって、体を整えることでは解決しません。
このように「体の構造」に原因がある不妊は、この本で書いた方法では解決できません。
そうではなくて、体の構造も含めて男性の方にも女性の方にも問題がないのに、なぜか赤ちゃんを授からない場合。この種類の不妊であれば解決できると思います。
――男女ともに体の機能的には問題がないはずなのに、なぜか授からないというケースは、やはり血行や体温といったところに原因があることが多いのですか?
宮﨑:その場合が多いです。
ただ、体の構造や機能の問題をまったく解決できないかというとそんなこともなくて、たとえば「子宮内膜が薄いせいで妊娠しにくい」といったケースは、
体を整えて体質を変えることで子宮内膜が厚くなることもあります。
――血行の悪さや体温の低さが原因になっている不妊の場合、本人に自覚症状はあるのでしょうか。
宮﨑:本人は健康だと思っていることが多いです。 ただ、話を聞いていくと睡眠時間が毎日4時間くらいしかなかったり、ものすごいストレスを感じていて、それを見過ごしていたり、「ストレスなんて誰でもありますよ」と無視していたりする。 そうやって無理がきく体質というのはある意味ラッキーだともいえるのですが、赤ちゃんを作ろうとなると、無視してはいけない部分が出てきてしまいます。
―― 「卵子の老化」も妊娠の確率を下げてしまいます。なんとか老化を遅らせる方法はないのでしょうか。
宮﨑:遅らせる方法ということでいうと「健康に過ごす」の一言に尽きます。
ほとんどの人はストレスや悪い生活習慣が原因で、卵子の年齢が実年齢よりも高いのですが、体を整えることで卵子の年齢が実年齢と同じくらいまで戻るということはあります。
――本書で紹介されている「妊娠体質」は主に母体について書かれているように思うのですが、男性が「妊娠させやすい」体質に変わる方法はありますか?
宮﨑:男性も、基本的には女性と一緒です。やはり、食生活や睡眠などの習慣を改善することで、血行を良くして体温を上げて、ということになります。
――「冷え」が妊娠を遠ざけるとされる理由について、今いちど教えていただければと思います。
宮﨑:私たちは通常、単に「体が冷える」というだけでは、生死に関わるようなことだとはなかなか思いません。しかし、脳は体が冷えると「危険」と捉えるんです。
「もしかしたら絶対絶命の時かもしれない」と脳が判断すると、脳や心臓、肺など、止まると死に直結するようなところに優先して血液が送られます。
すると手足や生殖器官など、「なくても生きていける」場所には血が行き渡りにくくなるわけです。
子宮にしても、なくても死ぬわけではないですから、体が冷えるとやはり血が行きにくくなり、そうするとどんどん老化が早まってしまいます。これが「冷え」が悪い理由です。
――体温についてですが、何度以下が要注意、というのはありますか?
宮﨑:平熱が36℃以下の方は要注意でしょうね。
本当は36.5℃以下の方は気をつけてほしいのですが、それだとほとんどの女性が入ってくるでしょうし、男性も8割くらいは当てはまってしまいます。
だから、平熱が36℃以下にならないよう注意しつつ、生活習慣の改善によって36.5℃を目指していただきたいですね。
――体温というのは、血行が良くなれば上がっていくと考えればいいのでしょうか。
宮﨑:そうですね。血行がいい状態をキープできれば平熱は上がってきます。
――妊娠力を下げる習慣も興味深いものでした。 ただ、睡眠時間や不規則な食事など、仕事をしている女性にはなかなかハードルが高いものもあります。 仕事もできるだけ続けたい、でも妊娠もしたいという女性はどんなことに気をつけるべきですか。
宮﨑:これは難しいですよね。個人というよりは日本全体の問題だと思うのですが、まずは小さな変化を起こすことから始めてみてほしいと思います。
仕事を辞めたりといった大きな変化は、実際問題なかなか起こすのが難しいので、仕事を続けながらも、小さなことでいいので体にいい習慣をつけていくことが重要です。
体が本来持っていた力を取り戻して、妊娠しやすい体を作るには「睡眠」と「食事」「運動」が大事なのですが、寝る前に軽くストレッチをするとか、パソコン・スマホを見ないようにするだけで睡眠の質は上がりますし、体を温めるものを食べるというのも心がけていればできることです。運動も毎日1分でもいいのでとにかく続けてほしいですね。
――一般的に、男性は女性の妊娠についてあまりにも無知です。子どもを授かるために男性はどんなことを学ぶべきでしょうか。
宮﨑:子どもを望んでいるのに授からない時、女性の方が責任を感じてしまうことが多いのですが、
そうではなく不妊の原因は男女それぞれに同じだけあるということをまずは知っていただきたいです。
そのうえで、女性と同じくらいの知識を身につけるというのがベターなのですが、そうはいっても体のことに対する興味は女性に比べると少ないというのがあるので、
無理に勉強するよりも、家に帰ったら「今日はどうだった?」と話しかけて、女性の話を聞いてあげるなど、コミュニケーションを取ることを重視する方がいいかもしれません。
――最後になりますが、子どもを授かりたいと願う方々に向けてメッセージをいただければと思います。
宮﨑:不妊によって苦しい思いをされている方は凄く多いと思います。でも、苦しい思いを抱えているだけでは、現状が更にストレスになってしまいます。
全ての病気はストレスから始まるという言葉もあるほど、ストレスは体に悪影響を及ぼすものですから、今の状況を少しでも変えていくことが大事です。
この本が、今の自分と向き合って、小さな変化を起こしてみるきっかけになれば嬉しいですね。
(新刊JP編集部)
宮﨑圭太(みやざき・けいた)
Studio Shuca 鍼灸治療院代表
1977年、千葉県柏市生まれ。鍼灸の専門学校卒業後、都内のホテルや鍼灸院に勤務。
その後、34歳で独立し、地元の千葉県柏市に「Studio Shuca 鍼灸治療院」を開業。これまで治療した患者さんは2万2000人を超えており、頭痛、腰痛のほか、美容鍼灸や鍼による不妊治療も行っている。
特に、不妊治療については独自の研鑽を重ね、「不妊治療に効く鍼灸院」として地元でも評判になる。
現在は、患者さんのために、薬を使わない不妊治療、痛くない不妊治療を実践し、多くの患者さんを悩みと痛みから救っている。
Studio Shuca 鍼灸治療院ホームページ
http://www.studioshuca.com