ページトップへ

これだけできれば大丈夫! すぐ使える! 接客1年生 お客さまに信頼される50のコツ

本書の解説

クレームや炎上を防止! 元JALのカリスマ教官が教える接客のOK・NGポイント

例えば飲み会などでお店探しをする際に、インターネットを通してそのお店の前評判を確認する人は少なくないでしょう。そして、口コミ欄に「接客が最悪でした」と書かれていたりすると、「この店にするの、やめようかな」と思うかもしれません。

これは飲食に限ったことではありません。接客のミスがSNSにアップされ、炎上沙汰になることもあります。
ただ、接客の基本をちゃんとおさえることができれば、炎上防止どころかお店のファンの獲得にもつながるはず。気持ちの良い接客をしてくれるお店には、何度も通いたくなるものです。

元日本航空(JAL)の客室乗務員(CA)として賞を受賞し、客室教育訓練室の教官も勤めた七條千恵美さんの『これだけできれば大丈夫! すぐ使える! 接客1年生 お客さまに信頼される50のコツ』(ダイヤモンド社)は、お客さまから信頼されるための接客の基本50のポイントを教えてくれる一冊。
一体どんなポイントがあるのか、本書から3つピックアップしてご紹介します。

スタッフ間でのおしゃべり、お客さまに聞こえていませんか?

一緒に働いている気心知れた仲間とは、ついつい会話が弾んでしまうもの。しかし、仕事中であることを忘れて、お客さまにも聞こえるような場所で話が盛り上がってしまったことはないでしょうか。

例えば、こんなことがあったそうです。
「接客」「ホスピタリティ」「サービス」という分野で常に名前があがる、ある企業の施設を訪れた七條さん。その施設内で若い女性スタッフ2人が「ウソでしょ? マジうける」といった談笑をしていました。
これが街中のファストフードなら気にも留めないところですが、その施設は「サービスやスタッフの接客に高い期待をもって訪れる場所」であり、その企業イメージがガラガラと崩れていきかねない話し方、内容だったのです。
「上質」「高級」「伝統」などといったコンセプトを打ち出しているならば、その企業イメージにそった話し方や振る舞いをする配慮が必要ですよね。

他に、スタッフ間で行われる指導や注意の声がきつい口調や言葉の場合、聞いていて気持ちの良いものではありません。自分たちの会話内容やその姿がどのように受け取られているのか、いまいちど見直してみることが大切です。

マナーの悪いお客さまを野放しにしてはいませんか?

ものすごく大きな声で会話をするグループがいる、酔っぱらって他のお客さまに迷惑をかけるなどマナーの悪いお客さまがいた場合、どうしますか?

「他の人のふるまいに対して何か不満があるならば、スタッフに頼らずお客さまご自身がその人に言えばいいのでは」と思う人もいるでしょう。
七條さんはこの考えに対して、「快適な空間の維持、秩序のコントロール」も接客スタッフの仕事だと述べ、早い段階でスタッフがアクションをとるべきだと言います。

不満を抱えつつ我慢をしているお客さまの心の声にいち早く気づくことが、接客の大切なポイント。お客さまからのサインを見逃さずに応えることで、お店の好感度はグッとアップします。

もし接客マニュアルに載っていない対応を迫られたら

接客マニュアルについては色々な意見がありますが、七條さん自身は「マニュアルはあったほうがいい」という考えを持っているといいます。

しかし、マニュアルに書いてあること以外の対応を迫られることはよくあること。そんなとき、どんな判断基準を持てばいいのか。
七條さんは少し冷静に考えるべき3つのポイントをあげます。

  • (1)お客さまが、この対応はスタンダードではないと理解してくださっていること
  • (2)他のお客さまが不公平感をもたないこと
  • (3)その対応によって他のお客さまへの接客品質が低下しないこと

もちろん、マニュアル外の対応をしたら責任者への報告や、上司、先輩への相談や許可を得るなど、報連相を忘れずにしましょう。それらを踏まえた上で、判断基準を明確化することで、いざというときに困らない対応ができるようになるはずです。

お客さまからの問いかけに対する応対の仕方、問い合わせ対応、感謝の言葉をどう伝えるかなど、接客の基本を教えてくれる本書。

これから接客の仕事を始める人だけではなく、今、接客の仕事をしている人も、「やっているつもり」「できているつもり」を防ぐためにも、本書を一読してみてはいかがでしょうか。

(新刊JP編集部)

著者インタビュー

著者、七條千恵美さんお写真

人気が出る店のパラメータの一つとして、スタッフの「接客」の気持ち良さ、心地よさがあげられるだろう。一方で、接客が原因となり、クレーム騒ぎや炎上騒ぎになってしまうこともある。

今回は、「やっているつもり」「できているつもり」になりがちな接客の基本50のポイントを教える『これだけできれば大丈夫! すぐ使える! 接客1年生 お客さまに信頼される50のコツ』(ダイヤモンド社刊)を著した七條千恵美さんに、OK接客・NG接客や現場のリーダーや店長・オーナーの心得についてお話を聞いた。

七條さんは元JALの客室乗務員で、皇室チャーターフライトのメンバーに抜擢されたこともある“接客のプロ”。2010年から2年間、客室教育訓練室の教官として1000人以上の訓練生を指導した実績を持ち、現在は接客マナーをメインとした研修講師として活躍中だ。
さまざまな現場を見てきた七條さんならではの「接客」論をお送りする。

(新刊JP編集部)

TPOにそぐわない「残念な接客」を生まないためには

―― 今回上梓された『接客1年生 お客さまに信頼される50のコツ』は“接客の基本”がテーマとなります。約2年前に出版された前著の『接客の一流、二流、三流』(明日香出版社刊)との違いから教えて下さい。

七條: 前著では「一流の接客とは何か」ということを私なりの「一流、二流、三流」に分けてお伝えしたのですが、(お店の)オーナーさんや現場のリーダーの方々のお話をうかがう中で、やはり「接客の基本的な部分をどう教えたらいいのかわからない」「難しいことをやる前に最低限のことができるようになってほしい」という声を聞くことがありました。

それは、私自身もお客の立場として日々接客を受ける中で感じることでした。例えるならば、算数のテストです。最初に出題される基礎的な計算問題は、意外と大きい点数が配分されていますよね。そこでしっかりと点数を取らずに難しい問題ばかりに挑み、結果的に思う点数に至らない人が多いような気がしていました。
たとえ難しい問題が解けなくても、基礎点をしっかりと積み上げることができれば、平均点は取れるのではないかと。それは接客も同じで、基礎を疎かにしてしまい点数を積み上げられないから「残念な接客」になってしまうように思うのです。

―― 接客に限らず、仕事そのものに当てはまる例ですね。

七條: そうなんです。それに、向上心のある人は自分なりにどんどん学びますから、『接客の一流、二流、三流』も接客に対して興味や関心が高い方には読んでもらえたのではないかと思っています。ところが、接客初心者や改善が必要な人など、もっとも読んでほしい人にはなかなか届かないという歯がゆい思いがありました。

―― 先ほど、オーナーさんや現場のリーダーの方々からの悩みの声を受け取ったとお話されていましたが、スタッフの指導が難しくなっているのでしょうか?

七條: 自分も仕事をしながらのスタッフの育成は難しいという話はよく聞きます。また、どのような言い方で指導をすれば効果的なのか、モチベーションを下げないようにするには、という悩みもよく聞きますね。「ならば!」ということで、接客の基本にフォーカスした本を書いて、朝礼やミーティングなどで使ってもらいたいと思ったのです。

―― 「残念な接客」の例を一つあげてもらえますか?

七條: たとえば、「お客さまを名前でお呼びする」。これは、個別対応という面では良しされていますけれど、それさえしていればすべてがOKというわけではありません。以前こんなことがありました。不特定多数の人がいる病院の待合室で、女性の患者さんに向かってスタッフが「○○さま~!尿検査終わりましたか?」と…。大きな声で名前を呼ばれた患者さんは恥ずかしいだろうなと思いました。

「気にしないよ」という方ももちろんいらっしゃると思いますけれど、全員がそうではないはずです。名前を個別で呼ぶことは、患者さんとしてひとまとまりではなく、あなたを個人として「大切にしていますよ」というメッセージを伝えることです。「大切にしている想い」が抜け落ちて「名前でお呼びする=いい接客」という知識だけが上滑りした残念な事例ですね。

―― 例えば「お客さまを名前で呼びましょう」とルールを決め、マニュアル化をすると、そのルールが先行し過ぎて臨機応変に対応できなくなってしまうことがあります。それが結果的にNG接客につながることもあるのではないですか?

七條: 一人でやっていらっしゃるお店はマニュアルもいらないでしょうし、オーナーの目が届く範囲の人数であれば最低限のルールや方向性だけ決めれば良いと思いますが、人数が多いお店ですと、自分たちの接客について立ち返る場所として、マニュアルはあったほうが良いというのが私の考えです。

ただ、マニュアルは最低限のサービス品質の保持のためにあるものです。マニュアルに捉われ過ぎるのもよくないですよね。何かあった時に、自分の頭で考えることを放棄してしまうことにもつながります。

たとえば、接客において笑顔は大切です。接客に慣れていない人ほど、まずは笑顔で!と本にも書きました。ただ、だからといってお詫びをする場面でも笑顔だとおかしいですよね。実際にいるのですよ。なんでもかんでも笑顔ならいいと思っている人が(笑)。「いつでも笑顔で」ということがマニュアルに載っていても、その場の状況やお客さまの感情を考えて判断することが必要ですよね。

マニュアル外の対応を迫られた時の3つのポイントとは?

―― 本書を読むと、やはり接客はスキル的な要素もありますが、本質は人間同士のコミュニケーションだと感じました。

七條: その通りだと思います。「接客」は仕事ですから常にアンテナを張ることは大事ですが、自然体で心地のよいコミュニケーションをとることが理想ですよね。自分ありきではなく、お客さまありきで、相手の反応を見て対応することが何よりも大事だと思います。

―― また、マニュアル以外の対応を迫られた際の判断基準として3つのポイントをあげられていましたが、これは納得です。

七條: 私も読み返しながら、自分で「確かにこれはそうだな」と思いました(笑)。

マニュアル外の対応を迫られたときの判断基準(本書p.157より)

  1. (1)お客さまが、この対応はスタンダードではないと理解してくださっていること
  2. (2)他のお客さまが不公平感をもたないこと
  3. (3)その対応によって他のお客さまへの接客品質が低下しないこと

―― マニュアルにない対応を迫られた際の、リーダーへの報連相(報告・連絡・相談)についてはいかがですか?

七條: 接客の仕事に慣れないうちは、困ったことがあれば、まずは相談してほしいですね。最初から自信をもって判断できる人はいないわけですから。

ただ、ある程度慣れてきて自分の中に経験というデータがある場合は、「イレギュラーなことがあったのですが、このように対応しても良いですか?」と提案を交えた相談をするほうがいいと思います。「どうすればいいでしょうか?」だけでは成長がありませんからね。また、やむを得ず事後報告になる場合も、どのような対応を取ったのか、きちんと報告することが必要です。

マニュアル外の対応をして困るのは、後日「この前はやってもらえたのに何で今回はダメなの?」とお客さまから言われることではないかと思います。それを避けるために、マニュアル以外の対応はしないと決めてしまったほうが楽かもしれませんが、臨機応変であることこそ「人にしかできない価値」だと思います。

自分たちに非がある場合の特別な対応や、お客さまのご事情からなんとかしてご要望を叶えて差し上げたいときには、本書の判断基準に照らし合わせて、今回は「特別な対応」であることに納得していただいた上で対応をする。そうすれば「前はやってもらえたのに」という混乱を回避できます。

もちろん、その際にも上司や先輩への報告・連絡・相談をしっかりとすべきです。特にチームで働いている場合には、情報共有しておけば次にそのお客さまが来店した際に、「あのお客さまは以前イレギュラー対応をしたお客さまだな」という連携も取れます。

―― 他にイレギュラーの対応で気をつけるべきことはありますか?

七條: 他のお客さまに不公平感を抱かせないことも大事です。また、そのお客さま対応にかける時間や提供するモノによって、他のお客さまへの接客品質が下がらないようにすることも重要ですね。

―― クレームを激しくつける人への対応によって、他の人への接客がなおざりになるというケースもありますね。

七條: クレームの内容によって対応方法は変わりますが、それでもやはり他のお客さまが十分な接客を受けられないことによって不公平感を持たれることは極力避けたいです。

想定されているケースとは少し違うかもしれませんが、たとえば飛行機に搭乗するとき、赤ちゃん連れのお母さまは大変ですから、CAとしては目もかけますし手助けもします。周囲のお客さまも「赤ちゃんかわいいね」と優しい目を向けてくださる方が多いのですが、一方で「何で子連ればかり特別待遇するんだ」という空気を出されるお客さまがいらっしゃることもあります。

そのようなお客さまに気づいたならば、不公平感を少しでも和らげていただくために目が合えばニッコリと微笑む、「機内は寒くないでしょうか?毛布をお持ちしましょうか?」「何かお飲み物はいかがですか?」と声をかけます。そうすることで「貴方さまのことも大切なお客さまだと想っていますよ」というメッセージを感じていただくことができます。目の前の困っているお客さまだけを見るのではなく、広い視野を持って、その周りのお客さまにも目を配ることが大切だと思います。

オーナーや店長が知っておくべき、接客の仕事の指導について

―― 本書はオーナーやリーダーといった人たちからのニーズもあって執筆されたとお話されていましたが、接客という仕事は経験値が非常に重要で、失敗から学ぶことも多いと思います。その中で、現場のリーダーが心がけるべき「上手い失敗のさせ方」についてお聞きしたいです。

七條: これは上手い失敗のさせ方というよりも、スタッフが失敗してしまったときのフォローが大事なのかなと思います。

同じ失敗でも、そのスタッフがどのくらい(仕事に対して)準備をしてきたのかにもよります。事例ごとにも変わってきますが、私の場合はもし失敗をした場合、自分基準で「それはダメでしょ」と相手を否定するのではなく、「お客さまから見てどう感じると思いますか?」とお客さま視点で考えてもらうようにしていました。ほかに「会社がお客さまと約束していることは〇〇ですよね。だとすれば、どうすべきでしたか?」とか。

教官として客室乗務員の訓練生たちの指導にあたっている中で、「これを言うと、きっと泣かれるだろうなあ…」と思う言葉もありました。けれども、それを伝えないと改善できないのであれば、それは心を鬼にして指摘するしかありません。

―― 厳しいけれども、成長のため。

七條: はい。お客さまの前に立つわけですからね。また、その訓練生がどういう気持ちで仕事と向き合っていたのかが大事なのです。自分の失敗やミスを素直に反省していたり、ショックを受けている訓練生に追い打ちをかける必要はなく、「訓練で失敗したことで多くのことに気づけて良かったのですよ。もう本番では失敗しないはずです」「一生懸命準備してもそういうときはあります。次、がんばりましょう!」と励まします。問題は、自分のミスを素直に認めることなく自分以外の責任にする訓練生や後輩がいたときですね。

―― なるほど。まず他責に向かってしまう。

七條: たとえば、本来は自分が確認していれば防げたミスなのに、まず「前に使った人がそのままだったので…」と言う。その気持ちは分かります。けれども、まずは「自分の確認ミスでした」ですよ。詳細を聞かれたならば、「前任者がやっていたので、私も確認を怠ってしまいました」と、まずは自分のミスを認めて反省することが大事です。自己保身の言い訳をする場合には、厳しいようですが「前任者だけの責任ですか?」と怖い顔でいうこともありました(笑)

―― 他に七條さんの中で意識されていたことはありますか?

七條: 訓練生を注意した後です。そのあとで指導を受けた訓練生がどんな行動を取るか、どれだけ変化を見せるか。そこは見逃さないように意識していました。指導直後にはまだ完璧でないとしても些細なことでも改善していれば「変わりましたね!」「前よりも良くなりましたね!」と声をかけたり褒めたりすることを忘れないようにしていました。他には、かなり厳しいことを伝えた場合には、その訓練生と仲良くしているクラスメイトにフォローをお願いしたこともありましたね。

「こうした方がいい」と伝えるのは簡単です。けれども、それを腑に落とさせて自らの意思で行動に向かわせることにとてもエネルギーを使いました。どういう角度から指摘すれば、理解してもらえるのか?どのタイミングで指導すれば効果的なのか?いつもそのようなことばかり考えていたような気がします。

接客のプロが考える、接客という仕事の魅力とは?

著者、七條千恵美さんお写真

―― 七條さんが考える、接客の仕事に向いている人はどんな人でしょうか?

七條: お客さまの役に立ちたいと思う、よく気がつくということも大事ですが、軸をちゃんと持っている人ですね。これは接客の仕事に限ったことではないですが、軸を持っていないと「怒られて怖いからOKした」「まあいいかなと思った」などお客さまや職場の仲間を混乱させます。その先にどのような影響が出るかを想像できない人は考える練習が必要ですね。

―― マニュアル外の対応をして不公平感を抱かせてしまったり。

七條: そうです。自己保身からマニュアル外の対応を安易にOKしてしまい、他のスタッフがお客さまから「君は融通が効かないなあ」と言われてしまうこともあります。そうならないように「今回は特例です」とうまく伝えることや、状況によっては毅然と断るという場面にも対応できないと困ります。もちろん言い方には配慮が必要ですけどね。

―― 逆にファンやリピーターがつくような、応援される接客をする人はどんな特徴を持っていると思いますか?

七條: まずは愛嬌がある人ですね。これは私とは逆のタイプなのでうらやましいのですが(笑)、「なんだかあの子は怒れないよね」という感情を抱かせる愛嬌をもっている人は強味になりますね。もちろん愛嬌だけで乗り切れないときもありますが、かなりの武器であることは間違いないと思います。

その他に応援されるスタッフの持つ特徴としては、「常にベストを尽くそうとする取り組み姿勢」です。愛嬌という武器がない私はそこで勝負するしかありませんでしたが(笑)、それは新人もベテランも同じです。新人ならば、まだまだ未熟な接客で臨機応変さにも欠けますが、一生懸命仕事をしていることは伝わります。もちろんお客さま全員が「一生懸命やっているから」というだけで応援するわけではないですけど、経験上ほとんどのお客さまはそのような姿を好意的に見てくださっていました。

接客のプロである以上は、仕事に対してベストを尽くすべきだと思います。けれども、パーフェクトにいかないときやミスをすることもあるのが人間。そんなときにお客さまが「そういうこともあるよね、大丈夫だよ」と許してくださるのか、「何やってるんだ!もういいよ!」とお怒りになるのかは、そのスタッフの取り組み方やお客さまとの向き合い方が大きく影響していると思います。

―― まさに仕事に対する心構えの部分ですね。

七條: はい。たとえば、間違った敬語を使ってしまったとしてもその一回でお客さまをすぐに不快な気持ちにさせるとは限りません。

ただ、「言い方」はその一つで相手を不快にさせてしまうこともあるわけです。先日、あるお店でカードの切り替えをしたのですが、スタッフに「ポイントも移行できますよね?」と確認をすると、ぶっきらぼうに「今やりますので」と言うのです。「できる」という意志表明だと思うのですが、こちら側からすると面倒くさそうな印象を受けるものでした。

―― その流れで質問なのですが、コミュニケーションが苦手な人もいると思います。接客の仕事につかなければいいという話ではあるのですが、その仕事をやることになってしまったときはどうすればいいのかな、と。また、接客の仕事を通してコミュニケーション下手を克服したいと考えている人もいると思います。

七條: そのような方にいきなり接客でお客さまの心をつかめとは言いません。まずはお客さまをイラっとさせない、モヤっとさせないことですね。あとは笑顔を大事にすること。ただ、笑顔が苦手な方も多いと思います。表情の改善は実はとても難しいのです。そのような場合には、せめてお釣りを両手で渡す、挨拶をするときは下を向かない、御礼を言う時は顔を見て言うなど、誠実な態度を意識してもらいたいです。

自分には悪気はなくて「ちゃんとやっているつもり」でも、お客さまから見ると印象が良くないこともあります。そこで誤解を与えてはもったいないですから、表情が乏しかったり、口下手でも別のところで誠実さを出して取り返すことが大事ですね。

―― 七條さんが考える接客の魅力について教えて下さい。

七條: 堅い言葉で言えば、「人にしかできない感動価値の提供」になるのですが、私はCAでしたから、シンプルに「この飛行機に搭乗して良かった」と思っていただきたかったのです。「飛行機に乗ってゆっくりできた」「楽しかった」「乗るのが怖かったけれど安心してフライトできた」など小さなことですが、自分がCAとしてお客さまにかかわったことで、少しでもご満足いただけることが嬉しかったです。

また、フライト中にはいろいろなことが起きます。もちろんマニュアルにないことも求められます。その中で状況を見てどうすればいいのかを考えて、工夫や機転でうまく対応できたときの達成感を味わうことも好きでした。

―― 最後に、本書をどんな人に読んでほしいとお考えですか?

七條: 接客の初心者の方はもちろん、接客の仕事をする中でいろいろな情報に振り回されている方にも立ち返るポイントとして読んでいただきたいです。

また、経営者や社長、店長、人事などといった方々にも読んでいただいて、朝礼やミーティングなどで活用してもらえたらと思います。どのように指導すればいいのかわからない、改善が必要だということはわかっているけれどうまく言葉にできないという人もいらっしゃいます。本書ではこれまで聞いてきた悩みや私が日常で出会った事例を織り交ぜて説明していますので、その事例をきっかけに職場のみんな学んでいただけたらと思います。