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「知らなかった」では済まされない 日本一わかりやすい相続の話

遺言書を書いておけば大丈夫、財産が少ないから財産目録はいらない、成年後見人を付ければ安心はすべて間違い!

本書の解説

どんな人でも他人事とはいかないのが「相続」。
「相続なんて資産家だけのもの」と考えられがちだが、そうではない。むしろ、大きな財産のない普通の家だからこそ、相続はもめやすい。そう語るのが『ホントは怖い 相続の話』(ぱる出版刊)の著者で税理士・公認会計士の木下勇人氏だ。

本書は「税理士が伝える相続とはこういうものだ」というイメージとかけ離れた内容となっている。そこには木下氏の「世の中にある相続の情報は相続税の節税に偏りすぎている、節税よりももっと大切なものを見失ってほしくない」という思いがあるという。

木下氏はまた、「うちの家族は仲がいいからもめるわけがない」というのも間違いだとしている。どんなに仲が良くても、財産らしい財産がなくても、もめる時はもめる。それが相続なのだ。

「仲良し家族」が相続でもめる理由

本書で木下氏は、相続についての基礎知識や相続税対策のノウハウを解説するとともに、相続にまつわる誤解についても紹介している。

たとえば、相続の話になると「うちの家族は仲がいいから」と、もめる可能性を考えず、相続対策を後回しにしている人は少なくない。しかし、いかに仲がよくても、親が亡くなり財産を分け合うような年齢になっていれば、一般的に考えて結婚していたり、進学などでお金がかかる年齢になった子どもがいるケースが多いはずだ。

もちろん、直接の相続人である息子たちや娘たちはもめないように互いに気をつかって相続を進めようとするはずだ。しかし、その夫や妻も同様とは限らない。「もらえるものはもらってよ」という感覚になる可能性は十分にあるだろう。

また、木下氏によると、両親のうちのどちらかが亡くなった際の一次相続よりも、残された方の親が亡くなった際の二次相続の方がもめやすいという。一次相続の場合は残された親の存在があるため丸く収まることが多いが、二次相続は子どもたちだけで相続することになる。そこにそれぞれの配偶者がいると「もっともらえないの?」となりやすいのだ。

相続税対策をする必要がなくても「財産目録」を作るべき

また、遺産相続にあたってあると便利なのが、相続させる側(親)の財産を一覧にした「財産目録」だが、特筆すべき財産がなく、相続税対策をする必要がない家の場合「財産目録を作る意味がないんじゃないか」と考えがちだ。

ただ、これは間違い。財産目録は相続税対策のためだけでなく、相続する側がスムーズに手続きできるようにするためでもあるからだ。親が亡くなった後、子どもたちが遺産の全容を把握するのは大変な作業になる。

だからこそ、不動産はどこになにがあるか、預貯金や株の状況、あるいは借金(会社の連帯保証を含む)など、プラスのものもマイナスのものも目録として残しておくことで、相続人たちの手間を減らすことができ、トラブルの回避にもつながるのだ。

相続というと「相続税対策」ばかりがクローズアップされるが、節税だけ考えていても相続をスムーズに乗り切ることはできない。また、相続税が発生しない家は相続でトラブルにならないということでもない。

本書では、相続させる側(親)にとっても、相続する側(子ども)にとっても有益な情報が多く紹介されており、誰もがいつかかならず直面する相続について、「知っておかないとまずい情報」も「知っておくと便利な情報」も手に入る。親が元気な今だからこそ、そして自分が元気な今だからこそ手に取ってみるべき一冊だろう。

(新刊JP編集部)

インタビュー

相続には「節税」より大事なことがある

――ホントは怖い 相続の話』についてお話をうかがえればと思います。私の両親はまだ元気なのですが、相続の話は他人事とは思えません。

著者、木下勇人さん写真

木下:相続のことって、自分がいざ相続人にならないとわからないんですよね。ご兄弟はいらっしゃいますか?

―― 弟が二人います。私と上の弟は結婚していて、ともに子どもはいません。下の弟だけ独身ですね。

木下:それであれば、今はまだ相続でもめるような状況ではないかもしれませんが、いずれ全員結婚して子どもができて、これから学費でお金がかかるということになったら、やっぱり相談に行くのは親のところなんですよ。

でも、自分の知らないところで弟が子どもの学費を親にもらっていたら、やはり気持ち的に穏やかじゃないですよね。

―― それはそうですね。「なぜそっちだけ?」となると思います。

木下:相続でもめるのって本当にそれだけのことなんですよ。要は兄弟の間で「不公平なんじゃないか」というわだかまりができてしまう。

両親からしたら孫はかわいいですから、三人兄弟のうちどこかの家で初孫が生まれたらお小遣いをあげるでしょう。そうすると他の二人には不公平なんじゃないかという気持ちが出てきて、それは自分だけでなく妻にも伝染してしまう。最悪の場合は家族対家族の対立になってしまったりするんです。

―― 親族同士のお金のトラブルは避けたいですよね。

木下:家族間でもめるともうぐちゃぐちゃです。両親のどちらかが亡くなった場合は、まだもう片方が生きているのでそんなにおかしなことにはならないのですが、そちらも亡くなった時の「二次相続」がもめやすい。

たとえば、先にお父さんが亡くなったとしたら、兄弟の誰かがお母さんにうまく取り入っていつのまにか自分に有利な遺言を書かせていたり……。

―― そんな話が現場であるんですか?

木下:そんなのばっかりですよ。相続になると財産目録を作って故人の財産を明らかにしたうえで相続税の計算をするのですが、財産目録を見ながらみんな「自分が何をもらえるか」と考えますからね。それで、たとえば「自分は長男だし弟たちにちょっと譲ろうか」などと考えようものなら、奥さんが怒る。

―― タイトルにある「ホントは怖い」は、「相続について知っておかないと怖い」というだけでなくて、「節税対策だけ考えていると親族内でもめごとが起きやすくなりますよ」というメッセージでもあります。これはどういうことなのでしょうか?

木下:ひと言でいえば「シワが寄りやすい」んです。極端な話ですが、自分の弟が家を買うからということで、親から生前贈与で3,000万円もらっていましたとしましょう。住宅を建てる目的でお金を贈与する際には非課税枠があって、住宅の種類や契約日にもよりますが3,000万円まるまる非課税で贈与できることがありますから、確かに節税にはなります。

だけど、兄である自分はすでにマンションを買っていてローンを払っている場合は、同じように3,000万円生前贈与しようとなっても非課税ではありません。だからといって自分には何もなしだったら到底納得できる話ではないでしょう。

―― 節税はできたけど、不公平じゃないか、と。

木下:そうですね。兄からすれば「非課税じゃなくてもいいから、俺にも3,000万円くれよ」です。もらえないよりはもらったほうがいいからと。実際そうすれば公平感は出るのでしょうが、節税だけが頭にあるとなかなかそうはしないんです。

もう一つ例を挙げましょう。亡くなった人の自宅を同居していた人がそのまま相続すると、自宅敷地の相続税評価は8割引になるんですね。たとえば世田谷区に1億円(建物は古く価値なし)の自宅(敷地330m²)を持っていた親が亡くなった場合を考えてみましょう。両親の片方はすでに亡くなっていて、二次相続だとします。法定相続人は息子2人で、長男が親と同居していたと想定します。

8割引ですから、家を長男が相続すると、相続税評価は2,000万円なんです。それに加えて預貯金が2,000万円あったとしたら合計で相続税評価は4,000万円。節税効果は抜群です。

ところが、これがもめやすい。「俺が不動産を相続するから、預貯金の方は持っていってよ」と言われても弟の方は納得しません。弟からしたら「家と預貯金で合計1億2,000万なんだから、その半分の6,000万円くれよ」となる。

―― たしかにそうですね。

木下:もっと言えば、家の分の1億円というのは、土地の立地ごとの値段が定められた「路線価」という国税庁が出している資料をもとに算出したもので、時価とは違います。今は不動産が値上がりしていますから、この世田谷の家の時価は2億円だったりする。そうなると弟は「2億2,000万円の半分よこせ」と言えてしまうわけです。

―― このケースでもめないようにするにはどうすればいいのでしょうか。

木下:「家は同居している長男に。預貯金は次男に」と遺言を残しておくしかないでしょうね。ただ、あまりに公平性がない場合のために民法で「遺留分」というものが定められていて、この場合は二次相続で法定相続人が兄と弟の2人ですから、弟は遺産の4分の1まではもらう権利があるんです。

だから、先ほどのケースで考えると、弟からしたら時価2億2,000万円の4分の1ということで5,500万円まではもらう権利がある。「残りの3,500万円をくれよ」ということはできます。ただ、遺言がないと「1億1,000万円くれよ」となって出口が見えない争いになってしまいますから、遺言はあったほうがいい。

いくつか例を挙げて説明しましたが、相続は「節税対策」と「もめない分け方」が両立していないとだめなんです。そのために遺言は有効な手段ではあります。とはいえ日本人で公正証書遺言を書いている人は10%もいないのが現状ですが(自筆証書遺言を含めるともう少し多くなるかと思います)。

相続の専門家が語る「もめる相続」と「もめない相続」の違い

―― 「相続はお金持ちのもの。自分には関係ない」と思われていたりもしますが、これは間違いだとされていますね。

木下:節税の話ともめないためにどうするかという話は分けないといけません。相続税がかかるほどの資産がなければ、節税としての相続対策は不要ですが、もめないための相続対策ということであれば、どんな家でも無関係ではないんです。

じゃあどんな場合にもめるかというと、これは「分け方」の問題です。法定相続人が3人の場合、相続税の基礎控除額は4,800万円なので、お父さんがすでに亡くなっていて、お母さんの資産がたとえば4,000万円だった場合、相続税の心配はいりません。ただ分け方でもめるケースがあります。

4,000万円の資産の内訳が「預貯金1,000万円+3,000万円の家」で、しかも3兄弟の長男夫婦がその家に同居していたりするとトラブルになりやすい。だって、同居していた人はその家をもらうしかないじゃないですか。

―― なるほど。

木下:長男が「預貯金の1,000万円を残りの2人で500万円ずつ分けてくれ」といったところで、その2人は納得できないでしょう。「兄ちゃん、もらいすぎだからお金を少しくれ」となる。で、長男は「そんなお金ないよ」と。

―― 弟たちは「それなら家を売ってお金を作ればいいのでは」となります。

木下:そうです。でもそれは、長男からしたら「何言ってんだ」でしょう。これは額が一桁下がって何百万円の話でも同じです。普通の人にとって、100万円単位のお金が無税で入るというのは大きなことじゃないですか。相続でもめるかもめないかは分け方の問題というのはそういう意味なんです。

―― 財産が預貯金だけとは限りませんからね。

木下:お金だけなんてありえないですよ。ほとんどの場合は不動産があったり、生命保険があったりします。

亡くなった親が死亡時に3,000万円入る生命保険に加入していて、保険金の受取人指定が長男になっていたとしたら、法的にはその保険金は長男のものです。兄弟と分ける必要はない。

それに加えて預貯金が3,000万円あったら、相続ではそれを3兄弟で分けます。これが「俺は保険金が3,000万円入ったから、預貯金の方は1,500万円ずつ分けな」とは、実際なかなかならないんです。長男ががめつい人だと保険金の方は置いておいて「3人で1,000万円ずつね」と平気で言ったりする。

「自分はそんなことは言わない」と今は思うかもしれませんが、その場になったら結構こういうことを言うんですよ。だって、相続の時にたまたまリストラされて仕事がなかったり、何らかの理由でお金が必要だったりすることもあるわけじゃないですか。なんだかんだ一度にまとまったお金が入るのって退職金と相続くらいですからね。

―― 相続では財産目録を作ったり、相続税の申告をしたりと税理士のお世話になることが多いと思いますが、信頼できる税理士の見分け方はありますか?

木下:一年に相続税の申告を何件やっているか聞いてみるのがいいと思います。年間の申告件数を税理士登録者数で割るとだいたい1.8くらいになるので、単純計算で平均すると、税理士って年に2件相続をやるかやらないかなんです。

それを考えると年間に10件くらいやっている税理士だったらまあ慣れている人なのかなという感じですね。でも、こういう数字は誇張できてしまうものなのですが。

また、相談した時に節税の話ばかりする人はやめた方がいいです。相続で何を大事にするかは人によって違うはずなので、その価値観に寄り添える税理士の方がいいでしょうね。

―― 先ほどお話に出た「遺言」についてもお聞きしたいです。遺言は書くべきだが、書けばすべて丸く収まるわけでもないと。

木下:そうです。さっきのお話のように「遺留分をよこせ」と言われることは多々あります。

そこには遺言を残す側の心情が絡んでくることが多いんです。勘当した息子がいて「あいつには分けなくていい」と遺言に書いたとしても、息子の方が「俺にももらう権利がある」といって遺留分を求めてきたり。

あとは、地主の家などは不動産を継いでいかせないといけませんから、相続の時に長男に偏らせることが多いのですが、やはり弟や妹が不満に思うケースが多いですね。いきなり長男の家に内容証明を送りつけてきたり、なかなか物々しいですよ(笑)。

―― となると、財産を残す側は遺言に加えてどんな準備をしておけばいいのでしょうか。

木下:今のお話を踏まえると、遺留分だけは用意しておかないとまずいですよね。分け方が不公平だと誰かが言ってくる前提で、その人が最低限もらえる分のお金は用意しておくという。

それをやっていないと、たとえば1億円の自宅を相続した兄が、預貯金の2,000万円を相続した弟から不公平だと言われて、遺留分を払うために家を売らないといけなくなったりするんです。

あとは、遺言の付言事項を利用するという方法もあります。遺言には付言事項といって最後にメッセージを書けるんです。そこに「兄弟仲良くね」とか「こういう思いで遺言を書きました」というメッセージを残しておくのもいい方法です。人間って最後は感情論ですから。

―― 遺言の内容が生前に聞かされていた話とちがったり、知らなかった事実が遺言で明かされていたりするとトラブルになりやすいように思います。遺言は書いたら生きているうちに相続人に見せた方がいいのでしょうか?

木下:本当は見せた方がいいとは思います。ただ、親の気持ちとしては遺言を見せて財産を明かしてしまうと、子どもたちに当てにされるというのがあって、あまり見せたがらない方が多いですね。

―― 遺言を見て、自分の相続分が1億円あると知った息子が、ある日突然仕事を辞めてしまったり……。

木下:そういう感じです(笑)。逆に取り分が兄弟より少ないと知ったら、孫を利用してでも親と交渉しますよ。こういうのは相続の現場では本当によくある話です。

―― これまでに手掛けた変わった相続の事例がありましたら教えていただきたいです。

木下:離婚歴があるバツイチ同士の夫婦の相続の事例が風変わりでした。実際にあったケースなのですが、その夫婦には息子が1人いて、妻の方には前夫との間に娘が1人。実子である息子の方は両親とケンカ別れして出て行ってしまっていた一方で、妻の連れ子は継父である夫とも仲が良くて、3人で暮らしていました。

このケースって、妻が亡くなった時の法定相続人は夫と息子(ケンカ別れ)と連れ子の3人になるわけですが、夫が亡くなった時は妻と実子である息子(ケンカ別れ)の2人だけです。夫は妻の連れ子をすごくかわいがっていたのですが、その子には財産を残すことができません。

で、夫が亡くなったんですね。かわいがっていたのなら、連れ子を養子縁組しておけば財産を残せたのですが、養子縁組もしてなければ遺言も残していなかった。夫はケンカ別れしていた息子に財産を残す気はなかったのですが、遺言がない以上半分は息子(ケンカ別れ)に権利があります。誰が相続人なのかでもめた事例ですね。

―― 最後になりますが、相続を控えた方々にアドバイスやメッセージをお願いいたします。

木下:節税は後回しでいいので、まずはみんなが納得するような相続を心がけていただきたいです。

そのためには親と普段から会話しておくことです。都心に出てきてしまっているとどうしても親や実家との関係が希薄になってしまうのですが、そうなると実家の家屋や不動産にも思い入れがなくなって「財産」という目でしか見られなくなってしまいます。

だから、経済合理性だけで「売っちゃえばいいじゃん」となるのですが、親の気持ちとしては残しておいてほしい思い入れのある自宅かもしれません。売らずに残してほしいと生前ちょっとでも言われていたら、どうにかして守ろうという気にもなりますが、両親と会話をしていないとそういう親の思いがわかりません。不動産をどうするかによって兄弟との財産の分け方も変わってきますしね。

また、財産を相続させる側は自分の意志を子どもの側に伝えておくべきです。相続っておもしろいもので、親が死んだ時に財産の分け方で散々苦労した人が、自分が死ぬ時は遺言も何も残さずに同じ苦労を子どもたちにさせてしまったりする。あとあとトラブルにならないためにも、お互いにコミュニケーションをとっておきましょう、ということはお伝えしたいですね。

(新刊JP編集部)

書籍情報

目次

  1. 【はじめに】
  2. 【Chapter1】 「もしも」で考えるあなたの相続
  3. 【Chapter2】 ハウツー本には書いてない、相続税対策の裏話
  4. 【Chapter3】 それって思いこみかも!?相続の常識 ウソ・ホント
  5. 【Chapter4】 あらためて聞きたい!相続のソボクな疑問
  6. 【Chapter5】 税理士の僕がやろうと思っている相続の形
  7. 【おわりに】
  8. ★贈与契約書のフォーマット
  9. ★財産目録のフォーマット

プロフィール

木下 勇人

相続・事業承継専門『税理士法人レディング』代表。税理士。公認会計士。宅地建物取引士。不動産鑑定士第2次試験合格者。AFP資格認定。
1975年、愛知県津島市出身。大学時代に宅建、不動産鑑定士を取得。28歳で公認会計士試験に合格し、「監査法人トーマツ」名古屋事務所に入所。上場企業級の非上場会社オーナーファミリーの事業継承対策に従事。約5年勤務の後、33歳で独立し、名古屋で公認会計士木下事務所・木下勇人税理士事務所を開設。翌2009年に、相続・事業承継専門の税理士法人レディングの代表となる。2017年、東京にも事務所を開設。現在、全国の税理士向け、保険募集人向け、不動産事業者向けなど、相続を取り巻くプロ相手に年間150回の研修講師をしながら、相続に関する情報を発信している。