だれかに話したくなる本の話

新世代で最も勢いのある放送作家が語るコンテンツとの接し方は「食わず嫌いをしない、コンテンツ全部見」

テレビでは今、霜降り明星をはじめとした「お笑い第7世代」の活躍が目覚ましい。

そんな第7世代にも、仕掛け人といえる同世代の「裏方」がいる。その代表的な存在が放送作家の白武ときおさんだ。

「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!」(日本テレビ)や「霜降りミキXIT」(TBS)といったテレビ番組に放送作家として携わる一方で、霜降り明星のYouTubeチャンネル「しもふりチューブ」をはじめ、「みんなのかが屋」「ジュニア小籔フットのYouTube」など、芸人チャンネルにも多数参加。 霜降り明星の粗品さんからは「3人目の霜降り明星」と言われ、白武さんの仕掛けるものが次のトレンドになるとすら評価されている。

そんな白武さんへの自身の企画の考え方やコンテンツとの向き合い方を明かした初の著書『YouTube放送作家 お笑い第7世代の仕掛け術』(扶桑社刊)についてのインタビュー。ここでは、コンテンツの「浴び方」、そして今後についてお話を聞いた。

(取材・文:金井元貴)

■まさにコンテンツを「浴びる」。白武ときおのスタイルとは

――この本の巻末には白武さんが選んだ「必見コンテンツ100選」が掲載されています。お笑い、映画、ドラマ、書籍などから選ばれたコンテンツを通して、白武さんの頭の中をのぞけるような感じがしますが、選ぶ際のポイントはどこに置いたのでしょうか?

白武:基本的にはサブスクやDVDとして手に取れる、観やすいものがいいと思って、最近の作品を軸に選んでいます。古典作品も好きなんですが、スタンリー・キューブリック監督といっても敷居の高さを感じられてしまうかもしれないので、そこはほどほどにして、まずは近年のアクセスしやすい作品の中で選んだという感じです。

――バラエティやドラマは2000年以降の作品がメインですね。また、ドラマは海外ドラマが中心です。

白武:僕自身、『24』以降の海外ドラマブーム直撃世代ですし、お笑いコンテンツについてはソフト化されているものを選んでいるので、自然と2000年以降の作品が多くなりました。

―― 一方で映画は20世紀の名作も多いです。

白武:代官山蔦屋書店が好きで、徒歩ですぐに行けるところに住んでいます。本も映画もアーカイブがすごいので、書斎やアーカイブセンターのように使っています。お店の一画に、東京でもそこにしか置いていないような、どのサブスクにも配信されていない珍しい名作映画がたくさん置いてあるんです。

サブスクは手軽だし、作品数も多いけれど、権利の関係で見られないけれど本当に素晴らしい名作があるので、サブスクだけで「名作を観た」と考えるのはちょっと危ういかもしれないと思いますね。

――TSUTAYAから離れられない感じがありますね。

白武:学生の頃は毎週TSUTAYAに通って、映画やお笑いのDVDを10枚借りて、それを1週間で観て返すということを続けていました。とにかく映画とお笑いのDVDをずっと観ていました。

――まさにコンテンツを浴びている感じですね。

白武:そうですね。毎週10枚借りるので、1日に1枚だけでは収まらないんですよ。まさに〆切があってそれを達成しないといけないみたいな感じで。

――コンテンツに触れるときに意識していること、ルールみたいなものは白武さんの中にありますか?

白武:基本的には数珠つなぎで、好きな作品の監督や製作チームの他の作品は確実に見ます。あとは、話題になっているものですとか、信頼している人や身近な人が「面白いよ」とおすすめしてくれるコンテンツも観るようにしていますね。

おすすめされたコンテンツの中には、自分と合わないものもあるのですが、その場合はおすすめしてくれた人に、面白いと感じた部分を聞いたり、感想を掘り下げたりします。

――全く食わず嫌いをしないスタイルですよね。それはもう昔からですか?

白武:そうです。高校生の頃、DVDを借りるとき、TSUTAYAがプッシュしている特集棚に飾られている映画は食わず嫌いをせずに必ず観るということをしていました。優秀な映画のコンシェルジュが選んでいるのだから、信頼するようにしていましたね。

深夜アニメも、絵柄が苦手だと思う作品があっても一回は観るようにしています。「まどマギ」「あの花」「シュタインズゲート」なども、絵柄だけだとそこまで興味を持てなかったけど面白すぎる名作です。漫画でも『ジョジョの奇妙な冒険』の絵が苦手という人がいますが、それで読んでいないのはもったいなさすぎます。

海外ドラマは1話目を観れば作品が好きなトーンか分かります。製作側も1話目の面白さを競っているところがあるので、そこで引き込まれなかったら見ないですね。最近では『ペーパーハウス』と『アンブレラ・アカデミー』にハマりました。1話目を見てスケール感やアートワークが素晴らしいなと、信頼できるなと思ってずっと観てしまいました。

■「様子がおかしい」から声をかけてフワちゃんと仲良くなる

――今、大人気のフワちゃんとも交流もこの本の中で書かれていました。白武さんの周囲には面白いものを作れる人が集まっている感じがします。意識的にそういうコミュニティを作っているのですか?

白武:コミュニティを作る意識はないですけど、面白いと思った人には自分から声をかけますね。フワちゃんに関しても、様子がどうもおかしくて気になってご飯に誘ったのが仲良くなったきっかけでした。

――白武さんのアンテナに引っかかったら声をかける。

白武:そうですね。でも、本当にこの人と一緒に何かやってみたいなと思う人じゃないと声はかけないです。だから、どんな人にも声をかけるということはないですね。

――先日、YouTube上でラジオ局を運営することを目的としたオンラインサロン「PILOT」を立ち上げられましたが、これはどういう目的ですか?

白武:今、自分の仕事がパンク状態になっているので、一緒にお仕事をできる人を増やすための目的が一つ。あとは、本業がありつつも、面白いことを考える才能のある人はたくさんいると思うので、その才能の出し口になればいいなと思ったのが一つ。それに、YouTubeでラジオをやったら面白いんじゃないかと。今、そういうことをやっている人があまりいないので、自分たちで立ち上げてみようと思ったのが一つですね。

――多角的にご活動されていますが、これからの放送作家の仕事について白武さんはどう考えていますか?

白武:こうやって活動をいろいろ広げていて、YouTubeに詳しいというところで新しいタイプの放送作家と言われますが、全然そんなことはないです。

昔から活躍されている放送作家の皆さん、例えば秋元康さんや鈴木おさむさんは様々なジャンルで活躍されていて凄いです。作詞、映画の脚本・監督、小説の執筆、コンサルタント的なこと、アイドルのプロデュース…。とにかく活動の幅がすごく広いんです。

自分のやっていることもそういうことだと思っていて、YouTubeというメディアが新しいですが、タイプとしては全然新しい放送作家ではないと思います。

――白武さんは今後、どういう立ち位置を目指したいと思っていますか?

白武:僕自身は、適したプラットフォームで適した企画を出して、それぞれの場所でヒットを生み出せるようになれば理想的です。NetflixやAmazonプライムといったサブスク、YouTube、ラジオ、ローカル局、様々なところでヒットコンテンツを出したいなと。

――これから放送作家になりたいと思っている方や、若手でいろいろ仕掛けたいと思っている方々にアドバイスをお願いできますか?

白武:どんなジャンルでも1万時間かければ専門性を身につけられる「1万時間の法則」っていうものがあります。僕の場合は高校時代の映画とお笑いコンテンツでしたけど、自分が夢中になれること、他の人に負けない得意なことを磨いていくのが良いかなと。

また、僕はテレビとお笑いとYouTubeという3枚のカードの掛け算でお仕事に呼んでもらっていますが、自分の好きなものを特化させていって切れるカードを作っていくことが大切なんじゃないかなと思います。

――最後に、本書『YouTube放送作家』をどのような人に読んでほしいですか?

白武:エンタメ業界での仕事を志している人や、今エンタメ業界で働いている人、今の仕事がつまらないと思っている人のヒントになったらいいなと思います。今のエンタメの現場で手を動かしている20代の人間がこういうことを考えているのかと、ひとつの参考になれば嬉しいです。

(了)

YouTube放送作家 お笑い第7世代の仕掛け術

YouTube放送作家 お笑い第7世代の仕掛け術

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金井元貴

1984年生。「新刊JP」の編集長です。カープが勝つと喜びます。
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audiobook:「鼠わらし物語」(共作)

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