だれかに話したくなる本の話

好かれる上司と嫌われる上司の違いとは? 元BCGマネジャーの解答

仕事をしていると、周囲との実力差に焦ったり、転職や独立のタイミングで迷ったりと、様々な悩みに直面する。人生も仕事も「答えのないゲーム」。このゲームを後悔なく勝ち抜いていくためには、どんな物事の見方や考え方をしていけばいいのだろうか。

このほどオーディオブック版が配信開始した『変える技術、考える技術』(実業之日本社刊)は、ボストンコンサルティンググループ(以下、BCG)でマネジャーを務めた高松智史さんが今日の仕事にも、明日のキャリアにも役立つ思考の基礎を授ける一冊だ。

今回、新刊JPはビジネスパーソンから仕事の悩み、キャリアの悩みを募集。集まった悩みを高松さんにぶつけてみた。後編は転職に独立、マネジメントなど、気になるワードが目白押しだ。

高松智史さんインタビュー前編を読む

質問3:転職をしたときの思考のプロセスを教えてほしい

これからの働き方で悩んでいます。一つの会社に勤めるあげることは素敵なことだと思いますし、これまで転職をしたことはありません。ただ、最近、このまま一社だけを見るのではなく、転職をして新しい世界を見た方がいいのではないかとも思い始めています。高松さんが転職や独立などの人生の節目になるような決断をする時の思考のプロセスを教えていただきたいです。また、最近、パラレルキャリアという、第二の仕事を持つ働き方もあると知りました。パラレルキャリアについて、高松さんはどのように思いますか?(30代・営業)

高松:僕が常に考えているのは「どっちが取返しがつかないか」。取返しがつくのであればGOです。

編:高松さんのキャリア上の転換点は独立された時の1回ですか?

高松:キャリア的には転職が一回ありますね。2002年に入ったNTTデータを2005年に辞める時。その次が独立した2013年です。

編:転職の決断はどのようにされましたか?

高松:直前に弟がマッキンゼーに入ったんです。それで「兄貴、俺マッキンゼーに行くから兄貴の給料超えるよ」って言われて。

僕、その時コンサルティングファームって知らなかったんですよ。そんな仕事があるのかと思って「じゃあ俺も」と(笑)。そうしたら同じ会社は勘弁してくれと言うものだから「じゃあ、マッキンゼーに匹敵する会社をおまえが探してこい」と言ったら、一週間後にBCGの名前と本が一冊送られてきて、それを見てBCGを受けに行ったら受かったという。

編:すごいですね。そして躊躇がない。

高松:「弟が受かるんだから俺が受からないわけがない」と思ってますからね。向こうもおなじことを思っているはずですが。

その時も「BCGに行って取り返しのつかなくなることは一つもない」という考えでした。別にNTTデータに残ることにリスクがあると考えていたわけではないですが。

編:BCGから独立された時はいかがでしたか?

高松:独立しましたね。貯金が50万くらいしかないのに。

編:給料いいはずなのに(笑)。

高松:全部使ってました。基本的には独立も考え方は同じです。

それと、これは価値観次第なのですが、仮に「組織の中で偉くなる」とか「お金持ちになる」という基準で考えるなら、「組織の中で上位5%に入っているか」は一つの目安でしょうね。NTTデータ時代に後輩ですごく優秀な人が入ってきて、ボーナス評価が自分より良かったんです。その時に「今は上位5%に入っているけど、10年後は抜かれるな。5%にも入れないな」と。それで転職しようと思いましたし、BCGに行ってからもそうですね。一番じゃないとやる意味がないと思っていました。

編:上位5%どころかトップを目指していたんですね。

高松:プロフェッショナルであるからにはトップじゃないといけないと思っていましたし、会社にいても最低トップ5%に入っていないとおもしろい仕事が振られないんですよ。

よく「社長と副社長では情報量が1000倍違う」と言われますが、これは会社員にも言えます。トップ5%にいないとおもしろい仕事は巡ってきません。それは、おもしろい仕事は数が限られているっていうこともありますし、そういう仕事は優秀な人に集まるということもあります。頼む方だって優秀な人に頼みたいでしょう。じゃあ残りの人には何が振られるかというと、優秀な人が持っている仕事の雑用が回ってくる。いい悪いではなく、これが組織というものなんです。

だから、キャリアの軸がお金持ちになったり出世するということであれば、上位5%に入れそうにないと思ったらその会社は辞めるべきだと思っています。

編:組織で上位5%を目指すということだと、もう一つの質問にある「パラレルキャリア」については否定的ですか?

高松:おっしゃる通りで、パラレルキャリアは反対派です。だって、無理でしょ。

何か新しいことを始めるために、試しに本業と違うことをやるならいいと思います。でもそれってここでいう「パラレルキャリア」ではないですよね。同時に二つの仕事を並行してやるってかなり難しいことだと思います。

最悪なのが、平日上からガミガミ言われてストレスフルな働き方をしている人が、例えば土日に有名人のサロンに参加して、古株会員だからって幅を利かせるパターン。これが最悪。見ているとこのパターンのパラレルキャリアを送っている人は結構多いです。

編:それは失敗例ですね。

高松:平日の仕事のストレスを土日にやっているもう一つの方で偉そうにすることで発散する、みたいなね。実績を誇張して話したりして。

基本的に、パラレルキャリアというのは今の仕事が一番ではないことの証明だという見立てをした方がいいと思いますね。ただ、繰り返しになりますが、今とは別の道に進むための手段として一時的に「パラレル」になるのはいいと思いますよ。

質問4:マネジャーとして一人前になるためには?

最近マネジャーに昇格したのですが、周囲のレベルについていけずに悩んでいます。マネジャーのミーティングに参加していると、みな、ロジカルでフレームワークを使って考えているように思えてしまいます。自分の実力以上のところに来てしまったという恐怖感を毎日抱えているのですが、マネジャーとして一人前になるために必要なことを教えてもらえると嬉しいです。(30代・IT関連)

高松:必要なことはたくさんありますけど、一番は「部下に人気があること」じゃないですか。これはすごく大事なことです。この本にも書いたんですけど、BCG時代に石井さんという人がいて、この人はプレーヤーとしても優秀だったのですが、すごいのは部下から慕われていたことでした。

編:どうしたら部下から慕われるのでしょうか。

高松:梯子を外さないとか、何かあった時に盾になるとか、色々ありますけど、そこは何でもいいんですよ。極端な話「昼食をおごってくれるから人気」でもいい。とにかく下から人気があることが大事なんです。

編:逆に部下に嫌われる上司もいますよね。

高松:「マネジャーだぞ」という感じを出すと嫌われますよね。当たり前ですが。ダメなマネジャーって、「下の人をマネジメントするのが自分の仕事」だと捉えているんですよ。だから現場に行きません、管理だけします、ということになってしまう。

そうじゃなくて、営業であれば「俺が営業行けば、おまえら全員いなくても10人分の売り上げを作れるよ」という状態を目指していただきたいです。「自分でもできるからおまえら本当はいらないけども」というマインドセットが大事です。

編:立場にあぐらをかいて楽をしようとするとダメということですね。

高松:そうですね。マネジャーといってもプレーヤーでもあるので。そのマインドセットがあれば、部下に仕事を振る時も彼らと同じ目線に立てます。そういう人は部下から信頼されますね。わざわざ「おまえらができなくても俺ができるよ」と口に出す必要はないですが。

もう一つ、「タスク」でマネジメントする人もダメです。「この作業した?」「あの作業は?」と、タスクや作業でマネジメントするのではなく「論点」でマネジメントするのが大事です。

つまり、「君はこのクライアントをどう喜ばせるか」とか、コンサルティングの仕事でいえば「このクライアントの売り上げは今2億円だけど、倍にするにはどうしたらいいか」といった論点について、問いからスタートするコミュニケーションです。そうすると、現状クライアント企業がどうやって活動しているか、どういう課題があるか、どういう指導をしないといけないかという別の問いが生まれてきます。こうした問いをベースにコミュニケーションをとるマネジメントをしていただきたいです。

編:タスクベースで仕事を振ってしまう人はどこに問題があるのでしょうか。仕事を分解しすぎてしまう点ですか?

高松:ひとことで言えば頭が悪いんです…というのは冗談として、でも頭が悪いのはしかたないじゃないですか。ただ、マネジメントなんてスキルでしかないですからね。ちゃんと勉強すれば身につきます。

それと、周りのマネジャーがみんなロジカルでフレームワークを使って考えているとありますが、そう考えている時点でポンコツです(笑)。どうしてロジカルシンキングとかフレームワークがもてはやされるかというと、それを商売にしようとした人間がいるからですよ。

ロジカルもフレームワークも本当にどうでもいい。それに、本当にロジック力がすごい人なんて、東大の宇宙工学を出ている人くらいですよ。一般的な意味でのロジカルさなんて、大抵の人は持っています。

もう一つ、自分の実力以上のところに来てしまったという感覚は絶対にまちがっています。会社からしたら実力が伴っていない人を昇進させても一つも得はないので。絶対にちゃんと評価したうえで昇進させています。そこは自信を持った方がいいです。

編:昇進させるだけの何かがあると。

高松:絶対あります。それでも自信が持てないなら、演じてしまえばいいんです。朝布団から出た瞬間に「俺はマネジャーだ」と。そこからは「どうしよう」ではなくて「マネジャーならどうするのがベストだろう」「マネジャーなら何を言うだろう」と考えて仕事をする。

編:委縮してもいいことは何もないですからね。

高松:委縮するのは布団の中だけにしましょう。僕もこうして話していると明るく見えるじゃないですか。

編:果てしなく明るく見えます。

高松:実はすごい根暗なんですよ。でも、これも演じているんです。僕は自分のことを「天才業」って言って、天才を演じているんです。マネジャーも一緒で、マネジャーである自分が身になじむまで演じたらいいと思います。

表紙

(新刊JP編集部)

高松智史さんインタビュー前編を読む

変える技術、考える技術

変える技術、考える技術

僕はBCGという戦略コンサルティングファームで、まさに「もがきながら」(コンサル風に言えば、ストラグルしながら)8年間、マネージャーまで昇進した。

BCGは、楽しかった。

今思うと、入社当時の僕には「戦略」や「コンサル」のセンスは無かった。
けれども、幸い、「人にかわいがられる」力(コンサル風に言えば、チャーム)はあった。

そのおかげで、数多くのセンス溢れる先輩(のちに師匠たち)との「距離」をつめることに成功し、彼らから「考え方」「働き方」のような社会人としての基礎だけでなく、人生のなかで本当に大事なこと、全てを学ばせてもらった(厳密には、大学時代のバイト「ウイニング受験英語」、新卒で入社した「NTTデータ」も含む)。

そのエッセンスを、「行動を変える」技術=「スウィッチ」として結晶化させ、この1冊に詰め込んだ。

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