だれかに話したくなる本の話

「同世代なら泣けてしまうくらいあざとい本です」――大森靖子『かけがえのないマグマ』インタビュー(3)

っしりと文字で詰まっていて、改行は少なく、整理された感情がそこにズラリと並んでいる。溢れてきそうなほどの言葉の量に、いつも驚いてしまう。シンガーソングライター大森靖子さんのブログ「あまい」には妙な中毒性がある。

昨年秋に子どもを出産し、活動を再開し始めた大森さん。そんな彼女が2月のシングル、3月のアルバムリリースに先駆けて、まず届けたのが、意外にも「書籍」だった。

詩人・最果タヒさんとの共著となる『かけがえのないマグマ』(毎日新聞出版刊)についてのインタビュー。最終回となる今回は「本」というテーマでの質問を考えていた。しかし、事前に「大森さんは本が苦手」という情報をキャッチしていたため、苦戦を予想。そして、その通り「本はほとんど読んだことがないです」と言われてしまう。

そんな中で、中学生・高校生時代に読み切った小説があるという記述をブログで発見していた私たちは、ブログに言葉を連ねる意味、そして中高生時代に読みきった本についてのエピソードを聞いた。
(取材・構成・文/カナイモトキ、写真/ヤマダヨウスケ)

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■小説の登場人物のセリフに「ここまでおこがましいことを思えるだろうか」

――大森さんのブログを拝見すると、いつも、言葉のものすごい圧みたいなものを感じていたんですね。それでこの本を読んでいて昔から文章を書いていたと書かれていて、「あ、なるほど」と腑に落ちました。

大森靖子さん(以下、大森):そうですね。高校の時から、ノルマで1日3000文字書いていました。

――3000文字ってかなり多いですよ。

大森:そうなんですか? 授業中にずっと書いていました、携帯電話で。それをブログにアップして。

――どんな内容をアップしていたんですか?

大森:うーん、そのときに一生懸命考えた、哲学的なことですね。そのときの自分なりの考えというか。あとは電車で見た人のこととか、初めて東京に行った時の感想とか、テレビ番組の感想とか。

テレビを見ていると勝手に情報が流れてくるから、それに対して思ったことを書いていると、いつの間にか1000文字くらいになるんですよ。大変そうだなとか、私だったらこういう風にやるのになあ、とか。そんな感じで3000文字です。

――では、他人に読まれるという意識は…。

大森:ないですね。今でも書く時、誰かに読まれるっていう意識はあんまり持ってないです。じゃあ、自分が読むかというと、自分でも読まないです。当時はただひたすら(携帯で文章を)打って、3回くらい自分で読み返して「良い文章書けたな」って満足して投稿して、そのあと平気で消していました。今思えば、残しておけばよかったと思うこともあるんですけど(笑)。

――何故消してしまうんですか?

大森:あとで見返してみて、「なんか違うな」と思っちゃうんです。自分が変わったというより、言語感覚ですね。なんかすごく古い言葉使っているなあ、とか。

――そういえば、本を読むのは苦手なんですよね。

大森:苦手ですね。ほとんど読んだことがないです。

――それで調べてきたのですが、2012年8月のブログのエントリに、半年間かけて一冊の本を読んだが面白くもつまらなくもなかったという感想とともに、中学高校を通して全部読めたのは夏目漱石の『こころ』と大槻ケンヂさんの小説だけだったと書いてあったんですね。

大森:あ、そうなんですよ。この大槻さんの小説は『グミ・チョコレート・パイン』です。この本は銀杏BOYZの歌詞(*1)に出てきて、これは読まなきゃいけないって。そういうことですね。

『グミ・チョコレート・パイン』に山口美甘子ちゃんっていう人物が出てくるんですが、「私は与える側の人間だから」って言うんですよ。当時、私も東京に行って何かしたいって思っていたけど、ここまでおこがましいことを思えるだろうか、と衝撃を受けました。「与える側だから」ってこの子すごいなって。

――また、漫画ではジョージ朝倉さんの名前が本の中に出てきましたね。

大森:漫画は結構読んでいるんですけど、『ハートを打ちのめせ!』は高校時代にひたすら読みました。

この漫画は、思春期に読むと本当にきますよね(笑)。登場人物全員、自分なんですよ。彼氏がいるって嘘ついたこともあるし、先生と付き合う女がすごく憎たらしいのですが、そういう目線も使ったことあったし…。それまで少女漫画に一度も共感したことがないのに、全員に共感できる漫画があらわれて、「わ、怖い!」みたいな(笑)


■「ピンク」と大森靖子、そしてインタビューは完結へ

――最後に『かけがえのないマグマ』の話に戻りますが、まさに表紙が真っピンクで、書店で見た時にすごく目立っていました。

大森:ピンク色の表紙は、本ができてから知ったんですよ。うわ、ピンクだ!って思って(笑)

――インディーズの最初のアルバムも「PINK」というタイトルでしたし、そういう曲名もあります。ピンク色にこだわりがあるんですか?

大森:憧れというか、ピンクってなかなか身につけられない色だと思うんですよ。自然界にもあまりない色ですし、花とかも頑張って一生懸命育てないとピンクにならないと思っていて。

でも、ピンクって実は自分の内側にもあって、肉の色なんですよね。自分の内側にある色で、それを外側で写すには作り込まないといけない、そうじゃないと花はピンク色にならないって考えたときにすごく好きになったんです。

――そう考えると、ピンクって神秘的な色ですよね。そして、最初のアルバムも、今回の本もスタートはみんなピンクですね。ピンクからすべてが始まっていく。

大森:そうですね…そうですね。ふふふ(笑)

――3月23日にはセカンドアルバム『TOKYO BLACK HOLE』がリリースされます。初回生産限定盤に200ページほどの書き下ろしエッセイ本がついてくるそうですね。

大森:いずれ本を特典として付けようっていう話があったのですが、書いていたら200ページくらいになってしまいました。

――書き下ろしということで、楽しみにしています。では『かけがえのないマグマ』ですが、どんなところを読んでほしいですか?

大森:同世代の人たちが読んだら、泣けてくるような単語がたくさんあるので、風俗資料みたいな読み方ができると思います(笑)。「わぁ、タヒちゃん!この単語、わざと入れたでしょ」って思ってしまったくらい、あざといです。私の精神論については、自分が普通に思っていることなんですけど、読んでくれてグッときてくれている人もいるのかな。

――SNSでは「誠実」「芯が強い」「元気になった」みたいな声から「旦那がほしくなった」という感想も見ましたよ。

大森:あははは(笑)

――いかがですか? こういう声に対して。

大森:そういう人間だというのがばれたかな(笑)。「自分は真面目で芯があって努力している人間です」って自分でいうことじゃないから、その部分をちゃんと分かるように最果さんに書いてもらって、ありがたい気持ちですね。

(了)

《注釈》
(*1)2005年リリースのアルバム『DOOR』の1曲目「十七歳(…cutie girls don't love me and punk.)」(作詞作曲:峯田和伸)の歌詞の冒頭に、『グミ・チョコレート・パイン』の名前が出てくる。

■大森靖子さんプロフィール
1987年生まれ、愛媛県出身。ミュージシャン。美大在学中に音楽活動を開始。2013年にアルバム『魔法が使えないなら死にたい』『絶対少女』を続けざまに発表。2014年、エイベックスからメジャーデビューし、アルバム『洗脳』発表。2015年、全国ツアー後に妊娠を発表し、10月に男児を出産。2016年、活動を本格再開する
オフィシャルウェブサイト: http://oomoriseiko.info/

■リリース情報
両A面シングル『愛してる.com / 劇的JOY!ビフォーアフター』発売中

出産後復帰第1弾となる両A面シングル。
「愛してる.com」では亀田誠治をサウンドプロデューサーに迎え、洗練されたアレンジによるアンサンブルが鳴り響く曲に仕上がっている。また、「劇的JOY!ビフォーアフター」は、サウンドプロデューサーに奥野真哉(ソウル・フラワー・ユニオン)を迎えて制作された楽曲で、これら2曲に弾き語り曲「ファンレター」を加えた計3曲を収録。
完全限定生産盤は、豪華BOX仕様となっている。

メジャー2ndフルアルバム『TOKYO BLACK HOLE』

2016年3月23日発売
前作から1年3ヶ月ぶりのリリース。「マジックミラー / さっちゃんのセクシーカレー」や 「愛してる.com / 劇的JOY!ビフォーアフター」を含んだ全13曲収録。
*画像は初回限定生産盤のジャケット

この記事のライター

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金井元貴

1984年生。「新刊JP」の編集長です。カープが勝つと喜びます。
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audiobook:「鼠わらし物語」(共作)

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