だれかに話したくなる本の話

直木賞作家なのにストーリー作りが苦手 朝井リョウが夢見る「合作」とは

出版界の最重要人物にフォーカスする『ベストセラーズインタビュー』。
第85回は、新刊『何様』(新潮社刊)を刊行した朝井リョウさんです。

朝井さんといえば2013年、大学生が就職活動で抱えるジレンマや葛藤を描いた『何者』で、直木賞を史上最年少で受賞したことが大きな話題となりました。

今回の『何様』は、『何者』のサイドストーリー集。
光太郎や理香、隆良ら『何者』の登場人物の数年後や、数年前の物語が描かれています。

この作品と『何者』との関係。そして、直木賞受賞から3年、人気作家の道を歩み続ける朝井さんの「今」についてお話をうかがいました。(インタビュー・記事/山田洋介)

■『何者』は「幸せな映像化」

――10月15日(土)には、映画『何者』が公開されます。ご自身の小説が映画になるというのはどういう気持ちですか?

朝井:デビュー作の『桐島、部活やめるってよ』を映画にしていただいた時、周りの人に「あれは本当に幸せな映像化で、あんなにうまくいくことは今後ないと思ったほうが良い」と言われたんですけど、こちらとしては初めての経験ですから、幸せと言われても相対評価する対象がなくて、よくわからなかったんですよ。

でも、その後別の形でメディアミックスを経験して、言われていた言葉の意味がよくわかりました。フィクションの良心というか、物語としての道理というか、そういう部分を共有できている人と組んで映像化できることがいかに幸せなことか、思い知りました。

朝井リョウさん

――そうでない人と組まないといけないこともある、と。

朝井:でも、その人はその人で、私とは別の部分に良心や道理を持っているんですよね。

たとえば、予算や撮影スケジュール、キャスト側のNGうんぬんなどの物語外にあるルールを守る、みたいなこと。それはそれで、正しい仕事なわけです。ただ、私はやはり登場人物の心の動きという物語の本質を大切にしたいので、なかなか摺合せが大変なわけです。

『桐島、部活やめるってよ』では、製作スタッフ全員が、物語の本質の部分を最優先事項として捉えてくださっていました。内容は原作と映画で大きく変わっていましたが、心の動きに全く矛盾がなかったんです。物語外のルールに物語が無理やり当てはめられるということがなかった。これは本当にすごいことです。

『何者』は監督の三浦大輔さんが原作を大変尊重してくださる方で、セリフも含めてほとんど原作通りに映画化されています。なのでこちらも物語外のルールに物語が無理やり当てはめられるということがありませんでした。

ただ、後半に演劇を長らくやられている三浦監督ならではの演出が炸裂するので、そこで映画になった意味、三浦監督が撮った意味が見事に花開いています。『何者』読んで『何様』読んで映画を観て、と、フルコースで楽しんでいただきたいです。

――朝井さんご本人についてもお聞きしたいです。最近気になることや関心事について教えていただけますか?

朝井:いろんな作家も言及していますが、とりあえず小説を書く人工知能ですかね。星新一賞の一次審査を人工知能が創作した小説が通過したというニュースがありましたけど、私としてはもっと早く発達してほしいな、と。

というのも、僕はストーリーを考えるのが本当に苦手で、考えなくていいなら考えたくないんですよ。

――それは意外です!

朝井:本当のことをいうと、物語の起承転結はどうでもいいと思っていて。読んでいるときも書いているときも、これを書きたかったんだ! っていう一行に出会えればそれでいいというところがあって。だけどそれだと多くの人に楽しんで読んでもらえることはできないだろうから、エンタメ性を持たせるためにストーリーをくっつけている感じなんです。

だから、プロットを作ってくれる人口知能ができたら、ぜひ手を組んで、プロットはお願いしたい(笑)。プロット:人工知能、執筆:朝井リョウという合作をしてみたい。

自分の作家性は、ストーリーの構成や展開ではなくて、ストーリーとは関係ない部分の描写や、どうしても伝えたいメッセージの部分にあると思っています。プロットの部分で個性を発揮する作家ではないので、プロットを代行してもらっても実は読者もそこまで違和感を抱かないような気がしていたり。ダメですかね(笑)。

朝井リョウさん

――他の作家さんと仕事以外で交流することはありますか?

朝井:僕はデビューしたのが2010年なのですが、同じ年にデビューした柚木麻子さんや窪美澄さんとはよく集まって食事したり昔のドラマを一気見したりしています。三人とも、ものすごくしゃべります。

あと、西加奈子さんが毎年作家を集めて花見をしてくださるんですけど、それにも参加しています。村田沙耶香さんが芥川賞を受賞された時も、そのあたりのメンバーが集まってお祝いをしました。

――作家さん同士が集まると、どんな話になるんですか?

朝井:くだらない話ばかりですよ。朝までコースになるときもあるんですけど、夜も深くなると酔っぱらってきて、次の日なんの話をしたか全く覚えていない人もいます(笑)。

お互いの作品について語り合うみたいなことはほぼなくて、本当に普通に友達同士みたいな会話が多いですね。内容は詳しく話せませんが、お互いの失態を責め合ったり……最近はお笑い芸人さんが合流することもあって、私が仲良くしている作家はお笑いが好きな方が多いので、そのあたりの話も盛り上がります。柚木さんとは大体ハロプロやつんく♂さんの話をしています。

最終回「もう一度ストーリーを書く感覚を取り戻したい」につづく

第一回 朝井リョウが直木賞授賞式で見せたとっさの機転とは に戻る

何様

何様

直木賞受賞作『何者』のアナザーストーリー集。

この記事のライター

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山田洋介

1983年生まれのライター・編集者。使用言語は英・西・亜。インタビューを多く手掛ける。得意ジャンルは海外文学、中東情勢、郵政史、諜報史、野球、料理、洗濯、トイレ掃除、ゴミ出し。

Twitter:https://twitter.com/YMDYSK_bot

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