だれかに話したくなる本の話

【「本が好き!」レビュー】『飛田をめざす者: 「爆買い」襲来と一〇〇年の計』杉坂圭介著

提供: 本が好き!

飛田に女性を紹介するスカウトマンを務めた著者による第3弾です。何度も書いたので重複はなるたけ避けたいのですが、僕が飛田の存在を知ったのは作家・黒岩重吾先生を経由してのことでありまして、黒岩先生が相場で大敗し、原因不明の奇病に罹って九死に一生を得るものの、どん底だった時に西成で身を潜め、そこで蠢く人々の生態をつづったシリーズが『西成モノ』として有名なのでありまして、その中でも有名なものは「西成山王ホテル」「西成十字架通り」「飛田ホテル」でしょう。

そんな飛田遊郭で遊ぶ「システム」は料亭で働く女性と客が「偶然」恋愛関係に落ちてコトに及ぶ、という建前でありまして、料金はピンからキリまであるわけですが、本書の著者である杉坂圭介氏は料亭経営者・スカウトマンとして飛田の表裏を知り尽くした存在であり、『飛田の子』や『飛田で生きる』(ともに徳間書店)に詳しくつづられておりますが、本書はその第3弾に当たります。

本書の冒頭部で杉坂氏は、スカウトマンとしての仕事に行き詰まり、家族を伴って自身の郷里である和歌山に引っ込んで、穏やかな日々を送っていたのですが、ある日、知人からの誘いで現役復帰を果たし、「姉系」と呼ばれるカテゴリーの料亭の共同管理者として飛田の地へと再び舞い戻ってきたのでした。

帰ってきた杉坂氏を待ち受けていたものは世に言う「インバウンド」(外国人観光客)の大波でありまして、その中でも全国の観光地、商業施設を訪れて大枚をはたく中国人たちの「爆買い」が欲望の矛先をこの飛田の街に向けた姿でありました。

「オバちゃん」とともに一筋縄ではいかない「女の子」たちのマネジメントに追われつつ、言葉の壁にはじまって、性癖や嗜好の異なる「遊び」の仕方と対峙せざるを得なくなった杉坂氏をはじめとする飛田の様子が活写されており、スマホの翻訳機能を使って客を呼び込み、交渉をしたり、外国語のわかる女の子、ここでは元国際線のCAである「ミキ」が入店し、瞬く間にに頭角を現していくのですが、その接客の様子を読んでいて、
「あぁ、これならリピートが多くつくだろうなぁ。」
と思うとともに
「できれば彼女と一戦交えてみたいものだ…。」
という欲望が下半身から突き上がってきたものでした。

それはさておき、読んでいて目立ったのは「ネットの影響」が多いなぁということでありまして、女の子たちもSNSを使って営業をかけたり、杉坂氏たち経営者側も掲示板の評判を気にしていたり、客としてくる側もネットに書き込まれた「評判」を参考にして遊郭へと足を運ぶ…。その様子に驚きつつも金や色、そのた諸々の欲望が大きなうねりを伴って飛田を動かしていることが改めてよく理解できるものでありまして、僕自身もまた、飛田遊郭の持つ妖しい輝きに惹かれてしまいそうになってしまいます。

最後に、杉坂氏のおっしゃることをすべて信用するなら、仮に将来、飛田遊郭で遊ぶとして、自身が齢30を超えてしまっている現状からでは「メイン通り」や「青春通り」の女の子たちを相手にするよりも、包容力があって情緒を重視する「姉系」の店で遊んでみたいなぁと、そんなことも思ってしまったのでした。

(レビュー:有坂汀

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飛田をめざす者: 「爆買い」襲来と一〇〇年の計

飛田をめざす者: 「爆買い」襲来と一〇〇年の計

飛田に女性を紹介するスカウトマンを務めた杉田氏が描く、知られざる実態とは?

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