だれかに話したくなる本の話

【「本が好き!」レビュー】『横浜駅SF』柞刈湯葉著

提供: 本が好き!

横浜市民なら、間違いなく気になる!・・・けど「横浜」は出てこない(笑)
他府県の方も、すでに出オチ感のあるあらすじだけでニヤニヤ笑いが止まらない!
日本限定の大真面目にふざけてるSFです。

無限自己増殖する横浜駅は地続きの本州を掌握。
横浜駅から伸びる超長いエスカレーターが覆いつくした富士山は高度4000m超え、
伊勢神宮は20年に1度新しい社殿がにょきにょき生えて現在64個になり、
琵琶湖は広がる横浜駅に埋もれつつあり、消滅の危機に。
どっちを向いても横浜駅~♪どこまで行っても横浜駅~♪

人もまた、横浜駅によって選別されている。
① 脳にSuikaを埋め込まれた人々だけが存在を許された「エキナカ」
エキナカでは電力は無尽蔵にあり、食料・物資も豊富・・・だが、脳内Suikaは常に自動改札の監視下にあり、駅に不利益な行動をとった者=Suika不正利用者はエキナカから追放される。

② Suikaを持てない者とその子孫が細々と生活している「エキソト」。
横浜駅にへばりつくような海岸線に、エキソト・コロニーが点在している。
「エキナカ」から廃棄されるゴミで生活を成り立たせているが、突然廃棄品の流路が変わったことで食料が無くなって全滅したコロニーもあるらしい。

さて、本書の主人公・三島ヒロトは、九十九段下の岬にある「エキソト」コロニーで生まれ育った非Suika住民。
狭い岬の生活に疑問を持ち続けた彼は、2人の「エキナカ追放者」との関わりで人生と世界を大きく変えることとなる。
1人は「キセル同盟」メンバーだったと名乗る男で、今際の時に非Suika住民もエキナカに(5日間限定で)入れる「18きっぷ」をヒロトに手渡し、同盟リーダーを助けてくれと言い残す。
もう1人は20年ほど前にやってきた「教授」とよばれる認知症の老人で、「エキナカ」に旅立つヒロトに「42番出口に行け。そこにすべての答えがある」と謎の言葉を告げる。

そして、生まれて初めて訪れた新世界「エキナカ」は、外同様歪んだ世界だった…・!
知らない世界に翻弄されるヒロトは、「18キップ」の限定期間5日間で広大な「エキナカ」から「キセル同盟」リーダーを助け出し、謎の「42番出口」に到達することができるのか!?
すべての答えとは・・・人類の未来は・・・そもそも「横浜駅」とは何なのか・・・!?

・・・ってなカンジで、ここまで張り切って大風呂敷・・・小風呂敷(?)を広げていながら、ストーリーは結構あっさり。 主人公を含め、登場人物のテイストもかなりあっさり。(どっちかというと、途中で登場するサブキャラクターのアンドロイド2人の方が魅力的です。)
・・・んがっ!この本の魅力は「横浜駅」を始めとして各所にぶっ込まれるこってりしたパロディっぷりと、ちょいちょい出てくる「小ネタ」の絶妙加減ですので、充分に楽しめます。

ちなみに本書は著者がいろいろなSFのパロディとオマージュとしてネット上で発表していたものを、長編小説化してカクヨムWeb小説コンテストSF部門に応募し、大賞をとったものだそうです。
大変親切なことに加筆前の本編や、本書には載ってない外伝が、カクヨム(ネット小説投稿サイト)で読めます。
カクヨム

ついでに、これまた親切なことにコミックも無料で読めるヤングエースUPで連載中。
ヤングエースUP
映像を認識してから読むほうが話を楽しみやすいかなと思うので、コミック先読が個人的にはおすすめです(^^)v

せっかく面白い設定なので、横浜駅化していく日本を舞台としてブラッドベリの「火星年代記」を倣って「横浜駅年代記」をぜひ書いてほしいと願ってます。
もっといっ~ぱい小ネタをぶち込んでほしいものですな(笑)

(レビュー:薄荷

・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」

本が好き!
『横浜駅SF』

横浜駅SF

改築工事を繰り返す“横浜駅”が、ついに自己増殖を開始。それから数百年―JR北日本・JR福岡2社が独自技術で防衛戦を続けるものの、日本は本州の99%が横浜駅化した。脳に埋め込まれたSuikaで人間が管理されるエキナカ社会。その外側で暮らす非Suika住民のヒロトは、駅への反逆で追放された男から『18きっぷ』と、ある使命を託された。はたして、横浜駅には何があるのか。人類の未来を懸けた、横浜駅構内5日間400キロの旅がはじまる―。

この記事のライター

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