だれかに話したくなる本の話

三上博史が10代の頃に影響を受けた寺山修司の言葉とは?

■三上「普通の生活に対するもやもやした憧れがあるんですよね」

三上:堂場さんはものすごい勢いで小説を書かれていますよね。仕事時間とかはもうルーチン化されているのですか?

堂場:そうですね。公務員みたいな生活ですよ(笑)。今日は仕事を中抜けしているので、予定が狂っている感覚があります。

――三上さんはお仕事とお仕事の間のインターバルを設けることはあるのですか?

三上:ありますね。1年間空いたりするときもあります。

堂場:久しぶりの仕事となったとき、勘が狂ったりしないんですか?

三上:実はそうなんですよ(笑)。ちょっと前までは、すぐに現場に乗れたんですけど、今は時間がかかるようになりましたね。苦しいけれど仕事はやり続けたほうがいいのかなと思うようになりました。

でも、普通の生活に対するもやもやした憧れがあるんですよね。地方の名も知られていない町の、田んぼに囲まれたアパートの2階の奥の日当たりの良い角部屋に住むのが夢なんですよ。それで、軽自動車で家に帰ってきて、カンカンカンカンと階段をのぼっていって、家の中でお茶を淹れながら日向ぼっこをするんです(笑)。

誰も自分のことを知らず、表札も出せるという生活にすごく憧れがあります。限りなく近いやり方をすれば、海外でアパートを借りて住んで、友だちができてきたら別の街に移動するみたいなことになるんでしょうね。高等遊民みたいな(笑)

堂場:それは良い言葉です。でも、国内だとばれますよね。

三上:ばれますね。僕は15歳のときからこの仕事をしているから。

堂場:僕の場合、電車で自分の顔が載っている中吊り広告の下にいても、誰も気付かないから(笑)。

三上:それは良い立場ですよ(笑)。

堂場:でも若干悲しいですよ。みんなスマホを見ていますからね。誰も人の顔を見ていない。

――少しお二人に読書のお話について伺いたいと思います。近年は「本離れ」の話もよく聞かれるようになりましたが、堂場さんは本を読むことの意味、メリットについてどのように考えていますか?

堂場:読書は想像力を鍛える場だと思います。自分にはまったく関係ない世界に没入できるし、文字だけしかないから自分で想像をして補わないといけない。だから僕は想像力を広げるために海外の作品しか読まないようにしています。

日本の作品はなんとなく想像できてしまうけど、海外の作品は本当に知らない世界が書かれているときもあるから、それを楽しんでいますね。

――三上さんは役者というお仕事柄、「想像力」は台本を読む際に必須の力だと思います。

三上:今の堂場先生のお話はまさにそうだと思います。想像力ですね。台本の場合は、小説よりも情報がそぎ落とされていて、ト書きという最小限の動作を指示するものはあるんだけど、まずはそこに囚われないようにしています。

セリフは決まっているから、これを使ってどこまで遠くに行けるかということを想像するんですよ。例えば、敵が去って行くシーンで、バン!と机を叩いて「コノヤロー!」と言う。ト書きには、「机を叩く」という指示があるのですが、そのときの背景や状況、人物像などを想像した上で、もし叩いたら(演じる役が)弱く見えてしまうなら、ト書きすらも外してしまうんです。

「2人で対峙して話している」という指示も、実際はその距離によってまったく変わります。そこは本当に想像力ですね。

僕は15歳で寺山修司の劇団に入りました。彼は僕が20歳の時に亡くなったので、晩年の5年間しか知らないし、2人で親しく話したこともないけれど、「どんな鳥も想像力より高く飛べる鳥はいない」という彼の遺した言葉は印象的です。手法やテクニック、既成の考え方はまず捨てなさい。なんでもありというところから始めなさい。そういうことを教わった気がしますね。

――三上さんは小説を読むと、たくさんの想像を張り巡らせそうですね。

三上:仕事柄、小説しか読まないかな。想像できるし、想像しないと楽しめないから。でも、ドラマに入る時は映画と小説を断つんですよ。読むだけならいいんだけど、想像力が加わると(その小説の世界から)逃げられなくなっちゃう(笑)

堂場:役者さんの小説の読み方は気になります。

三上:そういう意味では、役者は最も良い小説の読者かもしれないですね。

堂場:私たち作家は想像してほしいんですよね。自分が書いた以上のことを想像してもらえると、すごく嬉しい。役者さんはいろんな想像をしてくれるから嬉しいです。

三上:自分の気持ちを置いて読み込むという習性が身についているから、「この登場人物が嫌い」というのが一切ないんですよ。

堂場:よく、小説の登場人物に感情移入できないということを言われるけど、僕はそれでいいと思うんです。自分と違う人を知りたいから読むわけで、感情移入するためにあるものじゃないから。

三上:そういう意味では、日ごろのうっぷん晴らしのために読んでいるパターンはあるかもしれません。慰められたいとか、共感したいとか。

堂場:そういうのはあるかもしれないですね。『社長室の冬』は誰にも感情移入できないように書いているので、感情移入できる人は、どこか歪んでいるのかもしれません(笑)

――三上さんは本を一気に読んでしまうタイプですか?

三上:僕は基本的には時間をかけますね。なめるように読んでいきます。5ページずつ読んでいくときもあるし、でも、一気にいっちゃうときもありますね。

堂場:あ、最後まで読んじゃった!っていうこともあるよね。

三上:あります。それは本当に幸せなことですよね。

堂場:時間がいつの間にか経っていた読書って幸せなんですよ。

――堂場さんは読書の時間をどのように取られているのですか?

堂場:僕はジムで自転車を漕いでいるときに読みます。

三上:自転車ですか! 電子書籍を読んだりしてるんですか?

堂場:普通の単行本ですね。以前は通勤のときに読んでいたんですが、今は通勤がないので、ジムの中でまとめて時間をとって読んでいます。

――では、4月30日スタートのドラマ『連続ドラマW 社長室の冬-巨大新聞社を獲る男-』について一言お願いします。

堂場:日本のドラマは組織をテーマにしたものが多いですが、「組織とはこういうものだ」というセリフは負けた人が言うんですよね。ただ、このドラマはそうではない。その意味ではアメリカライズなドラマなのかもしれません。ただ、その一方でドライな解釈もできない。

三上:つまり、「いいところ取りのドラマ」ですね。

(了)

■「連続ドラマW 社長室の冬-巨大新聞社を獲る男-」

4月30日(日)スタート(全5話)
毎週日曜 夜10:00(※第1話無料放送)
公式HP:http://www.wowow.co.jp/dramaw/shacho/

社長室の冬

社長室の冬

『警察回りの夏』『蛮政の秋』に続く、「メディア三部作」完結編!

この記事のライター

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金井元貴

1984年生。「新刊JP」の編集長です。カープが勝つと喜びます。
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audiobook:「鼠わらし物語」(共作)

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