だれかに話したくなる本の話

【「本が好き!」レビュー】『ジャイロスコープ』伊坂 幸太郎著

提供: 本が好き!

ちなみに金田一京助三省堂国語辞典2版にはこの意味のジャイロスコープは載ってませんでした。

伊坂さんの7編の短編集です。初出の雑誌も時期もばらばらですからSF風アリ、推理小説アリ、職場小説(こんな分類あるかしら)アリ、ファンタジー風アリ、幻想小説アリとバラエティーに富んでいます。そもそも伊坂さんは「伏線ばら撒ききっちり回収」という必殺技を得意としている作家さんですから、こういった短編は如何なものかと心配していたのですが、最終話「後ろの声がうるさい」できちんとオチを付けてくれています。本当に几帳面な作家さんですよね。
○浜田青年ホントスカ
家出して青年・浜田が相談屋という怪しい商売のアシスタントのバイトをするお話。実は雇い主・稲垣には浜田君を雇い入れる別の目的がありどんでん返しとなるのですが、これをもう一回ひっくり返す「お好み焼き」小説となっています。短編にしては荒業披露です。

○ギア
椎名誠を髣髴させる近未来荒廃世界を舞台にSF風に謎の生物・セミンゴを紹介します。3mもある銀色の未知の生物セミンゴの造形が素晴らしい。

○if
題名からも一見「もしあの時別の行動をとっていたら人生がどう変わっていただろう」という「もしも」ものとミスリードさせますが、実はそうでないところが新しい。上手くだまされていい気分です。

二月下旬から三月上旬
何かと厄介ごとに巻き込まれる困った幼なじみ・坂本ジョンにまつわるとばっちり集。読者に時間軸を混乱させる仕組みになっています。上手いプロット構成にうならされます。

○一人では無理がある
一見ファンタジー風にサンタクロース業者の仕事ぶりを紹介していますが、そこは伊坂センセ一筋縄では終わりません。なぜ「一人では無理がある」のか?風が吹けば桶屋が儲かります。

○彗星さんたち
新幹線の掃除婦の日常の悲喜こもごもを小説にまとめたお話かと思いきや最後はなるほどと納得。

○後ろの声が聞こえる
新幹線で後ろの席に座った2人の乗客の謎を解く推理作品。ここまでの6羽に拾い残した伏線を上手くまとめて納得の結末になっています。

もちろん伊坂さんも「終末のフール」などSF風の作品はあるのですが、SF作品「ギア」はきっちり近未来SFでむしろ彼らしくなく、新趣向を楽しませていただけました。これ、長編で読みたいです。

(レビュー:塩味ビッテン

・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」

本が好き!
『ジャイロスコープ』

ジャイロスコープ

助言あります。スーパーの駐車場にて“相談屋”を営む稲垣さんの下で働くことになった浜田青年。人々のささいな相談事が、驚愕の結末に繋がる「浜田青年ホントスカ」。バスジャック事件の“もし、あの時…”を描く「if」。謎の生物が暴れる野心作「ギア」。洒脱な会話、軽快な文体、そして独特のユーモアが詰まった七つの伊坂ワールド。書下ろし短編「後ろの声がうるさい」収録。

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