だれかに話したくなる本の話

【「本が好き!」レビュー】『蔵書一代―なぜ蔵書は増え、そして散逸するのか』紀田 順一郎著

提供: 本が好き!

著者の蔵書に関するエッセイです。
著者は、老齢期を迎え、扱いやすい家に転居するためにそれまでに溜めに溜めた約3万冊の蔵書を(泣く泣く)処分したそうです。
本書は、そのいきさつや、個人蔵書の行く末などについて語った一冊です。

作中でも述べられていますが、職業として文筆業を営む方は、どうしても資料が必要になり、本を書く度に相当数の蔵書が増えていくということです。
図書館を利用したいという気持ちは山々なのだそうですが、現在の日本の図書館というのは、文筆家にとって使いにくいものだそうで、どうしても必要な本は自分で揃えなければならなくなり、いきおい蔵書が増大してしまうのだとか。

本を書き終えたらそのような資料として入手した本は処分してしまえば良いとも思えるのですが、なかなかそういうわけにもいかないのだとか。
改訂しなければならなかったり、出典や引用部分などを残しておく必要もあり、少なくとも数年間は、資料として使った本のセットは保管しておかなければならないのだとか。

私たちのように、本を書くわけではないもっぱら読み手としての者であっても、蔵書が増えていくのですから、プロともなるとその何倍ものスピードで蔵書が増え、また、処分もできなくなるのでしょうから大変なことです。

また、そのようにして増えてしまった蔵書を処分するのがこれまた大変なのだそうです。
希望としては、散逸を防ぐために個人の蔵書を丸ごと保管してくれる文書館のような公的施設があれば望ましいのですが、昨今、図書館なども寄贈本を快く受け入れてくれるわけでもないそうです。
特に専門的な分野の本ともなると、そんな本は誰も読まないということで受け入れてはくれないのだとか。

図書館自身、蔵書数の増加に悩まされており、利用されない本は廃棄するというのが既定の方針なのだとか。
本書中にアメリカでの同様な事情が紹介されているのですが、アメリカのある図書館員は、利用者がいないという理由だけで貴重な本が廃棄されてしまうことに危惧感を覚え、仮名を使って利用履歴を残し、利用されない本を廃棄から救おうとしたのだそうです。 その気持ちは非常によくわかるのですが、ところが、その図書館員は公文書偽造容疑で取調べを受けたのだとか(その結果どうなったのかは書かれていませんが)。
なんともやりきれなくなる話です。

まぁ、図書館側の事情も分からなくはないのですが。
図書館にまつわるエピソードとしては、戦時中の蔵書の疎開話が興味深かったです。
戦火を免れるため、実際に疎開が行われたのだそうですが、これがまた大変な話で、当時は鉄道輸送や車両輸送が使えなかったため、図書館員が本を担ぎ、あるいは大八車に乗せて人力で疎開させたのだそうです。
大変だ~。
この努力により、貴重な本がある程度救われたということで、まったく頭が下がる話です。

自分のことを顧みても、大した数ではないけれどやはり蔵書の管理には頭が痛くなります。
もはやこれ以上本棚を増やすことはスペース的にも望み薄なので、現在は本棚からあふれた本は段ボール箱に入れて物入などに積み上げているのですが、その数も馬鹿になりません。
引っ越しの度に頭が痛くなります。
そのような段ボール箱入りの本の中から出したい本がある時もあるんですが、探索と開披の手間を考えると諦めてしまい、結局段ボール箱入り本は死蔵状態になってしまっています。
いつか、これ以上引っ越しをしなくても良い時になったら、何か考えないといけませんね~。

私程度ですらこうなんですから、蔵書が『万』単位になるとこれはもう絶望的な気持ちになってきます。
著者は、『万』単位の蔵書を維持するには体力が必要であると書いています。
日常、はたきかけ等の管理をするにも大変ですし(そういえば、私、本の虫干しって全然やってないけれど、大丈夫なのだろうか?)、著者の知人は高い場所にある本を扱おうとして脚立から転落して腰を痛めたのだとか。
そういえば、本当かどうか知りませんが、ある本に関する書籍には、図書館員の怪我の原因の第一位は転落事故であると書かれていましたっけ。

はたまた、蔵書の処分や移動の際の箱詰め、箱の運搬作業も、本は重いだけに重労働となるそうです。
年を取ってからのこれらの作業は相当に大変なことになることが容易に予想されます。
私の中学時代の先生(国語担当)も相当な蔵書家でしたが、庭に物置小屋を建て、そこにとんでもない数の本を入れているのを見たことがあります。
そうでもしなければ収まりがつかないのでしょうけれど、庭も無い者にとってはそれすらできないことではあります。

この後も蔵書は増えていくのでしょうけれど、なるべく抑制するためにも、今後も図書館の利用、電子書籍の利用は欠かせないところなのでしょうね。
現在、私はよほどのことが無い限り、まず図書館で借りるようにしており、読んだ上でどうしても手元に置きたい本だけを買うようにしています(あるいは図書館に置かれていない本は仕方が無いので買います)。
買うにあたっても、やはり紙の本が欲しいのか、電子書籍でも良いかを考え、後者であればなるべく電子書籍で買うようにしています。
とは言え、美術書なんかはどうしても紙の本じゃないとどうにもならないんですけれどね。

う~む、悩みは尽きないなぁ。

読了時間メーター
□□□     普通(1~2日あれば読める)

(レビュー:ef

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本が好き!
蔵書一代―なぜ蔵書は増え、そして散逸するのか

蔵書一代―なぜ蔵書は増え、そして散逸するのか

やむをえない事情から3万冊超の蔵書を手放した著者。自らの半身をもぎとられたような痛恨の蔵書処分を契機に、「蔵書とは何か」という命題に改めて取り組んだ。近代日本の出版史・読書文化を振り返りながら、「蔵書」の意義と可能性、その限界を探る。

この記事のライター

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