だれかに話したくなる本の話

【「本が好き!」レビュー】『伴走者』浅生 鴨著

提供: 本が好き!

一話目がマラソン、二話目がアルペンスキーの二部構成です。
ちょうど平昌オリンピックとパラリンピックが終わったばかりなので、
感動の余韻を残したまま手に取りました。

浅生鴨さんといえば、「中の人などいない」を最近読んで、距離感の取りかたの
上手い人だなあと思っていました。
数年前から小説を中心に活動しているみたいです。
この人ならお話を書けるかもと思っていて、たしかに一定レベル以上の
仕上がり感のある作品でした。
でもどこかもの足りない感もあり、うまく言えませんが、もう一段階突き抜けて
くれるといいなと期待をこめて書評にまとめます。

一話目のマラソン。精密機械と呼ばれ、レース展開に左右されない能力を持つ
淡島ですが、どうしてもトップに立てません。
市民マラソンのボランティアをしていた時、旧知の片瀬に呼ばれました。
行ってみると、金髪で態度の悪いチンピラが座っていました。
お前、淡島さんだろと声をかけてきたその男が、全盲のランナーだったのです。
勝ちにこだわり、ブラフもいとわない姿勢に、淡島は翻弄されていきます。

人物造型が分かりやすく展開も前のめりでしたが、ブラインドマラソンならではの
展開には目を引くものがありました。

二話目はアルペンスキー、こちらが私の本命です。
私の話になりますが、大学時代から年に数回行くようになったスキーを、
下手の横好きでいまだに続けています。初めてのスキーは小学生のときで、
中学時代に友人たちと行った北志賀スキー場はいまだに記憶が鮮明です。
スキーが題材になる小説は少ないので、それだけで気分が上がりました。
スキーの描写はつい辛口になってしまいますが、風を切って滑る
開放感が文章から伝わってきてほとんど一気読みでした。

立川は元全日本トップのアルペンレーサーで、いまは北杜乳業の営業です。
アルペンスキーは、回転・大回転・スーパーG・滑降が基本となる競技です。
会社がパラリンピックに目をつけて、全盲の国際スキー大会のスポンサーに
なりました。立川に声がかかり、全盲レーサーと出場しろと言うのです。

スキー部の長谷川に連れられていった地元のゲレンデで、黒磯というガイド
レーサーに女子高生の晴と引き合わされました。
ものは試しとゲレンデで一緒に滑ってみると、立川は圧倒されてしまいます。
速いのです。
そこいらの草レーサーでは到底かなわない、全日本クラスの速さなのです。
だから立川じゃないとガイドレーサーが務まらない状況なのでした。

スキーシーンや食事シーンなどで、自分たちが知らず知らずのうちに
盲人の人たちに取ってしまう行動にどきっとさせられました。
それだけでも読む価値があります。
女子高生の揺れる心情とか、立川のスキーに対する姿勢やわだかまりなども
加わり、いろいろと楽しめる作品でした。
ラストの展開はどうかなと思いますが、次も期待したいと思います。

(レビュー:たけぞう

・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」

本が好き!
伴走者

伴走者

「お前は伴走者だ。俺の目だ」『夏・マラソン編』「速いが勝てない」と言われ続けた淡島は伴走者として、勝利に貪欲で傲慢な視覚障害者ランナーの内田と組むことに―。『冬・スキー編』優秀な営業マンの涼介は、会社の方針で全盲の天才スキーヤーの女子高生・晴の伴走者をするよう命じられるが…。自分ではなく他人のために勝利を目指す。熱くてひたむきな戦いを描く、新しいスポーツ小説!

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