だれかに話したくなる本の話

「ゲスな自分をありのまま書いた」住所不定無職の作家が描く波乱の半生

『ボダ子』の著者、赤松利市氏

2018年に『藻屑蟹』で第一回大藪春彦新人賞を受賞してデビュー。
その圧倒的な筆力が注目を集めると同時に、「路上生活の経験あり、定職なし」という経歴から「住所不定、無職の新人」として話題になった赤松利市さんの新刊『ボダ子』(新潮社刊)は、自身の波乱に満ちた半生を描いた私小説だ。

人生から転落してなお女を追わずにいられない男と、女と仕事にしか向かぬ男の視界の外で精神を病んでいく娘。そして東日本大震災の被災地の過酷な実情。

生々しい中に人間の業の深さと人生の悲しみが漂うこの作品がどうできあがっていったのか。そしてなぜ今回、自分自身の生を題材にしたのか。赤松さんにお話をうかがった。

ボダ子

ボダ子

バブルのあぶく銭を掴み、順風満帆に過ごしてきたはずだった。
大西浩平の人生の歯車が狂い始めたのは、娘が中学校に入学して間もなくのこと。
愛する我が子は境界性人格障害と診断された……。
震災を機に、ビジネスは破綻。東北で土木作業員へと転じる。
極寒の中での過酷な労働環境、同僚の苛烈ないじめ、迫り来る貧困。
チキショウ、金だ! 金だ! 絶対正義の金を握るしかない!
再起を賭し、ある事業の実現へ奔走する浩平。

しかし、待ち受けていたのは逃れ難き運命の悪意だった。

未体験の読後感へと突き動かす、私小説の極北。