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『エロスでよみとく万葉集 えろまん』大塚ひかり著【「本が好き!」レビュー】

提供: 本が好き!

昨年、令和の改元によって注目された万葉集。まだ固有の文字を持たなかった日本人が、漢字の音を借りた万葉仮名によって記された歌集であるので、漢籍の影響は受けてはいるが日本ならではの特徴も有している。それの典型が著者の言う『エロ』である。万葉集には漢詩には少ない恋歌が多い。しかも、平安文学にあるような抑制され苦しむ恋だけではなく、奔放に性愛を謳いあげたものが多いのが特徴。

この特徴は、当時の社会において女性の地位が高かったからというのが著者の主張である。男が女の家に通い結婚が成立する。女が世帯主となり、母から娘へ家土地や権勢が相続される社会形態は、娘が大事にされるのと同時に、性に対する締め付けが緩くなる。父系社会では「誰の種の子か」ということが大事なのであるが、母系的社会では「誰の種であろうと我が娘が子を生んだ」その事実こそが重要なのだ。

「子供は母方の負担(財力と労力)で育つんだから、女が夫以外の男とセックスして、子供を生んでも女の負担になるだけだ。別にいいじゃん」

なのである。

御託はこのくらいにして、万葉の時代の奔放な性の歌を少し紹介しよう。

≪あらかじめパンツを脱いで待ってる女≫
人の見る上は結びて人の見ぬ下紐開けて恋ふる日そ多き
(人が見ている上着の紐は結んでいるけど、人が見えない下着の紐は開けている。こうしてあなたを待っている日が多いの)

≪触れてもいないのにどこが濡れているの?≫
行き行きて逢はぬ妹故ひさかたの天の露霜濡れにけるかも
(いくら行っても逢わないあの娘のせいで、天の露霜に濡れてしまった)

我妹子に触るとはなしに荒磯廻に我が衣手は濡れにけるかも
(いとしい妻に触れてもいないのに、寄せる荒磯で袖が濡れてしまった)

本書では『エロ』の一歩手前、すなわち万葉人たちの恋愛事情についても触れている。「人妻ブーム」「三角関係」「男の妄想」「すぐに死ぬ死ぬ言う男女」「老いらくの恋」そして「嫉妬」。そこには、令和にも通じる恋愛を燃え上がらせる必須アイテムが垣間見える。

≪ほほ笑んだだけで「俺のヨメ」とか言う男≫
道の辺の草深百合の花笑みに 笑みしがからに妻と言ふべしや
(道ばたの草深百合の花のように、ちょっと私がにこっとしただけで、ヨメとか言っていいと思ってる?)

≪知性全開、チクリとした嫉妬≫
うちひさす宮の我が背は 大和女の膝まくごとに我を忘らすな
(日の当たる場所、宮中に仕えるあなた、都会女に膝枕されるたび、私のことを思い出してね)

これまで万葉集の本を色々読んできたが、『エロ』を切り口にして炙り出された歌がずらりと並ぶと、ある意味新鮮な驚きを覚えた。

著者の斬新な現代語訳もその面白味を引き立てる。万葉集ファンには、ぜひ手に取っていただきたい一冊。

(レビュー:いけぴん

・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」

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エロスでよみとく万葉集 えろまん

エロスでよみとく万葉集 えろまん

ナンパする天皇に、パンツを脱ぐ乙女?!
万葉集はこんなにエロ面白かった!

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