レビュー

人に何かを伝えるときに、なかなか上手く話が伝わらなかったり、どういう風にアプローチをしていいのか分からない人は多いと思う。特に上司と部下の関係の中で、部下が上司に進言するときは変に気を使ってしまうだろう。
そういう場合は、話し方を変えることでクリアされるのだが、これがなかなか難しい。「話し方を変える」と一言で言っても、じゃあ一体どう言えば効果的なのか。一緒に働く仲間とは言っても、ビジネス上の付き合いである。そういった付き合いの中で、変に進言してしまえば余計ディスコミュニケーションになってしまわないか…などなど、さまざまなプレッシャーが降りかかってくることもある。

本書『言いたいことが伝わる話し方のコツ』は、そういった状況を乗り越えるためのヒントを与えてくれる1冊だ。技術論的な部分ももちろん、「進言をする」という部分の考え方の部分もカバーしている。
著者の門脇竜一氏は人材開発コンサルタントとしてさまざまな現場を見てきた。そんな門脇氏はインタビューにおいて、大事なことは「上司と部下の相互理解」であると述べている。相手のことを理解する気持ちを持つこと、そこから通じ合える関係というのは生まれていく。その上で進言をすれば、相手も納得してくれるだろうし、もし完全に理解できていなくても(むしろ他者のことを完全に理解できる人はいないように思うが)、相手のことを考えるという気持ちがあればそこで心は通じ合える。 実はこのことは全ての人間関係において通じることだ。そして、教師と学生、親と子どもなど、さまざまな縦の関係がフラットになり、そして再構築されている。その中でもこの相互理解は必要不可欠である。

もし、この「相手の立場で考える」ことがなくなれば…。インタビューで門脇氏はこのことにも言及しているので是非そちらを読んで欲しい。
ともあれ、本書は今まで「どうすれば」と悩んできた若手ビジネスパーソンだけではなく、上司という立場にいる方々にも有効だ。本書を活用し、壁を突き破って欲しいと願うばかりである。 (新刊JP編集部)

プロフィール

門脇 竜一 (カドワキ リュウイチ)

有限会社クリアマイン代表取締役/組織&人材開発コンサルタント。
1963年兵庫県生まれ。奈良工業高専3年修了、関西大学経済学部経済学科卒業。自動車、産業機械、外食、化学の4業界を渡り歩き、15年あまり企業人として過ごす。経験した職種は、情報システム開発、営業(消費財・生産財)、販売促進、採用、教育、総務、人事、企画と多岐に渡る。この経験を活かし、現在は、組織&人材開発コンサルタントとして、組織(チーム)と社員の活性化のために日本全国を飛び回っている。これまで北海道から沖縄まで出会ったビジネスパーソンは10,000人超。
新入社員から中堅社員、管理者から経営者まで、さまざまな階層の人々の悩みを理解し、その解決に日夜奮闘努力している温厚なるも熱い男である。
著書に『管理者になった人が最初に読む本』、『デキる社長は持っている社員の声を「聞く力」』(ともに総合法令出版)がある。

インタビュー

◆「悩む方々に少しでもヒントになればいいな、と。やる気があって悩んでいる方々は、実は悩みが深いんですよね。」

―まず本書を読ませて頂きまして、上司と部下の関係、その中でも特に部下から上司へのコミュニケーションの取り方という部分がテーマということなんですが、この問題は若手社員にとってすごく重大な問題だと思うんですね。そこで質問なんですが、どのようなきっかけで本書を書くことになったのですか?

「職業柄、人材開発コンサルタントという仕事をしていますと、研修会場ですとか特定の会社様の方に入りまして、いろんな会議に出たり、打ち合わせをすることが多いのですが、そういうときに若手のビジネスパーソンの方々から『どう(上司と)接していいか分からない』と戸惑っていらっしゃる、悩んでいらっしゃる声をよく聞くんです。
ただ、彼らはすごくやる気があるんです。やる気があるからこそ、なんとかいい状態にしていきたい。だけれど、どうしていいのか分からない。そこで私がいろいろ接していくなかで、『上司の方はどんな感じなんですか?』といったことや『どういうことを(上司に)言いたいんですか?』と問いかけてみると、しっかりとした想いは持っていらっしゃるんですね。『こういうことを考えてみたんですけど、話を聞いて欲しい』とか。
だから、そのとき私は『こういう言い方がありますよ』とか『こういう風に接したらいかがですか?』という風にアドバイスするんですが、そうしますと『あ、そういうやり方があるんですね』というような声が返ってくるんです。そうする内に、もしかしたら同じように悩んでいる人はたくさんいるのでは、ということに気づきまして、それを一冊の本にまとめてみようと思ったのがきっかけですね。」

―実際の現場の声を聴いて、問題意識を持ってまとめたということですね。

「そうです。悩む方々に少しでもヒントになればいいな、と。もちろん話していて、上司が悪い、会社が悪い路線に走っていく方も中にはいらっしゃいます。でも、そういう方は自分の力でなんとかしていこうという感じではありません。一方、やる気があって悩んでいる方々は、実は悩みが深いんですよね。なんとかしていきたいんだけど、どうしたらいいのか分からない。研修会場で出会う方は、そういう風に悩まれている人の方が多いと思います」

―最近、上司が部下とどう接するかということを書いた本が多いと思うんですね。つまり、それは上司とはどういう存在かということが問われているんだと思います。でも、本書は「部下とはどうあるべきか」ということに言及していますよね。

「そうです。言いたいことはそれなんですよね」

―それは面白かったです。現代は「先生―生徒」ですとか、「親―子ども」ですとか、そういう縦の関係がフラットになっている。そういったところで、「上司とはどうあるべきか」というのが問われてきているのですが、でも逆に「部下」ってなんだろうということはあまり問われない。私自身は「部下とはどういう存在か」という部分も問われなきゃいけないと思うのですが、その点についてお考えですか?

「おっしゃる通りです。今、上司としても環境の移り変わりが激しい時代で、前提のないようなことばかりが起こっていますよね。100年に1度(の金融危機)と言われていますけど、誰もどうしたらいいのか分からない状態になっていて、その中で『なんとかしろ』と、生き残っていくために結果を出すことが求められている。そういう状況の中で、上司として、マネージャーとして、『上司とはどうあるべきか』を真底問われだしているのは事実です。
でも、その中で上司も『あれもやらなきゃいけない』とか、『本当はこういうことやっていくべきなんだろうけど』とか、迷いとか悩みもたくさん抱えてくるんですよね。だから、よく上司は『多重債務者』という言い方をされますが、そういう中で、上司としてどうあるべきかと指針を探しているのが、今の上司の状態です。
で、部下の方ですが、そうした上司の仕事を受け取る部下が部下らしくといいますか、新しい部下像といいますかね。上司と一緒に仕事をするチームがあって、部下はそのチームの頼りになるプレーヤー、つまりメンバーとしての部下と。そうした動きができるかという部分が重要になってきているんです。上司がやることが山積みになっている中で、例えば部下の方から提案してくれたりとか、言いたいことがあると出てきてくれたりすると、その糸口がつかみやすいですよね。管理職の方々ともよく話す機会があるのですが、やはり(部下に対して)遠慮しているところは非常にありますね。『もっと細かく相談に乗らないといけないんだけど…』と、そういう風にも思っています。だからこそ、部下の方から申し出てくれると、話が入りやすいんですよね。」

◆「お互いがお互いの立場をしっかりと理解し合える。これができるチームは最強です。」

―本書は上司も読んで面白いと思うんですね。本書の中に、「上司も部下からどんどん言って欲しい」と書いてありますが、言われないと分からないし、言って欲しいし。その引き出し方というのは、上司や管理者にとって「なるほどな」という風になるのではないか、と思います。

「その通りです。ありがとうございます(笑)。実は本書は、部下からっていう一方的なコミュニケーションを書いたのではなくて、部下と上司、両方が幸せになるために書いた本なんです。つまり、チームとして上手くいくための部下のアプローチの仕方ですよね。
部下も『やりたいな』と思っていることはたくさんあるんですよ。ただ、どうアプローチしていいのか分からなくて躊躇してしまう。そのときに、道標といいますか、一種のナビゲーションになってくれたら幸いですね。そして、1つきっかけをつかめましたら、さらにいろんな道筋が見つかると思います。管理者の立場の人は、2年前に書いた『管理者になった人が最初に読む本』(総合法令出版)の方も参照していただくと、より理解が深まると思います。」

―門脇さんが考える理想の部下像といいますか、あるべき部下の姿というのは具体的にはありますか?

「理想の部下像というのは、理想の上司像とかぶるところもあるのですが、まずは相互理解が出来ているということです。つまり、お互いがお互いの立場をしっかりと理解し合える。というのは、良い意味で最近こんな言葉を使うんですが、『自分を透明にできる』ということですね。自分を透明にして上司のことを考える。『上司だったらどういうことで悩んでいるんだろう』という風に、相手の立場に立って考えられる。
上司も同様です。『A君はこういうことを抱えているから、相談したほうがいいよな』というように部下の立場で考えることができる。これができるチームは最強です。トラブルが起きているところは、自分の立場だけしか考えずに、しかも意見をぶつけ合わないまま表面的な付き合いばかりになっていることが多いと思いますね。」

―それは経営そのものにも通じるように思います。個人に経営センスが問われる、ということですね。

「そうです。相互理解から、経営者的な経営センスといいますかね、『将来を作っていくぞ』という感覚が必要になってくるんですね。しんどいけど、今の仕事をどんどん効率化して、生産性あげて余力作りながら新しいこともやっていかないといけない。
でも、先を読みながら、将来を作っていくために今があるということを考えながらやっていくことが重要で、これはまさに経営者のスタンスですよね。将来こうしたいんだという想いがあって、それを受けたマネージャー層、管理者層がそれを執行していく、現場を動かしていく。それを受ける現場の方も将来のために意味のあることだから、大事なことだと思うくらいのセンスがあれば、我慢できると思うんです。将来幸せになるためにしていることですから。」

―人材開発コンサルタントとしてご活躍中の門脇さんですが、人事や組織などに頭を悩ます企業にはどのような共通点があると思いますか?

「別な表現でいうと、私どもの方からお手伝いがしにくい会社という捉え方があります。『うちは○○するための会社です、そのためにこういった人が必要なんです』『今いる方々はこういう方々で、こういう力が必要だと思っています』という非常に明確な目的を持っているところはお手伝いがしやすいのですが、『うちは一生懸命やっているけど物足りないところがあって…』という、その物足りない部分が具体的ではない、つまりビジョンが明確ではない会社は難しいですね。それは経営のビジョンであるとともに、組織、チームのビジョンでもあります。経営戦略と人事戦略は連動しますからね。」

―本書には「パワーワード集」という具体的な言い方が掲載されていますが、こうした言い方を覚えるためには常に意識しないといけませんよね。それを覚えるためのコツというか、トレーニング方法はありますか?

「本書を読んだからといって、今まで会議でジーっとしていたのがいきなり発言するのはハードル高すぎますよね(笑)。だから、まずは地道なトレーニングとして、相手のことを考えるという相互理解の部分から入るのがいいと思います。常にチームがどういうことをしているのか、そのために誰がどういう風に動かないといけないのか、何をしないといけないのか、そういうことを常に意識して持っておく。その中で、『自分に出来ることってあるよな』『自分だから気づくところ、見聞きできることあるよな』、と。現場に一番近い方々ですから、気になるんですよね。そこで半歩踏み出す勇気を持って気持ちを言葉にしてみる。自分だからこそいわないといけないという意識することが重要だと思います。」

―本書をどのような方に読んで欲しいですか?

「真面目で誠実な方ですね。真面目に誠実に、なんとかいい仕事を残していきたい、チームとして仕事を仕上げて行きたい、貢献していきたいというそういう気持ちをベースに持っている方には是非読んで頂きたいです。で、そういう気持ちを持っているからこそ、悩んでいることが一杯あるはずなんですよ。それを少しでも解きほぐして楽にしてあげるためのナビゲートガイドという気持ちをもって書いています。」

―最後に、新刊JP読者の方々にメッセージをお願いします。

「まず悩んでいる自分を、いい意味に前向きに捉えて下さい。『上手くいかないな』とか『悩んでいる時点でダメなんだ』なんて思わないで下さい。私から見れば『あなたは偉いよ!』と思います。悩むところから進歩が始まります。その悩みの根底には、自分の立場でいい仕事をしていきたい、チームでどんどんいい仕事を組み立てていきたいという気持ちであるはずです。だから、そういう気持ちを持っている自分を誉めてあげてください。そして着実に進歩するためのガイドとして、いい本に出会えたと思えるような本を作りました。是非、気楽に手に取ってください。」

―大変貴重なお話、ありがとうございました!

◆門脇さんがお勧めする3冊
  • 『リッツ・カールトンが大切にする サービスを超える瞬間』高野登著(かんき出版)
  • 『絆が生まれる瞬間』高野登著(かんき出版)
  • 『日本でいちばん大切にしたい会社』坂本光司著(あさ出版)
・門脇さんのコメント

 最近、再確認する意味でよく読んでいます。もちろん現実論の中では大変なところもあると思いますが、「何のために我々はこれをやっているんだ」というところの原点にあたるところが書かれています。この100年に1度の危機云々というところの中で、そうした根底の部分が重要だということを再確認しましたね。本来、色んな産業というのはこういった産業があると喜んでくれる、ありがたいと言ってくれる人がいるところから生まれてきたはずなんですよね。ところが、どこからか自分のところが良ければいいという方向に走っていってしまう。でも、それはやはりダメだよと言われ出したのがちょうど今なのかな、とそういう捉え方をしています。やはり「何のために」ということが大事になってくるなということが、最近の私のトピックスです。

◆取材後記

「温厚・誠実がモットー」というだけあり、穏やかながらも熱い話をして下さった門脇さん。ちょっとした寸劇(!?)を交えながら、現場で起こっているさまざまなことを分かりやすく説明して下さり、笑いが絶えないインタビューとなりました。そんな門脇さんの著書は、穏やかながら熱く、そして真摯に悩みに応じてくれる一冊となっています。是非とも読んでみてください。
インタビュアー/金井元貴(新刊JP編集部)

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書籍情報

書籍名: 言いたいことが伝わる話し方のコツ
出版社名: 総合法令出版
著者名:門脇竜一
価格:1,260円

目次

◆はじめに

話す自信が湧いてくる伝え方の技術

◆第1章

評価を上げて、意見を聞いてもらえる人材になる

◆第2章

上司にあなたの意見を聞いてもらおう

◆第3章

即活用可能! 評価をアップさせるパワーワード集

◆第4章

あなたの評価を上げるシンプルな法則

◆あとがき