■もしかしたらラブコメになっていたかも知れなかった
―この作品はもともとウェブで連載されている小説を再構成したものになりますが、そもそも本作はいつ頃から構想を練られていたのですか?
「ウェブ上での連載開始が約10年前で、実はそれ自体がもっと前から書いていた作品のリメイクでした。ですから一番最初に構想を練り始めたのはさらに2、3年前だったと思います」
―書き始めるときに、考えていらっしゃったテーマはありますか?
「「読んでいる間だけちょっと楽しい娯楽作品」というのがテーマです。読むのに心構えが必要だったり読んだ後に深く考えさせられたりするようなものではなく、クセをなくして単純にドキドキやワクワクを楽しめるものを目指しました」
―本作の世界観はどのように作り上げていったのでしょうか。
「まずキャラクタから作り、大きなお話の流れをいくつか作って、最後にそれに合う世界を設定しました。結果的にはゲームのようなファンタジー世界が舞台になりましたが、現代風の設定も最後の段階まで残っていましたので、もしそっちを採用していればティースたちが学校でラブコメみたいなことをやっていたかもしれません」
―人魔やデビルバスター部隊〔ディバーナ・ロウ〕等の設定など考える上で、苦心された点はありますか?
「物語上で必要のない部分の設定をどこまで作りこむべきかで悩みました。そこが薄ければ世界が死んでしまいますし、かといって濃くしようと思えばどこまでも作れてしまうので、そのさじ加減が難しかったです。この作品の構想を練っていた段階では多数の人に自作を読んでもらうという経験もほとんどなかったので読み手の反応も予測できず完全に手探りでした」
■「女性アレルギー」という特異体質が生まれた理由とは?
―ここからは1巻に出てくる主要登場人物4人についてうかがいたいと思います。
それぞれの人物になって、モチーフとなった人はいるのか、設定を決める際に気をつけたことなどについてお聞かせください。まずはティースから。
「作品テーマの一つであるドキドキやワクワクを表現するために主人公である彼には何度もピンチに陥ってもらうことになるのですが、それを読み手に一緒に感じてもらえるようなキャラクタということを強く意識しました。作中でも何度も書いているとおり頼りない男の子なので、一体になるというよりは味方の立場で温かく見守ってもらおう……というようなことを目論んでいます」
―続いて、ティースの同居人であるシーラについて。
「とにかくティースとの対比でお互いが際立つように、なんでもできる完璧な少女という正反対の性質を持たせました。ただ、この作品はティースの成長を描く物語でもあるので、彼が成長するにつれて今度は逆に彼女が隠していた完璧ではない部分が見えてくるという仕掛けにもなっています。そんな二人の関係の推移にも注目してもらえたらと思います」
―では、ファナについてはいかがですか?
「ティースにとって、そして物語全体にとってのきっかけだったり背景だったりという舞台装置的な意味合いが強いキャラクタで、実は年齢・性別ともに最終段階まで定まっていませんでした。結局はティースに「女性アレルギー」という属性がついたことで若い女性となったわけですが、重要なことを色々と抱えていたりもする人物ですので、物語の緊張を和らげる天然系のキャラクタでありながらも微妙に底の見えない雰囲気がにじみ出るように気をつけました」
―最後に、アオイについて教えてください。
「ティース・シーラの関係と同じように、ファナと対になるキャラクタです。ファナが見た目に反して意外に切れ者という設定のため、彼は逆に案外おっちょこちょいという不幸な属性を背負うことになりました。ただ、区切りの場面によく登場して物語を導入したり緊張を緩めたりという役割はファナと共通です。ファナのキャラクタが定まってから生まれましたので、主要人物の中では最後の最後に出来上がったキャラクタの一人です」
―ファナのところで出てきましたが、ティースには「女性アレルギー」という特異体質がありますよね。
「当初の構想では単に「女性が苦手」という、ティースの頼りないキャラクタを表現するための要素の一つに過ぎなかったのですが、実際に話の流れを考えていく段階で、もっと極端にしたほうが頼りなさが際立つし面白いんじゃないかという軽いノリであんな体質になりました。結果的にですが、ティースはああ見えて女性から好意を向けられることが案外多いので、流されやすい彼が間違ってそっちにゴールインしてしまわないための逃げ道にもなってよかったかなと思っています」
―では、第1巻の登場人物の中で最も愛着のある人物は誰ですか?
「やはりティースとシーラのコンビとは長い付き合いということもあって特別な愛着があります。その二人以外だとほぼ横並びですが、やはりレイ、アクア、レアスといった三人のデビルバスターたちでしょうか」
―この『デビルバスター』はウェブ上でも連載が続いていますが、結末はすでに考えていらっしゃるのですか?
「物語としての流れと結末は決まっています。ただ、個々の行く末に関してはまだ流動的なキャラクタもいて、各人物が私の想定していなかったひらめきを見せて運命が多少変わったりすることはこれまでもありましたし、これからもあると思います」
■頭をからっぽにして楽しんで欲しい
―黒雨さんが小説を書き始めたきっかけについて教えていただけますか?
「1巻の後書きに詳しく書かせていただいたのですが、子供の頃の人形遊びがきっかけです。文章を書くというよりは物語を作りたいというところから始まって、友達が作るゲームのシナリオを書いたりしました。漫画に挑戦した時期もありましたが、絵が絶望的にヘタクソですぐに挫折してます。
小説については小学生の頃からちょこちょこ書いていましたが、当時はほとんど誰にも見せることなくひっそりという感じでした」
―ペンネームの由来はどういったものだったのでしょうか。
「もともとネット上ではずっと「黒い雨」という名前を使っていました。これは名前を考える前日の夜に井伏鱒二さんの『黒い雨』を読んだからという単純な理由です。それからしばらくしてきちんと「氏名」の形にしようと思い、姓の「黒雨」は元の「黒い雨」から、名の「みつき」は昔書いた作品の主人公の名前「御月」から取りました」
―今回、初めての単行本となりますが、出来あがっての感想を教えてください。
「こんな適当な作者の作品でも素晴らしい本が出来上がるんだなと(笑) イラスト・デザインその他もろもろ、本当に素晴らしいプロの仕事をしていただいていると思います。 また、個人的には校正段階で指摘していただいた文章の粗の数々が非常に勉強になりました。 かかわってくださったすべての方々に感謝感謝です」
―好きな作家さんや好きな本、影響を受けた本を教えていただけますか?
「一番多く読んできたのは西村京太郎さんと赤川次郎さんの作品で、最近だと京極夏彦さんの作品をよく読んでいた時期があります。読み手としてはとにかく推理ものが好きで、漫画ですが『金田一少年の事件簿』なんかも大好きでした。
逆にファンタジーものは実はあまり読んでなくてパッと思いつくのはロードス島戦記、風の大陸ぐらいです。ファンタジーの知識はどちらかというとファイナルファンタジーやドラゴンクエストなどのゲームから影響を受けているかもしれません」
―今後やりたいこと、どんな作品を書いていきたいですか?
「まずはこのデビルバスターを完結させることですが、基本的に作品を通して何かを伝えたいという考えはなくて、とにかく気軽に楽しんでもらえるものをたくさん書いていきたいです。それが皆さんの日々の楽しみになってくれれば嬉しいです」
―最後に、このインタビューの読者の皆様にメッセージをお願いします。
「日常の色々なことはいったんリセットし、頭を空っぽにして楽しんでください。その上でティースの成長と活躍を応援していっていただけたら、生みの親としてはこの上ない喜びです。ここまで読んでいただいてありがとうございました」
黒雨(くろさめ)みつき
あまり難しいことを考えず読んでいるときだけちょっと楽しい、そしてふと思い出したときにまた「ちょこっと」だけ読み返したくなる物語、
というのを基本的なコンセプトにオリジナル小説をネットに投稿。
投稿開始から10年間連載していた「デビルバスター日記」が話題を呼び、書籍化が決定。ついに作家デビューを果たす。
ペンネームの「黒雨」は井伏鱒二の小説「黒い雨」に由来。