◆本書の解説
小売業最大の課題、それは「在庫をどのくらい仕入れるか」である。
「売れ残るリスクを抱えてまで在庫を持つべきか、それとも売上げが落ちるリスクがあっても在庫を減らすべきか」―小売業者たちは、このジレンマに悩まされているのだ。
本書はその「最大の課題」を、全く新しい発想によって解決してしまった。
『ザ・ゴール』を著し、現在の生産管理の考え方に大きな影響を与えた制約理論(TOC)を生み出したエリヤフ・ゴールドラット博士の待望の新刊は、これまでと同様―いや、これまで以上にスリリングな物語とともに、最先端のノウハウがつまった一冊となっている。
本書は「限界なんて、ないんだ」という言葉で締めくくられる。エンディングまでのストーリー、特に利益率が伸びた謎解きは本書を読んでもらうとして、小売業の可能性は如何なく感じることができるだろう。
また、岸良裕司氏の解説も読みどころ。非常に分かりやすく本書やTOCを解説してくれている。
まさしく、これまでの「小売の常識」を覆す一冊だ。
◆本書のあらすじ
ハンナズショップのボカラトン店(ボカ店)で店長を務めるポール・ホワイトは、自分は会社を辞めるべきではないかと悩んでいた。
なぜなら、彼がボカ店の店長になって以来、結果を出せていないからだ。地域のチェーン10店舗のうち、利益率で8位。その数字だけが事実だった。
そんなある日、ボカ店が入っているショッピングモールの水道管が破裂してしまい、地下倉庫が水浸しになってしまうという事件が起こる。
水道管の修復までには大分時間がかかると聞いたポールは、1日の売り上げの20日分の在庫を残し、それ以外の在庫商品を地域倉庫に送ることにした。
このポールの判断が、ボカ店、彼を取り巻く人々、そしてポール自身に大きな意味をもたらすことになる。
またその頃、ポールの妻キャロラインも大きな悩みを抱えていた。
彼女の父親ヘンリーは、ハンナズショップの社長であり、その父から社長の座を引き継いでくれないかと言われていたのである。キャロラインはハンナズショップ仕入れ責任者であり、その仕事が気に入っていた。
キャロラインはサプライヤー企業の買収をヘンリーに薦めるが、ヘンリーは首を縦に振らなかった。そして彼女は、「自分がどれだけ社長に不向きかわかったわ」とつぶやいた。
水道管の破裂事件から4週間ほど経ったある日、ポールの元に一通の電話がかかってきた。電話の主はハンナズショップ経理部部員のボブだった。
「娘さんも、お父さんのお店が今月、一番になったって聞いたらうれしいだろうしね」
これまで売り上げ不振にあえいでいたボカ店が、地域チェーン店の中でトップになったというのだ。
ポールはその言葉をにわかには信じなかった。その要因が分からなかったからだ。
やったことと言えば、あの水道管の破裂以来、在庫数を減らしたことくらい。
どうして在庫を減らしただけなのに、利益率が急激に伸びたのだろう?
果たしてポールは、この謎をどう解き明かしていくのか?
