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インタビュー

元アップルジャパン社長である山元賢治さんの『ハイタッチ』。この本は就職活動生や若手ビジネスパーソンといった若者に対し、山元さんなりの叱咤激励が込められた1冊である。

日本の若者たちがそれぞれの成功を勝ち取るにはどうすればいいのか。今回は特別インタビューとして、山元さんに就職活動生が考える疑問などをぶつけて、就職に対する考え方や面接での心構えについて、そして書籍名の『ハイタッチ』の本当の意味など、本書に込められた思いを語っていただいた。
これから始まる就活シーズン。『ハイタッチ』とこのインタビューがあなたの将来を決めるための参考になれば幸いだ。

◆1、就職活動心構え編◆

■まず、就職活動を始まる前に考えておかなければいけないことはなんですか?

「まず、前提として考えておかないといけないのは、インターネットの進化などにより世の中は大きく変わっていても、会社組織や人材採用の仕組みそのものはそのままだということです。  戦後しばらく、日本人は安い賃金で頑張ってきました。賃金が安いっていうことは仕事がいくらでもあるってことですし、自動車や繊維といった産業そのものも成長をしていました。しかし現状を見渡してみると、産業構造はガラっと変わっていますよね。社会の仕組みはそのままで。これからも世の中は変化するし、変化のスピードはさらに大きくなるということを考えておくべきだと思います」

■就職活動する学生にどのようなことを考えて活動をして欲しいとお考えですか?

「まず、お金をもらって仕事をするということは、既にプロであることを自覚して欲しいです。例えばイチローのような人はプロフェッショナルの象徴としてとらえられていますが、特別の職業についている人だけがプロということではありません。会社で働く人であっても、お金をもらっている以上、全員プロなんです。  学生の人は将来、有名人になりたいと思うことがあるでしょう。しかし有名になりたいという希望を持つだけでは、何も達成できませんね。どのくらい有名なのか、何年間くらい有名なのか、どのくらい給料がもらいたいのか、そして引退するときにどのくらいお金があればいいのか。そういうことを真剣に考えて欲しいです。誰でも必ず仕事を引退するときがきますから、引退の時期まで想定して将来設計を考えてみる。なかなか出来ないことですけど、ゴールを見据えて、就職活動で何をするべきかを考えて欲しいです」

◆2、面接のホンネ編◆

■山元さんが面接官であるとき、どういう風に学生の本質を見抜きますか?

「僕ら面接官はその人の才能を見抜くというより、その人のよいところを一生懸命発見しようという感じが強いですね。いずれ会社を背負って立つことになる逸材だけではなく、会社ではいろいろな活動をする人材が必要なので、この人はどのように働いてもらえば、会社にとっても本人にとっても幸せなんだろうと考えます。  面接のときに基本的に見るところは、その日、その瞬間の本気度、『御社に入りたい!』という強い意志です。あとはその人が将来、柔軟性を持って変化に対応できるか。これらは面接時に分かりますね」

■就職活動ではよく高い学歴を持っている学生が有利と言われますが、その点についてはどうお考えですか?

「面接にくる学生で、学歴に限らず、『どの会社の面接でも通るだろう』と思える逸材はいます。そのような学生は余裕があるので、緊張もしていない。だから余計に採用試験において有利になります。ただ、そういう人に、その会社に入りたいという本気度があるとは限りません。ですから面接官としては、かなり慎重に採用を判断します。なぜなら、逸材だからといって内定を出してしまうことは、2番目、3番目に評価の良かった学生たちは落ちてしまうということになるからです。  また、面接を受けている会社や業界について,事前にどれだけ勉強しているかで、どのくらい本気かというのが分かります。ほとんどの学生は世間知らずですから、会社のことはよく理解していないながらも、どこまで真剣に勉強したのかということは良くわかります」

■最近は大手企業に入りたいという学生が多くなっていると聞きます。大手ってやはり魅力的なものなのでしょうか。

「そのような希望をもつ学生が多いようですが、そもそもこれからの若者にとって“大手”って何なのでしょうか。大手に入りたい、商社に入りたい、海外に行きたくない。でも時代は真逆に進んでいますよね。大手はどんどん潰れていますし、海外で通用しない人間は淘汰されていく。実は、「大手企業が良い会社」というのは、50年くらい前の価値観なんです。それから今日までの間に社会は変わりましたし、これからも変わるわけですから、大手という言葉に惑わされてはいけないと思います」

■面接のときに上手く自己PRができないという学生がいますが、どのような自己PRが良いのですか?

「面接の場面では、『自己PRが上手くできない』というのは、完璧なNGワードです。厳しいことを言うと、自分で自分を売り込めない人間が、会社のサービスメニューや製品の良さを他の会社に売り込めるわけがないからです。例えば好きな女の子が出来たとき、自分の良さをアピールしますよね。自分自身のことを客観的に見て、その良さを売り込めないと、いざ社会に出てもそれは出来ませんよね。営業だけではありません。技術者もそうですよ。毎日競争なんですから、説明下手だからというのは言い訳に過ぎなくなります」

◆3、これからの組織の中心となる人材編

■この時期になりますと、よく就職活動必勝法といった本が売れるようになります。そうした本を選ぶときに気をつけるべきことを教えてください。

「極端な話を言うと、そうしたハウツー本は、出版した人にとってお金儲けにならないと意味がないわけで、学生の読者をたくさん囲い込むために優しく甘やかす本になりやすいと感じています。でも実際、そんなに世の中は甘くないはずですから、もう少し厳しさを知ることができる本を参照する必要があると思います」

■就職して、自分自身が成長していく上で重要なのはどのようなことでしょうか。

「4割の頑固さと、6割の柔軟さでしょうか。スポーツでもそうですけど、体幹がしっかりしていないとすぐ潰れますよね。だから、仕事においても「体幹作り」は必要です。それが4割の頑固さになります。しかし、それと同じくらい必要なのが柔軟性です。頑固一徹では途中から成長しなくなるんですよ。変化が速いとついていけなくなりますから」

■これからどういう人材が組織を引っ張っていくと思いますか?

「まずはスピードですね。学ぶスピード、人が何を感じているのか、その感じ取るスピード。勉強していても、ただ机に座っているんじゃいけませんよね。2番目は、先ほど話した柔軟さ。自分の間違いを発見したら、それを認めて修正する。そういう柔軟さが必要です。  最後に、宣伝的には(笑)『ハイタッチ』が出来る人ですね」

■この本のタイトルにもなっている『ハイタッチ』とはどのような意味を持つのですか?

「この『ハイタッチ』という言葉は、80年代に出てきた言葉なんです。当時、“ハイテク”という言葉が大流行したのですが、世の中がハイテク化することによって、人間たちが機械に命令されて、単純作業しかできなくなるのではないかという危機感から出てきた言葉です。そこで、ハイテクになればなるほど、ハイタッチが必要になると、言われるようになりました。 人間が顔と顔を突き合わせて、コミュニケーションをする。1メートルの至近距離にいるのに、伝えるべきことをメールに書くのではなく、相手の顔を見て話をするようにならないといけません。そのような意味を込めて、『ハイタッチ』という言葉を書籍名として付けました」

■読者の皆様にメッセージをお願いします。

「一回きりの人生なので、自分にとっての成功を是非考えてみて欲しいですね。上辺だけではなく、普段考えないお金のこと、引退するときのこと、そして死ぬときのこと。そういうのを考えるのは嫌だと思うんです。しかし、そういうところに、自分なりの考えを引き出すヒントがあるんですよ。  また、もっと身近なところで成功や失敗の尺度を考えてみて欲しいと思います。親や身近にいる大人たちの尺度にとらわれず、自分なりの成功の定義を考えてみることが、今の就職活動生や若手ビジネスパーソンには必要だと思います」

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