30代、40代で「伝説」といわれているビジネスパーソンの多くは、20代のときに、すでにその片鱗を示していた。では、彼らが20代のころに共通していた“働き方”とは?
『伝説の新人』(集英社/刊)は、かつてリクルート社でともに仕事をし、コンサルタントになってから再会、若手の育成に熱意を注ぐ小宮謙一さんと紫垣樹郎さんの二人が執筆した、20代で突き抜けるための10の違いをつづった一冊だ。
では、この二人はどんな20代を送ってきたのか? そして突き抜けたビジネスパーソンになるためには? インタビューを行った。
■ リスクを恐れないリクルート時代の仲間たち
―今回出版された『伝説の新人』は紫垣さんと小宮さんのお二人による共著となりますが、お二人の出会いからお聞かせ願えますでしょうか。
紫垣「僕の方が3年、リクルート社で年次が上なのですが、僕はもともと企業の採用プロモーションをお手伝いする部署にて、クライアントを持って広報プロモーションや原稿を作る仕事をしていました。小宮さんは人事部で採用を担当していて…」
小宮「僕は5年目で異動ですね」
紫垣「じゃあ、私が8年目のときかな。彼が営業部に異動してきて、いくつかの会社の採用プロモーションを一緒に担当したんです。今聞いてみると、営業は初めてだったっていうので、すごく頑張っていましたね」
小宮「この本でいうところの『スタートダッシュ』を決めて(笑)」
紫垣「僕らに『営業は初めて』だと感じさせないくらい頑張っていました。そのあと、いつの間にかリクルートを辞めていて(笑)、僕自身も40歳になる前に会社を辞めて独立したのですが、ある会社に私がブランディングの仕事でコンサルタントとして入ったときに、ちょうど人事のコンサルタントで入っていたのが小宮君だったんです」
―それは偶然だったのですか?
小宮「そうです。おーっ!ってなりました(笑)」
紫垣「そこから2年くらい仕事をやって、その後もいくつか仕事をして、今に至ります」
―小宮さんが紫垣さんに初めて会われたときの第一印象は覚えていらっしゃいますか?
小宮「当時、すごく売れている営業は良いクライアントを持っているし、資金の豊富なお客さんには必ず良い制作がついているという、完全な弱肉強食状態だったのですが、紫垣さんは完全に強食でしたね」
―逆に紫垣さんは小宮さんの第一印象を覚えていますか?
紫垣「さっきも言いましたが、営業が初めてだという感じがしなかったです。ずっとこんな調子ですよ」
小宮「僕は人事を4年半やっていましたし、営業のお客さんも人事部の方々なんです。だから、お客さんの気持ちがよく分かるんですよ。他の営業マンには人事の経験を積んでいる人があまりいないので、そういう意味での強みは明確でしたね」
―現在、お二人は会社を立ち上げ、「伝説の新人養成プロジェクト」というプロジェクトを進めていらっしゃいますが、どうしてそういったプロジェクトをスタートさせたのでしょうか。
紫垣「採用プロモーションという仕事柄、いろいろな会社で社員にインタビューをすることがあるのですが、大手からベンチャーまで各社のトップの社員をインタビュイーとして出してくるんですね。そういう人たちと話していくと、突き抜けた結果を出せるビジネスパーソンの共通点が見えてくるんです。
一方で、就活生や転職しようとしている人たちを見ていると、そういったビジネスパーソンになりたいと思っているように感じるのですが、そこにはどこかギャップがある。そこで僕が気付いたことを採用プロモーションの原稿に入れたりしてきました。
そういったことがあったので、日本が元気を失くしている中で、自分ができることを考えたとき、その気付きを使って20代を元気にさせるようなことをしたい、と。そこから動き始めました」
―「20代を元気にする」という部分でお聞きしたいのですが、小宮さんは今の20代に元気がないと思われていますか?
小宮「出演させていただいているTOKYO FMの『伝説の人事部長』という番組の中で、20代の若者たちと接する機会が多いのですが、特別今の20代に元気がないとは思えないんですよね。『最近の若い奴らは』ってよく言われますけど、実はそれってずっと言われてきていることだし、僕自身は若い人たちと一緒に頑張っていきたいという気持ちが強いです。
今の若い人は、将来に対して希望を持てる経済環境にあまり触れたことがないんですよね。だから、責任を持って僕らの世代がなんとかしないといけないと思っています。でもね、そう考える前に紫垣さんと仕事をすると20代を応援するような熱いメッセージになります(笑)」
紫垣「ソフトなメッセージもありますよ(笑)」
小宮「そんな感じでタイミングが重なって、紫垣さんと一緒にプロジェクトを進めたいとお願いしたのが、きっかけですね」
紫垣「僕らのときも元気な奴は元気があったし、元気がない奴もいた。ただ、今はスポットが全体的に悲観的な方向に当たっていて、ポジティブな面が見えにくいのもあると思います。伝説の新人養成講座の受講生たちは、すごく優秀で元気ですから」
―では、今回出版された『伝説の新人』についてお聞きしたいのですが、執筆された経緯から教えていただけますか?
紫垣「これは集英社さんからお声をいただいたのがきっかけですね」
担当編集「ちょうど去年から、お二人のプロジェクトについて聞かせていただいていまして、伝説の新人養成講座を第一回からずっと聴きに行っていたんです。そこで、この内容を書籍化すればもっとたくさんの20代の方に刺激やきっかけを与えられるんじゃないないかと思い、出版のお話をさせていただきました」
―お二人がリクルートに入社されたとき、自分ではない他の新人社員で印象に残っている方はいらっしゃいますか?
紫垣「そうですね…たくさんいます、という答えですね。僕がちょうど入社したときって、リクルート事件が起きた頃だったんです。すごいバッシングを受けていた頃ですよ。でも、そういう状態でリクルートに入社するわけですから、面白い奴ばかりでしたよね。普通の人よりリスクを恐れないんです。だからそれぞれ印象深いですね」
小宮「紫垣さんがリクルート事件ならば、僕は入社した年にダイエーに買収されたんですよ(笑)。でも、リクルートらしさは全くなくならず、先輩たちはやたら『面白くない』とか『もうちょっとはじけろ』とそういうキーワードで僕らを囃し立ててくるんですよね。人が驚くようなことをどんどんやれという空気が強い会社でした」
■ 「出る杭」になっても打たれないようにするには?
―本書のタイトルにも使われている「伝説の新人」とはどんな新人のことなのでしょうか。
紫垣「伝説ですから、後から語られる人ってことですよね。30代、40代になって突き抜けた活躍をしている人のほとんどは、20代にも伝説的なことを成し遂げているんです。そういう風な新人時代を過ごしていこう、というのはメッセージとして伝えていきたいですね」
小宮「伝説になるって、良くも悪くもインパクトを残さないといけません。呑んだくれの先輩も伝説になっていることがあるじゃないですか。でも、愛されている。そういう人が一人でも二人でも生まれてくるといいですね」
―では、本書を書き進めるにあたり、気をつけたことはなんですか?
紫垣「この本を書くにあたり、20代をターゲットとしているビジネス書をほとんど全部と言っていいほど読んだのですが、一つはターゲットをもっと絞って、新人と広くとらえるのではなく、どうしたら突き抜けた人になれるのか、力をつけることができるのか、そう思っている人に向けて書こうと思いましたね。
もう一つは、この本で書かれているアクション一つでも、それがお客様や上司、先輩たちがどう見ているか、どう評価しているのかを俯瞰した目で伝えるということを意識して書きました」
小宮「養成講座の方はもう丸3回やっているのですが、セミナーでの伝わり方と書面での伝わり方は違いますよね。その部分は気をつけましたし、工夫した部分でもあります」
紫垣「この本の中で、当事者意識について触れているのですが、世の中の本や上司や社長からも『当事者意識を持て』と言われていると思います。でも、当事者意識を持つということがどういうことかについて、ちゃんと分解されていないと思うんですよね。
この本ではオーナーシップを持っている責任者の問題意識に対して、どのラインまで自分も頑張るべきなのか。それをしっかりと見せてあげています。相手の期待値をイメージして、それを1%でもいいから上回る成果を出す“101%の法則”もそうですが、どのラインまで頑張ればいいのかを書き込んだつもりです」
―ここからは、20代の頃のお話をお聞きしたいのですが、お二人がされていた仕事で楽しかったものはありますか?
小宮「僕は23歳から28歳くらいまで人事をしていて、その後は営業をしていたのですが、当時のリクルートの社員平均年齢が26歳だったんですよ。だからみんな若いので、夜中までミーティングしていましたね。面接が終わって飲みに行って、そこから会社に戻ってミーティングして。よく仕事したし、よく飲んで、よく遊んだという記憶がありますね」
紫垣「僕は体育会出身だったので、正規配属でクリエイティブになったとき相当不貞腐れたんです。でも、仕事をしていくうちに優れた企画やプランニングを考えられる人が、営業マンと組んですごい数字をつくっていることを知って、そういう風になりたいと思いました。
その時の自分の課長がリクルートでナンバー1の制作マンで、自分も日本一になりたいと言ったら、『日本一になりたかったら日本一働け』と言われたんです(笑)。そういうことなら、自分はいけるかもしれないと思って、そこから頑張りました。バブル時代で仕事もたくさんあり、毎日深夜12時や1時まで働くことが当たり前でした。でもその後に飲みに行ったりして。楽しかったですよ
」
―日本では「出る杭は打たれる」という言葉があるように、突き抜けた人間を周囲が抑えてしまうという文化があるように思いますが、打たれたときにはどうすればいいのでしょうか。
小宮「やりすぎて逮捕されてしまう人もいますが、あれも出る杭が打たれたってことなんでしょうね」
―目立ちすぎる人を好かないというか。どうしても批判ばかりが起きてしまいます。
小宮「でも、出る杭の中には、幾ら打たれても更にぐいぐい出続けてそのうち周りも納得させてしまう人もいますよね。人ととしてちゃんとしていれば、最後は周りもついてくるんじゃないかな、と。」
紫垣「というか、出る杭は打たれて強くなっていくものですよね。出る杭は打たれるということを覚悟した上で突き抜けていくことが大事で、後々には『ありがとうございます、おかげさまで強くなりました』と御礼を言えるようになれればいいんです。
だから、そんなに気にしないでいいんじゃないでしょうか。目の前の仕事やお客さんに対して、きちっと仕事をしていれば分かってくれるはずです。ただ、もちろん妬まれることもありますよ。全然知らない人からすれば、内情は分からないわけですから。でも、目の前で一緒に仕事をしている人たちに誠実さを持っていれば、どんどん突き抜けていけるはずです」
―なるほど
紫垣「この本の10の違いの中に、『好かれ方』を入れています。ここで言っているのは、本当に良い仕事を残すためには、好かれる人間になる、人格を磨くことが大切じゃないかということです。仕事は基本的に人が人に与えるものですし、周囲の人はが『ありがとう』という気持ちにならなければ意味がないんですよ。だから、この本の『好かれ方』を読んでそれを実践すれば、周囲から妬まれることはあまりないと思います」
―この本のどのような部分を特に読んで欲しいとお考えですか?
小宮「全部読んで欲しいです。この本で書かれていることは、必ずどこかで上司や先輩に言われたことがあるはずなんです。ただ、みんなどうして同じことを言うのか、その理由を覚えて欲しいんです。それが伝わるといいかな」
紫垣「読み終わったときに、自分の周囲はチャンスだらけじゃないかということに気付いて欲しいです。そしてチャンスのスパイラルに上手く乗れるような行動習慣や思考習慣を身につけてもらえると嬉しいなと思います」
―では、最後にこのインタビューの読者の皆様にメッセージをお願いします。
紫垣「このインタビューを読まれているということは、知的好奇心の高い方だと思うんですね。言い方は僭越ですが、まずはその部分を伸ばしながら突き進んでいただいて、あとは行動を起こすだけのような気がします。本を読んだり人と会って刺激を受けても、その後行動するかしないかで全然違います。何か一つでも行動に変えてみることで、つながっていくので、アクションを起こして下さい」
小宮「よく飲みに行ったとき、50代や60代の方とお話をすると、世の中どうなっちゃうんだろうねという話がすぐに出るんですね。20代の方も、将来に対して不安な話ばかりしか聞かないと思います。でも、それをなんとか変えていかないといけない。僕は20年後の日本のシナリオとして、超高齢社会が進んでいるのに、みんなが幸せになった国というのが一つの成功形だと思っています。悲観していてもきりがないですから、そろそろ混沌としている空気から抜け出して、まずは一歩、前に出てみよう。そういうことを伝えたいですね」