頭の中がスッキリと整理できている人はどんな人なのだろう、と思ったことはないだろうか。
本書を執筆した鈴木進介さんは現在では「頭の整理屋さん」と呼ばれるようになったが、経営コンサルタントをはじめた頃は整理できずに苦闘していたそうだ。そんな鈴木さんはどのようにして頭の整理術を身につけてきたのだろうか? コンサルタントの頭の整理術を教えてもらった。
■ 頭の中が整理されている人とそうでない人の違いとは?
―本書を拝読しまして、個人的に言葉に詰まってしまうことが多いので大変参考になりました。自分の頭の中で出てきた点を線で結ぶというのがとても難しいと感じていたので。
そうですよね。難しいと思います。
―ビジネスマンはプレゼンや朝礼なども含めて人前で話す機会は多いですが、そういったときに頭の中が整理できなくなってしまう最大の要因はどういうところにあると思いますか?
例えばプレゼンなどの場合は、話の中心軸を決めていないとそうなることが多いですね。何が言いたいのかという結論を定めてから話したり表現することがプレゼンの鉄則だと思います。まずは大きな幹の部分を作ってから枝葉をつけていくという考え方ですね。
―枝葉、つまり点をもとに幹を作ろうとしてしまうことが多いんですよね。
そうですね。あとはたくさん情報や選択肢を入れておかないといけないと考えてしまうこともあると思います。情報を持っているということで安心できますから。でも、実際は中心軸さえ最初に決めておけばそれに付随するものはそんなに必要ないように思いますし、情報と選択肢を持ちすぎてもいけないというのが私の考えですね。
―「持ちすぎている」という考えは実感しにくいでしょうしね。
もちろん、ブレインストーミングなどでアイデアをたくさん出そうという会議では有効かも知れませんが、それでもただアイデアを出すにしてもある程度のテーマは必要ですし、なんでもかんでも出せばいいというものではないですよね。中心軸や枠組み、テーマや目的を明確をしてから出していくべきですね。
―頭の中がすっきり整理されている人とそうでない人の一番の違いはどこにあるのでしょうか。
それは言葉にすると難しいのですが、本質を抑えているかどうか、そこかなと思いますね。さきほど言った中心軸につながるのですが、何が一番大切なのかということ分からないと整理はできないと思います。
これは私の経験に基づいていまして、経営コンサルタントという職業は経営のアドバイスをするのが大きな仕事ですが、経営者は実は新しい販売チャネルをどうやって開拓すればいいのかそれだけを聞きたいのに、私は一般論を語っているに過ぎなくて、その問題の本質にアプローチできていなかったことがありました。たくさん情報を仕入れても、本質の部分をおさえていなければ、クライアントが余計混乱してしまいますよね。だから、頭の中がすっきりしている人とそうでない人の違いは、相手が何を求めているか、自分が何をしようとしているのか、その本質を確認もせずにとりあえず話を進めていってしまうところに問題があるかなと思いますね。
―そういったところから、現在は「頭の整理屋さん」と言われるまでになった鈴木さんですが、何か特別な鍛え方をしているのでしょうか。
私は経営コンサルタント業を特殊な仕事だと思っていまして、非常に難しい横文字をたくさん使うんです。それを分かりやすい言葉に置き換えながら説明をしなければいけないので、現場でどう使えるのかを考えながら言葉を解釈していくのですが、それを繰り返していくうちにだんだんと頭の中が整理できるようになりました。難しい言葉を分かりやすく翻訳していくということです。
また、調査もたくさんしますから、情報もたくさん仕入れます。ただ、それを整理してシンプルにしないとアウトプットもできないので、そういったところから頭の中の整理術が自然と磨かれていきました。
―今の傾向としては、例えば解説書なんかが売れたりしますよね。ドラッカーの理論を分かりやすく述べている『もしドラ』は大ベストセラーになりました。そういった点から見ると、分かりやすいところから入ってしまってあまり考えなくても理解できた気になってしまうという部分があるように思います。でも、おそらくそうしていても考える力、自分なりに噛み砕く力は身に付かないですよね。
そうですよね。難しいものや複雑なこと、たくさんの情報の中から何が一番大事かを見つけようとするなかから、シンプルな結論が出てくると思います。その悪戦苦闘の結果がこの本だと思います(笑)
■ 自分の登場曲は「Etupirka」と「X」
―例えばプレゼンや商談などの場面で、とっさに話をふられたときにスパッと頭の中を整理して気の利いたことを言えるようになる方法はありますか?
これも明日から急に出来るようになるというものでは決してないのですが、まず自分の頭の中に引き出しを用意してから、情報を仕入れたり、物事を考えたりしたほうがクリアになりますね。散らかっている状態から整理するのではなく、最初にもう引き出しを作っておくんです。その引き出しも、ソーシャルメディアのことなのか、女の子とのデートプランのことなのか、人によって違うと思いますが、とにかくまずは引き出しをつくっておくことがスタートですね。
―今はウェブを通してたくさんの情報を目にしますが、いろいろな人がいろいろなことを言っています。それらの情報を全て取り入れて吟味するというのは無理だと思いますし、自分にとって不必要な情報に時間をかけてしまう可能性もあります。そうした中で、自分にとって良い情報、悪い情報を判断する基準はどう作ればいいのでしょうか。
良い、悪いのではなく一言で言えば好き、嫌いで判断するのが一番だと思いますね。感覚的に違うとか、この意見はある面で正しいけれどどうしても同意しかねるということは必ずあると思いますが、良い悪いではなく、その感覚的な側面から基準を作ったほうがいいと思います。理屈で判断することは実は簡単といえば簡単で、ロジカルシンキングであればだいたいみんな同じ結論が出ますが、それだと他人と一緒になってしまいます。
だから私が一番言いたいことは、感覚をもっと大事にしようということなんです。極端な言い方になりますが、良いか悪いかで判断がつかない、つまり判断基準を持っていなかったり、考えすぎても結果が出ないときは、好きか嫌いかで判断してみてくださいということです。何でも好き嫌いで判断したらそれはそれで問題ですが。
―鈴木さんがこれまでビジネスマンや経営者の方々と話しているなかで、どこかで自分が結構頭の中が整理できているなと思った瞬間があったと思うのですが、それはどのようなタイミングでしたか?
タイミングというよりかは、やはり難しい言葉を誰でもわかりやすい言葉に置き換えられるようになったとき、そして情報を分類できるようになったときですね。作業として分類わけができるようになったのは大きいと思います。
―そういったことは、やはり継続しないとできないことですよね。
そういうことで言えば、本書の中でも提唱していますが、ブログをつけることは自分の引き出しを整理する上で有効ですね。私がコンサルタントとしてパソコンを使って整理をしだした10年以上前はブログよりメルマガのほうが主流でしたが、メルマガもブログも非常に有用だと思います。ブログは記事をカテゴリ別に分けることができますし、文章にするだけで考えていたことがかなりすっきりしますよね。
―自分の考えたことを文章に落とす、と。
そうです。だからデジタルツールとクリアフォルダというアナログツールを使い倒したことが、引き出しを作って情報を整理する力をつけるために非常に役立ちました。
―特に本書の中で面白いなと思ったのが、心のスイッチを入れるために自分の登場曲を決めるという項目です。人にはテンションをあげるために意識せずに聞いてしまう曲が少なからずあると思いますが、鈴木さんご自身の登場曲はなんですか?
私は人前でしゃべることが多いので、そのときに心の中で流す曲は情熱大陸のテーマソングである『Etupirka』ですね。あと、どうしても強行突破しないといけないとき、気合いを入れるためにXの『X』を流します。この2つだけですね。ほとんどの場合は『Etupirka』ですが(笑)。『X』はほとんど秘密兵器というか切り札です。
―これまで読まれた本の中で影響を受けた本はなんですか?
仕事という観点から言えばいっぱいあるのですが、その中でもやはり松下幸之助さんの本ですね。言っていることがとてもベーシックだし、シンプルですよね。特にちょっとへこんだり、調子の悪いときに読むと薬のように効くんですよ。抽象的な言葉が多いので自分に置き換えるといいですよね。例えばノートの左側に松下幸之助さんの言葉、右にその言葉に付随して自分が今日すべきことを書く。そうすれば、そのまま読書ノートになったり、TO DOに落ちていったりして活用できるんです。
―本書をどのような方に読んで欲しいとお考えですか?
自分を見つめなおそうと思っている人ですね。また、仕事やプライベートで行き詰まりを覚えている人、進路や恋愛などで悩んでいる人など、頭の中だけで考えて答えが出ず、悩んでいる人もたくさんいると思うので、そういう人たちに是非読んで欲しいと思います。
また、年代でいえば、主に20代や30代の若手ビジネスマンにも読んで欲しいと思います。理由ははっきりしていて、他人の意見がネット上でたくさんあふれている現代の中で、そういった意見に左右されずに自分基準で物事を判断してシンプルに生きていくことのほうが、自分らしい生き方なのではないかと考えているからです。シンプル・イズ・ベストが、この本の本質だといえますね。
―では、インタビューの読者の皆様にメッセージをお願いします。
表面的な仕事術にとらわれず、自分らしさとは何かを考えながら読んで欲しいですね。一番重要なことは不要なことを捨てる勇気をいかに持つかということですが、その勇気を持つためには、自分が好きなもの、自分の気持ちで出した答えが一番良い答えだと思います。それ以外のものは捨てるくらいの感覚を持てば、常に頭の中が整理された状態で仕事も、そしてプライベートも楽しめるのではないかと思います。
経営コンサルタント。株式会社コンパス 代表取締役。
大学卒業後、大手IT系企業などを経て独立し、パソコン教室やインストラクター派遣事業を展開。縁あって経営コンサルタントに転身するも、金なし・人脈なし・ノウハウなしからスタートしたため、3年間は鳴かず飛ばずの状態に。その後、複雑な市場分析や難しい理論をわかりやすく整理して説明する点が評価されクライアントが倍増。
現在では、「引き算思考」などの「鈴木式思考の整理術」を駆使し、中小企業から東証一部上場企業までマーケティング、新規事業のアドバイスを行っている。支援した企業は100社以上。また研修講師としても“社外先輩”として若手社員から圧倒的な支持を得ている。