新刊くん
ディズニー サービスの神様が教えてくれたこと

著者: 鎌田 洋
定価: 1,155円
出版社: ソフトバンククリエイティブ
ISBN-10: 4797369337
ISBN-13: 978-4797369335


インタビュー

■ディズニーランドのキャストは“ゲストから学びを得て成長する”

―まず、前作にあたる『ディズニー そうじの神様が教えてくれたこと』は10万部を超えるヒットとなりました。鎌田さんにも多くの反響が届いていらっしゃると思いますが、印象に残っている声はありますか?


「フェイスブックやメールなどを通して前作の感想をいただくのですが、涙が流れたという声が一番多いですね。また、私も同じ体験をしましたというメッセージを送ってくれる方もいたんですよ。だから前作や本書に載っている話は決して特異な例ではなくて、たまたま私が経験したもの以外にも、いろいろな物語がディズニーランドにはあるというリアルな反応を聞けたことが印象に残っています」

―そういった中で、前作が多くの方に受け入れられた理由を鎌田さんご自身はどうお考えですか?


「書いている段階から、活字が苦手な人でも読めるような本にしようというのはありましたね。物語も四編に分かれていて、一編ごとに区切れるので、非常に読みやすいと思います。

また、対象もビジネス書でありながら、老若男女幅広く読める本です。山形の中学校の副読本にもなりましたから、それくらい広範な方々を対象にしたことも良かったと思いますね」  

―副読本になったというのはすごいですよね。


「そうですね。現在は山形の中学校の半分くらいで採用されていると聞きました。また、私自身も東日本大震災の被災地の中学校にこの本を寄付したんですよ」 

―前作のインタビュー取材の反響としまして、自分も昔キャストをやっていて、今でも自分の仕事に誇りを持っているという声が多かったんですね。それはどうしてだと思いますか?


「私自身もいろいろなところで講演をしていると、自分もキャストをやっていたと言ってくる人がいるんですよ。そして、100%の人がキャストをやっていて良かった、楽しかったと口にするんです。おそらく、本人たちが現役でやっていた頃は、すごくつらかったと思うんですよ。けれども、やめて別の仕事についたとき、ディズニーランドの良さを改めて感じるのではないかと思います。仕事と言いつつも、純粋にゲストのために何かをする環境があって、そこには純粋な気持ちでゲストのために働いている自分がいたということに気づくからじゃないですかね」 

―本作は『ディズニー サービスの神様が教えてくれたこと』ということで、前作はカストーディアルがメインでしたが、今回は幅広い職務のエピソードが描かれています。登場人物の範囲を広げたのはどうしてなのでしょうか。


「最初の本で、カストーディアルの仕事であるそうじを通して書こうとしたのは、サービスとは何かということだったんですよ。ディズニーの理念に“We Create Happiness”というものがあります。お客様をハッピーにすることが、ウォルト・ディズニーが掲げた理念なのですが、それはカストーディアルだけでなくて、すべてのキャストのテーマでもあるんです。だから、カストーディアルはそうじを通してゲストにハピネスを提供していますし、ショップで働いている人も、ゲストリレーションズも、セキュリティも同じなんです。

そういう意味で、前作とテーマは同じですが、たくさんのキャストがいるけれどもディズニーで働くキャストたちの目的はたった一つだということを理解してもらうために、それぞれの職務に応じて“We Create Happiness”を実践する現場をつづったんですね」

―本書を読んでとても印象に残ったのが、物語の主人公の多くは一度失敗をして、ゲストから学びを得て成長する姿が描かれていたところです。この、ゲストから学びを得るという文化について鎌田さんはどのようにお考えですか?


「それはビジネスの原点ですよね。アンケートを取るのもゲストのため。声を受け取って至らない点を直していくわけじゃないですか。だから、ゲストから学ぶということはディズニーランド特有のものではないと思うのですが、ディズニーはその部分を徹底してやっているからすごいんだと思います。

ディズニーランドにはゲストロジーという言葉がありますが、それは徹底して顧客を知ることなんです。そして、知ることができれば、本当のゲストのニーズが分かってきます。“We Create Happiness”を現実化していくためには、いろいろな失敗があり、そこでゲストから教えられて向上していくものです。私が在籍していたときもそうでしたね。すべてはゲストから教わったことだったんですよね。 だからこそ、もちろんこちらもゲストを信頼しなくてはいけないのですが、年間2500万人以上もの来場者がいますし、その全員がルールを守って下さるとはとは限らないでしょう。だから、時にはゲストに懐疑的な対応をする場面もありました。

でも、それは悲しいことですよね。だから、私がユニバーシティのマネージャーをしているときに、現場の教育担当者に「ゲストを疑うことはやめよう」、と投げかけたことがあります。それは、センセーショナルなことではありましたし、現場からは批判の声もあがりましたが、まずはゲストを信じることからやろう、と。」

―ディズニーランドでは、キャストがゲスト一人ひとりとしっかり向き合っていますが、それが来場するすべてのゲストと向き合うことになります。これは私の中ですごく不思議な感覚ですね。


「目の前のお客さんを大事にする文化はありますね。CS(顧客満足)の中で一番大事なのは、個々人の想像力なんですよ。今、目の前にいるお客様は何を思っているのか、それを想像する力ですね。東日本大震災のときの対応はそうした想像力が開花した例だと思います」

―本書を執筆するにあたって、気をつけたことはなんですか?


「エピソードをそのまま表現するというより、ディズニーのサービスの本意を浮き立たせることを大事にしました。ストーリーの流れに読者の目がいって、ディズニーの本質が薄れてしまわないように気をつけましたね」

■ディズニーのキャスト教育で最も重要なことは?

―本書では4編のエピソードが収録されていますが、この中で最も好きなエピソードを選ぶとしたらどれですか?


「全部良いんですけど、やはり第一話ですね。ガザニアの花言葉まで教えるか、と。そのクライマックスに辿りつくまでに、死んだおばあちゃんが工場に花を飾っていたみたいな伏線があったりして…。この第一話のテーマは、“ゲストのニーズの先を読む”というものなのですが、そこに夫婦愛や家族愛が入ってきて、さらに大きなテーマが内包されているように思います。

それは人間賛歌なんです。最近、世知辛い事件が多くて、親子でいがみ合ったりしているじゃないですか。そういった状況の中でも、人間に回帰する、人間はまだ捨てたもんじゃないという想いはありますよね。その想いが、この第一話に一番色濃くあらわれていると思います」

―ディズニーランドには友達や恋人など、いろいろな人と一緒に行きますけど、原点の部分はやはり家族だと思うんですね。


「もともとディズニーはファミリー・エンターテインメントを目指していますからね。やはり人間が最初に幸せを感じるところって家族だと思います。

少しビジネス寄りの話になりますが、ディズニーのすごさの一つにブランド力があります。それはゲストが子どもの頃からディズニーのブランドを伝え続けているんですよね。普通、ブランドというと大人になってから触れるものだと思うんですが、ディズニーランドには子どもの頃から家族みんなで来るじゃないですか。そのときに、ちゃんと自分たちの文化を伝える。そして良い思い出をいっぱい持って帰ってもらう。それがリピーターを生み出している原動力となっているんです」

―鎌田さんはオリエンタルランドに勤務されていた頃、カストーディアルのトレーナーを経て、ディズニー・ユニバーシティでキャストの教育に携わっていらっしゃいました。キャストを育成する上で一番重要なことは何だと思いますか?


「これは私が経営している会社、ヴィジョナリー・ジャパンのホームページにも書いてあるのですが、大事なのは心を動かすこと、心に落とし込むことなんです。理屈は後からついてきます。つまり、キャストにも『ディズニーってすごい、いいな』と思わせないといけないんですよ。

キャストになったとき、最初にオリエンテーションプログラムに参加するのですが、そこでは一週間に3時間しか働かないパートの人たちにもディズニーの理念を伝えます。では、誰がその理念を伝えるのか。それは、現場で働いているキャストたちです。また、もちろんディズニーの歴史も学びますが、ディズニーはチャレンジの歴史でもあるので、そこからチャレンジ精神を学んでいきます。

「会社はキャストを大事に扱えば、キャストはゲストを大事に扱うという原則」がありますから、その原則に基づいておもてなしをするということだと思いますね」

―隣で一緒に働いているキャストや目の前のゲストからさまざまな学びを得るということは、すごく大事なことだと思います。


「モチベーションも高まりますしね。また、現場にはトレーナーという新人の教育担当者が、2つのパークに数千人いるのですが、アルバイトさんがほとんどなんですね。彼らはジミニー・クリケットがデザインされたトレーナーピンをつけているのですが、このジミニ―はピノキオの“良心”という役回りなのです。これは実は私がユニバーシティにいた頃にレーナーの証があったほうがいい、と考えてつくったものです。トレーナーになったら他のキャストの模範とならなければいけないし、その模範となる人たちが数多くパークに配置されているわけですから、これほど強いツールはないですよね。そして、そのバッジの意味をしっかりと伝えて渡すんです。良心に基づいて行動してくれ、模範となってくれ、と。ディズニーのモチベーションアップの方法の1つには精神的なものだけではなくて、形にして与えるというものがありますね」

―もし、鎌田さんがもう一度ディズニーランドで働くとしたら、どの仕事を選びますか?


「いっぱいあるけれど、やはりデイカストーディアルですね。自由に動くことができますから。困っていそうな人を見かけたら、直ぐに近づいていっていいわけですよね。いろいろなゲストと触れ合うチャンスがあるし、こちらからも積極的に声をかけることができるので、主体性を発揮できますよね」

―ゲストにとっては、そうしたキャストと触れ合う時間も大切な思い出になりますよね。
聞きにくい話ではあるのですが、最近、ディズニーランドやディズニーシーのアトラクションの不祥事や、キャストの不祥事疑惑が報道されていますが、それらを見て思うところはありますか?


「とても残念なことですね。人間がやる以上、完璧はないですから。もし一言言わせていただければ、ディズニーランドは原点に戻って、今まで以上にウォルトの精神を忘れずに頑張って欲しいですね」

―前作が「そうじの神様」、そして本作が「サービスの神様」ときましたが、鎌田さんの中で、次回作の構想はありますか?


「次はリーダーシップや教育、ユニバーシティでの体験を書きたいなと思いますね。どうなるかは分かりませんが(笑)」

―本書をどのような方に読んで欲しいと思いますか?


「広範な方々ですね。ビジネスでディズニーのノウハウを学びたいという方は、そのテーマの本がたくさん出ているのでそちらを読んでください。この本は心に感じてもらう内容となっていますから、中学生から家庭の主婦、ビジネスマン、学生、いろんな人に読んで欲しいですね。人間っていいものだなと感じ取ってもらいたいです」

―では、このインタビューの読者の皆様にメッセージをお願いします。


「ディズニーに興味ある人にも読んでもらいたいのですが、何より、ディズニーのことをモチーフにしながら、人間っていいものだということが一番訴えたかったことです。本書のベースには「人間賛歌」があります。そういう意味では、若干センチメンタリズムが強めに出ている部分はありますが、そこに流れている純粋な気持ちを読み取って欲しいですね。ほとんど純な気持ちじゃないですか。誇りに思う気持ちとか、人を許してあげる心って。そういったところから、親切心とか信頼とか希望といったものを感じ取ってもらえればいいかなと思いますね」

書籍情報

著者: 鎌田 洋
定価: 1,155円
出版社: ソフトバンククリエイティブ
ISBN-10: 4797369337
ISBN-13: 978-4797369335