新刊JP FEATURING 「スタバではグランデを買え!-価格と生活の経済学」

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「スタバではグランデを買え!-価格と生活の経済学」カバー

吉本佳生氏 プロフィール

南山大学経済学部准教授。専門は金融経済学。1963年三重県北牟婁郡紀伊長島町で生まれる。名古屋市立大学経済学部経済学科卒業後、株式会社住友銀行入社。89年に退社し、名古屋市立大学大学院経済学研究科に進学、広島市立大学国際学部専任講師を経て現職。主著に『金融工学 マネーゲームの魔術』(講談社+α新書)、『ニュースと円相場から学ぶ使える経済学入門』(日本評論社)など多数ある。

そんな吉本先生にとって、一番大切な時間とは何をしているときでしょうか。

大切な…というよりかは、逆にその時間しかないと思うんですけど、今、私自身は名古屋で単身赴任をしていて、妻は広島で働いているので、妻と子どもが広島に住んでいるんですよね。 だから名古屋にいる間はほとんど仕事しています。 人と会ってちょっとくつろぐと言っても、食事をするくらいですし、それ以外の時間に映画とか遊びに行ったりというのはありません。 だから、食べているか、寝ているか、風呂入っているか以外は仕事していますね。 で、広島に帰ったときは割り切ってもう、子どもと遊びます。 月2度くらいしか帰りませんから、子どもと遊ぶことを優先しています。 だから、仕事をしている時間と幼稚園児の子どもと遊ぶ時間、どちらも大事ですね。

この本では、現在問題視されている経済格差や公共事業についても言及されていますが、吉本先生自身は今の日本の経済を、どう捉えていらっしゃいますか?

これもすごく難しいですね。 日本経済全体として、ということではないのですが、私自身が一番気にしているのは、簡単に言うと労働力の配置ですね。 それが上手くいっていない。 『ここは人が多すぎるだろう』というところがいっぱいありますね。 例えば、多過ぎる業界の第一候補が金融業界です。 商品の勉強してない銀行員が増えている一方で、それをカバーするのに人を増して売るっていうやりかたをとっていて、とても悪循環です。 さらに学生とかも銀行に行きたがるんですよね。 この悪循環が色んな部分をゆがめているっていう部分があるのではないかと思います。 このことについてはこの本じゃなくて、11月に2冊金融商品がらみの本を2冊出しているんですけど、そのへんにはかなりそう書いてありますね。 ここまで直接的ではないですけど。


他にも、この本で書いてあるように、政府部門も人が多いと思いますね。 自分が働いている職場ですが、大学の教員も多すぎます(笑)。 そうやってみていくと、人が多いところっていっぱいあると思いますよ、こういうことは、人口が多い今までの中では上手くまわっていたんでしょうけども、これからは少子高齢化ですから、年金問題よりも労働力の問題の方がすごく重要になるとと思います。 多すぎるところから人が出て行っていかないと、立ち行かなくなるのではないでしょうか。

では、我々一般市民、消費生活者は、どのような視点から今後、経済を見ていけば良いのでしょうか?

本当に人によって興味関心も考え方も違うと思うので、どれで見ていけば正解というのはないと思うんですよね。 ただ1つだけあるとすれば、経済活動っていうのは例えば何か問題を見つけたとしても、それに対する簡単な解決策があるっていうのは少なくてですね、単純な解決策をやったとしてもそうそう上手く事は運ばないんだなということを知っておいていただきたい。


例えば選挙とかで『国民全体の利益を考えます』という話があるわけですよね。 でも、国民全員に利益を与える政策っていうのにはありそうで本当に難しいんです。 逆に国民全員にダメージを与える政策っていうのも同じ様に、非常に難しい。 もちろんこれは経済的な政策についての話なんですが、とても難しい。 分かりやすい例でいうと、仮に国民全員から100万円取り上げて燃やすと考えましょう。 すると、みんな100万円ずつ損しますよね。 だから等しく損したように見えます。 けれど、よく考えてみて下さい。 全員100万円取り上げて、購買力を無理やり奪うと、デフレが極端にひどくなる状況が出てきます。 これは、物価が下がってですね、お札の実質的な価値が上がるわけということですよね。 こういうとき、誰が得するかというと、資産家です。 10億円持っている方が100万円取られてもダメージはあまりないと思いますし、それよりも、デフレによってこの10億円の実質価値が5%上がると考えると、すごいことになりますよね。


もし、全員に損をさせる政策をやったとしても、誰かが得するんですよね。 今まで話してきた例はかなり極端な例ですけど、絶対に誰かが損したり得したりするんですよね。 だから、何か経済問題を見ているときに、こういう政策とったら、あるいはこういうことやったら解決できるじゃないかといっても意外と通用しないことがあります。 それは、なぜかというとどんな政策にもどんな変化にも見えないコスト、見えていない、正確には見えにくいコストがあるわけですよね。 この本でも子どもの医療費の無料化という例でそれを書いています。

では、読者の方々に最も伝えたかったことはなんでしょうか。

うーん、どこが一番というのは難しいんですけど、あえて言うと、これまで経済の仕組みに興味がなかった人に、『経済の仕組みを考えながら買い物とかするのは、意外と楽しいよ』ということを伝えたいですね。 考えながら買い物するようになると、少しは得できるようになるのかな、っていう部分が若干あってですね。 ただ、すごく得できるという本ではないと思うんですよね。 本の最初の部分にも書いていますけど、例えばペットボトルとかいうような、毎日買うような物っていうのは、先程も言いましたけど、別にこういう本を読まなくても実はみんな合理的に買い物をしていると思うんですね。


ところが、実際多くの方が合理的な買い物が出来ないことがあります。 それは実はこの本には出てこない話なんですけど、まさに住宅とかですね、自動車とか、保険に入るという、わりと結果として高額なお金を支払うことになるもので、一生に何度も買わないものってありますよね。 こうした買い物っていうのは、非常に不慣れであるために、失敗してしまうケースって多いと思うんですね。 慣れてないものについて失敗するときに、いろいろ本を読んだからといって上手くいくかというと、ある程度勉強したほうが良いと思うんですが、むしろ普段の買い物とかでコストとかいった感覚を身に着けておくと、そういうときに効いてくるのではないか、と。 実は経済感覚というのは、普通の買い物でなくても大丈夫なんだけども、失敗しても100円、200円の話ですから、それほど痛くないですよね。でも、そこでコスト感覚を磨いておくと、家とか車とか保険加入とか、大きな買い物で慣れていないときに、ある程度推理して考えて買うことができるんじゃないかと。


それで、やはり普段の買い物でもうちょっと一歩進んで、裏側にどういうコストがかかっているとか、どういう価格決定しているんだろうかということを、楽しみながら考える癖がつけば、少しずつ、経済的なセンスが磨かれてくると思うんですよね。 この本はそういった目的のうちの、『楽しんで下さい』ということ、つまり、入り口の部分になります。

では、最後の質問になります。『スタバではグランデを買え!』というタイトルで、このなかにもスターバックスについての説明をされていますが、実際スタバにはよく行かれるんですか?

これは東京の方には理解しがたいと思うんですが、名古屋には都心部にしかスタバがないんですよ(笑)! スタバが身近にあるのは、東京か大阪くらいじゃないかな。 だから、名古屋ではあまり行けないですよね。ただ広島ではよく行きます。というのも、スタバが広島駅にあるので、そこをよく使わせて頂いていますね。 あとは、東京に来たときもよく行きます。 スタバ好きですけどね。 でも、ここ2年くらいはこのネタで本を書きたかったので、しょっちゅう行って価格はどうなっているのかな、とか確認したり、だいたい何分くらいかけて接客しているのか、とかアルバイト募集をみて時給を調べたり、わりと軽い取材で行くことが多かったですね。

やはり、サイズはグランデを飲まれるのですか?

たいていはグランデを飲みますよ。 タイトルは別にしても(笑)。 でも、そのときの時間に応じて、ショートもトールもベンティも飲みます。 当たり前ですけどね。 でもやはりグランデが多いですね。 たまたまグランデが多い、だから、ショートとグランデの価格差がどれも100円ということに気付いたのかも知れないですね。

お忙しいところありがとうございました!

吉本佳生氏おすすめ書籍

  • ナニワ金融道
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  • 大学の研究室に学生貸出用に2セット用意してあって、家にも1セットあります。この漫画は何とを言っても一押しですね。こんな良い本ないと思います。何か買い物をするにしても、この本に書いてあることを理解していれば、大抵の変な話にはひっかからないと思いますよ。

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  • 株式市場――資本主義の幻想
  • もう絶版になっているので、図書館などでお読みいただくしかないのですが、これは私が最も影響を受けた本です。いわゆるブラックマンデー、今から20年前ですけど、1987年のブラックマンデーの直後に出たので88年か89年、88年だと思うんですけど、その頃に出版されています。株式市場ってどういう風に動いているのかって話が書かれています。もちろん、ブラックマンデーがなぜ起きたかも最後の方に書かれていますが、今でも通じるような話が書かれているんですね。書かれた時代背景を考えてみると、あのときにこんな本が書けるってすごいな、と思います。

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