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すべてが見えてくる飛躍の法則 - ビジネスは、〈三人称〉で考える。

著者: 石原 明
定価: 1,470円
出版社: アスペクト
ISBN-10: 4757220936
ISBN-13: 978-4757220935

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対談 <第二回>ライフネット生命保険株式会社 会長 出口 治明 氏

 ビジネス業界に敏感な人間であれば「ライフネット生命保険」という企業名を聞いたことがない人は少ないだろう。日本国内としては実に74年ぶりに設立された“独立系生命保険会社”である。
 メインの設立者はハーバード・ビジネス・スクールの卒業生で元ボストン・コンサルティングの岩瀬大輔氏(現在は社長)、そして日本生命に勤務し、新たな保険の形が必要だという強い信念の元に起業した出口治明氏(現在は会長)。若き気鋭の起業家・岩瀬氏と経験と知識が豊富な出口氏の異色ともいえるタッグは成功に向けて突き進んでいる。

 『すべてが見えてくる飛躍の法則』(アスペクト/刊)の著者である石原明さんの対談連載、第二回となる今回は、出口治明氏をお迎えして行われた。
 石原さんが本書で提唱している“人称”とは、「人称」とは発話の話し手、聞き手、第三者を区別するためのものだが、ここでは「人称」をビジネスに役立てるために新たに解釈。一人称は「自分目線」、二人称は「相手目線」、三人称は「まわり目線」、四人称は「マーケット目線」というように、ビジネスにおける「視野の広さ×時間軸」の尺度として捉えている。
 出口氏はどうして幅広い視点を持つことができるのか。石原さんが深く切り込んでいく。(以下敬称略)

石原 「出口さんは若い岩瀬さんとライフネット生命保険という会社を立ち上げましたが、そういうときも第三者の視点って必要だと思いますね」

出口 「実はね、ライフネットのマニフェストは、僕と岩瀬がまだ社員がいないときに徹底的に話し合って、プロのコピーライターの方にもそれを聞いてもらって、書き出したものなんです。自分たちでは見えない部分もたくさんあると思うので、僕たちの想いを第三者に黙って聞いてもらって、整理してもらったんですよ。
例えば、自分の声を録音して聞くと、耳に聞こえている声と全く違いますよね」

石原 「あれはかなりショックを受けますよね(笑)」

出口 「そうなんですよ。僕は、人間の中で一番分からないのは自分だと思っていますから(笑)。また、ビジネスは数字、ファクト、ロジックで考えろとひたすら言い続けていますけど、それは第三者に近い視点かも知れませんね」

石原 「僕はコンサルタントとして、いろいろな会社に行って、現場レベルからマネジメントやトップの方まで関わるんですけど、役職者によって人称の高さもかなり変わってくるんですよ!
一人称は自分が頑張っているけれど、相手からどう見られているのかは分からない。二人称は自分がしていることが相手からどう見られているのか分かった上でしている。そして、その様子を客観的に見ている人たちはどう見るのか、これが三人称なのですが、このくらいから、今度は時間の長さというのも出てきます」

出口 「なるほど。空間軸と時間軸、両方ありますよね。僕は広く普通の人が分かるためには、数字、ファクト、ロジックに尽きると思うんですよ。自分の想いというのは、近くにいる人には伝わりやすいかもしれませんが、特にビジネスでそれを伝える場合は、数字に直さないといけません。
僕自身、世界を見たり、ビジネスで成功するためには、数字、ファクト、ロジックが一番大事だと思っていますし、どの国の言葉でも通じるものが一番伝わると思います」

石原 「ただ、それに気づかずにもっと目線を上げろとか、視野を広く持ちなさいと言ってしまうんですよね」

出口 「そこなんですよね! それじゃ分からないのに」

石原 「三人称は範囲と時間に相手が加わります。チームメンバーなどですね。さらに、課長になったら四人称になるんですが、今度は、お客さんまでカバーすることになるのですが、これからお客さんになる人のことも考えないといけません。企業規模がもう少し大きなって五人称になると、今度はお客さん以外の方々についても考えないといけない。自分の会社をどう見ているのか、とか」

出口 「でも、その三人称や四人称、五人称というのは価値観の違いで、同じ次元かも知れませんよ。どんな言語でも、一人称、二人称、三人称です」

石原 「私が言っている人称は、認知心理学を元にしたものなんですよ。人称が高くなるにつれて、何年後、何十年後、そして死んだ先と、どこを判断基準において企業を考えるべきか変わってくるんです」

出口 「僕は歴史がすごく好きなのですが、歴史に親しんでいる指導者は基本的に100年、200年、300年と続いていることを想像します。あとは10年先を見る人と、50年先を見る人、それぞれ違ってくるんですよね」

石原 「そうなんですよね。その部分を数字で表現できたら伝えやすいなあと思ったので、この本を書いたんです」

■ 客観性は他人の意見に触れて養われる

石原 「出口さんが広い視野を持ったのはいつ頃だったんですか?」

出口 「よく覚えていないのですが、僕は小学生の頃から本が大好きで、中学生の頃は歴史上のいろんな人物に憧れていましたね。彼らを見て、短期的には上手くいくことと、中長期で上手いくことは別だなということを学びました」

石原 「出口さんがいろいろなところで情報を発信されているのを見て、視野がすごく広くて、お仕事を通して真正面から大きいところを変えようとされていて、相当な覚悟がなければできないことだろうと思っていました。今、出口さんはすごく柔らかい表情をされているので、その背景にあるものなんだろうと聞きたいです!」

出口 「人間は人や本、旅からしか学べないと思っています。僕の場合は本から受けた影響が圧倒的に大きいです。知識や考えの6、7割は本から得て、あとの3、4割はいろんな人にお会いしたり、世界中を旅していたら、こんな風になりました(笑)」

石原 「おそらく、小さな頃から普通じゃないと言われたと思うのですが、だいたい何歳の頃に、自分は他の人たちと違うなと思いましたか?」

出口 「自分は、というよりは人間は全員それぞれ違うと思っていました。だいたい高校の頃にはそう考えていましたね。顔も、形も、考え方も違いますし」

石原 「その中で、自分はもっと違うなあと思ったことは?」

出口 「自分だけが違うとは思いませんでしたね。僕は中学校のときに陸上競技をしていたのですが、いくら努力しても100メートル12秒の壁を越えることができなかったんです。努力してもできないことがあるし、一方でラクラクと11秒台を出す人もいる。人間はそれぞれ取り柄が違っていて、全員違うなと思っていましたから」

石原 「それをこじつけていってしまえば、陸上をしていて彼らは速い、自分は遅いと感じると、どうしても自分の方に意識がいっちゃいませんか?」

出口 「そういうときも、やはりみんな得意、不得意があって、才能も違います。僕は12秒フラットまではいけるけれど、そこから先はだめでした。生まれ持った能力も違うし、みんな違うものだと思っていました」

石原 「でも、それって普通あまり思わないことですよね。僕ならば自分に意識が向いちゃって、あいつは速いなと思って終わりそうです。それぞれに天分があると思えるというのは…やはり読書量なのでしょうか」

出口 「そうかもしれませんね」

石原 「客観性というのは、なるべく他人の意見に触れることで養われていくんですよね。これまでに何冊くらい本を読まれてきたのですか?」

出口 「数えたことがないですね。ただ、今はベンチャー企業を立ち上げて忙しい毎日なのでそこまで読めてはいないんですよ、昔は暇だったので(笑)、年に2、300冊は読んでいたと思います。さらにそれは10歳の頃から続けてきました」

石原 「本にのめりこむきっかけはなんだったのですか?」

出口 「私が子どもの頃は、家の前が山で、天気が良ければカブトムシやトンボを捕りに行ったり、フナを釣りに行ったりとか、雨が降ったら本を読むとか、そういった生活だったんです。
そんなある日、確か幼稚園の頃だったかな、太陽はすごく熱くて重そうなのになんで落ちてこないだろうと思って親に聞いたんです。そうしたら、『なぜだろうなぜかしら』という本を買ってくれて、それを読んだらなんとなく答えが書いてあったんですよ。いろんなことが分かるし、楽しいという思ったところから本が好きになりました」

石原 「あー、なるほど。じゃあ分からないとき周囲の人に相談したりして。ご両親は大変だったのではないでしょうか?」

出口 「そうですね。でも、これも個性で、4つ下の弟は本を全然読まないんですよ。僕は、本は読むけれど、テレビは見ない。弟は、本は読まないけれどテレビは大好きなんです。だからそういうところからも一人一人違うことが分かりましたね」

石原 「ただ、本を買うお金をやり繰りするのも大変だったと思います。子ども時代はどんな風に本を手に入れていたのですか?」

出口 「学校の図書館に行っていましたね」

石原 「もしかして図書館にあった本、ぜんぶ制覇しました?」

出口 「そうですね、おそらく中学校の図書館にあった本は全部読んだんじゃないですかね」

石原 「で、読み終わったら、もっと大きい図書館に行くのですか?」

出口 「最初は面白い作品を読んでいき、それから順番に読んでいない本を読み進めていく感じです。今考えると、本当に読書が好きだったんだと思いますね」

■ 成功した人は必ずしもその仕事を望んでいたわけではない

石原 「出口さんはたくさんの本を読むなかで、自分の個性や向いている仕事について、どう考えていたんですか?」

出口 「実は、向いている仕事は今でも分からないです。僕は川の流れのように流れていく人生が一番素晴らしいと思っています。日本生命に入社したのも縁ですし、仕事が面白くて長くいたものですから、生命保険のこともよく理解していると人からは言われましたが、僕自身は本当にこれがやりたかった仕事かというと、はいと言える自信は今でもないですよ」

石原 「人生は川の流れに身を委ねたほうが楽しい、と」

出口 「楽しいというか、他に方法がないんですよ。起こることのほとんどは偶然です。いろいろな偶然が重なって、今の仕事をしているんですよ」

石原 「それは面白いですね! 僕もどちらかというと、出口さんと同じように目標を持たない方だと思います」

出口 「記録が残されてきたこの何千年の中で、人はそういう風にしか生きられないと書いてあります。それを読んでいたら、人生というのは流れに身を委ねるしかないのかなと思いますね」

石原 「ただですよ、どこかでターニングポイントは来ると思うんです。そのとき、やるかやらないかの選択をしなければいけないときもありますよね!?」

出口 「そのときはほとんど直感です。あと、未知のものは面白いかどうかも分からないので、まずはやってみることです。駄目だったら途中でやめてしまえばいい。僕の中の大前提として、人間は賢くないというのがあります。だから、試行錯誤をしながら自分の中で正しい道を選ぶしかないんじゃないでしょうかね」

石原 「よく若い方に向けて、目標を持って頑張ることを勧めている人もいますよね。私たちはそれをどのように理解したらよろしいのですか?」

出口 「あれは、少しおかしな話だと思います。まずは3年間、今の会社で働き、その間に英語を勉強したりして、MBAを取るためにアメリカに留学し、帰ってきてよりランクアップを目指す。こういう考えを持っている方は、その通りに進めていけばいいと思います。一番良くないのは、どうしようと悩んでいる人に、これが正しいキャリアアップだと価値観を押し付ける人です。正しい生き方なんて分からないし、10年後もMBAが高く評価されているかどうかも分からないですよね」

石原 「すごく分かりやすい話だと思うのですが、一般の方にとってはあまりピンと来ないかも知れませんね。僕が好きな本の中に『偶キャリ。』があるのですが、これは『キャリアは偶然つくられる』という言葉の略で、いろいろな分野で成功した人をリサーチしていくと、必ずしもその職業になりたくてなっているわけではないんだそうです。実は誰もその職業に就くのを望んでいなかったんですよ」

出口 「それは歴史上の人物の伝記を読んでいてもそうですね」

石原 「ところが、今の主流は自分で計画した人生を歩みなさいというものじゃないですか。でも、僕自身はコンサルタントになりたくてなったわけではなくて、たまたまこの仕事が向いていたから気づいたらなっていたんです」

出口 「川に流されてここまできたんだったら、その場で頑張ってチャレンジすることが一番素晴らしいですよね。5年先や10年先までキャリアを考えることは、先の世界が見えるとか、頑張れば何でもできるというありえないことを若い人に教えているようなものだからだと思うんです。」

■ 仕事はせいぜい人生の3割くらい

石原 「出口さんは自分とよく似ているなあと思う方と会ったことはありますか?」

出口 「似ているというか、尊敬している人はいます。クビライ・ハンですね。彼はすごく柔軟で、世の中の慣習や常識に影響受けることなく、偏見もない。能力さえあれば、どの国の人間でも自由に登用しました。」

石原 「いくつの頃、そう思ったのですか?」

出口 「最初は中学生の頃にアレキサンダーがすごく好きで、その伝記を読んでいたのですが、彼は12、13歳の頃にはすでに戦争に出ているんですね。現代でいったらまだ中学生の頃ですよ。
でね、彼はインダス川で戦争をして勝っているんだけど、普通ならギリシャから移動するわけだから兵士たちは疲れるはずですよね。そんな状況でどうしてアレキサンダーは勝てたんだろうと思って調べたら、ダレイオスが道路を造っていたんですよ。道路と駅伝制があったから、アレキサンダーは戦争できたし、勝てた。それを知ると、俄然、ダレイオスの方に興味が向きました。世界史においてすごく重要な人物で、彼はペルシャ人ですが、国の公用語をアラブ語にしているんです。普通なら、自分が使っている言語を公用語にしますが、彼が統治していた世界はアラブ人の方が多かったんです。そこで一番たくさんの人が話している言葉を公用語にすればいいじゃないか、と。そういうのをずっと読んできたので、ダレイオスもロールモデルとして尊敬しています」

石原 「へぇー。いろんな方に会ってきましたが、ここまで柔軟で、なおかつロジカルにお話をされる方は初めてです。業界において革命的なことをされている会社の社長さんがこんなに柔らかい方だとはなかなか想像できませんでした。ギャップがあると言われたことないですか?」

出口 「これも数字、ファクト、ロジックなんです。人間が80年くらい生きるとして、仕事に関わる時間はせいぜいその中で3割くらいですよ。食べて、寝て、遊んでいる時間の方が圧倒的に多いです。仕事は人生において3割くらいだと思います。だから、思いきって好きなことを考えたことをやればいいのに、3割くらいのどうでもいいことのために上司の顔を見たり、悩むんですか、と」

石原 「そう考えるようになったのはいつ頃ですか?」

出口 「もう社会人になったときにはそう思っていましたね」

石原 「じゃあ、それを周囲の人に伝えたり?」

出口 「仲間や友だちとはそんな話をしましたよ。仕事3割くらいだと割り切ったら、好きなようにできますよね。仕事は一生懸命やればそれなりに面白いですし」

石原 「周囲の人に自分の考えを言うときは、説得している感じなんですか? それとも説明してあげているような感じでしょうか。例えば、今回もとても難しいハードルを飛び越えて、独立系の保険会社を設立したわけじゃないですか」

出口 「確かに難しいですが、人がお金を出すためには、共感できることと、あとは実際に実行できるかどうかということが大事ですよね。だから。マニフェストと、こういう会社を創りたいということを伝えました。
また、僕の元によくベンチャー企業を立ち上げたいという人が来るのですが、したいことをちゃんとA4の紙に書いてごらんと言います。そして、やりたいことができるかどうかをシュミレーションしてごらん、と。その2つだけでいいよとアドバイスしますね」

石原 「なるほど。また、話を聞いていると副社長の岩瀬さんとのコラボも絶妙ですよね。面白い」

出口 「岩瀬と会ったのは、投資家の谷家衛さんの紹介で、偶然のことでした」

石原 「最初に岩瀬さんは、出口さんを見てどのように思ったのでしょうね」

出口 「最初は谷家さんが事務所がある小さなビルで会ったんですよ。だから、彼は僕のことをビル清掃のおじさんだと思ったらしくて(笑)」

石原 「いやー、でも、ライフネット生命で働いている方は皆さん優秀ですよね。優秀な方が優秀な会社に入ったら、もちろんそれなりのビジネスパーソンにはなると思いますが、そこに化学反応を起こしているのが社長の考えや、社長の出している空気感なんだと感じましたね」

出口 「この会社の強みはダイバーシティなんですよ」

石原 「だからこそ、この会社の皆さんには『飛躍の法則』を読んで欲しいと思いますね」

出口 「そうですね、社内で薦めておきます。今日はありがとうございました」

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すべてが見えてくる飛躍の法則 - ビジネスは、〈三人称〉で考える。

著者: 石原 明
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ISBN-13: 978-4757220935

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