だれかに話したくなる本の話

【「本が好き!」レビュー】『白光』朝井まかて著

提供: 本が好き!

時は明治、16歳にもなると嫁ぐことを意識しなければならない時代、りんは江戸の絵師に弟子入りをするため故郷を後にした。一度は連れ戻されたが、りんの強い意志と覚悟に「開化の道を行け」とりんの望みを叶えようと母と兄は、江戸への出立を許した。

江戸では浮世絵師や、円山派の絵師の弟子になるが、ここでは学べないと見切りをつけると師を替えて、4人目の師匠となる南画師の中丸精十郎の内弟子に収まった。やがて、工部美術学校を受験し合格したものの、学費のことで入学をあきらめかけていたところ旧笠間藩の藩主、牧野貞寧子爵の援助により美術学校への入学が叶った。学友の山室政子に誘われ神田駿河台の教会に行き、ニコライ師と出会った。そして、初めて目にした聖なる絵画「見る聖書」に心を奪われた。日曜ごとに教会に通い、りんは洗礼を受けイリナという聖名となった。

美術学校では、尊敬していたイタリア人教師、ホンタネジーが病に罹り学校を辞め帰国することになった。後任の教師は、りんが尊敬できるほどの人物ではなく、美術学校を退学してしまう。そんなりんに、ニコライ師からロシア留学の話があった。サンクトペテルブルグの女子修道院で、絵の勉強をするようにと言われ一時帰国する神父とともに、ペテルブルグに向かった。

慣れない船旅での苦難、サンクトペテルブルグ女子修道院での戸惑い、多くの苦難を経てりんがイコン画家となるまでの壮大な物語が、想像を絶する展開だった。明治という時代背景の中で、ひとりの女性がイコン画家になるのがいかに苦難を経ているか、また日本の時代の流れの中で暮らす人々の生活が非常にわかりやすく描かれていた。ニコライ堂の存在は知ってはいたが、この小説で初めて知ることもできた。

イコンは、画家の名前を記さないというが、山下りんのイコンがエルミタージュ美術館に所蔵されているらしい。いつか、りんの描いたイコン画を見ることができたら、と思う。

(レビュー:morimori

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本が好き!
白光

白光

絵を学びたい一心で明治の世にロシアへ
芸術と信仰の狭間でもがき辿り着いた境地――

日本初のイコン画家、山下りん
激動の生涯を力強く描いた渾身の大作

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