だれかに話したくなる本の話

【「本が好き!」レビュー】『夢見る帝国図書館』中島京子著

提供: 本が好き!

2019年に初めて「夢見る帝国図書館」を読んだ時、文庫本が出たら購入し保存しようと思っていた。やっと5月10日に書店に並び再読したが、ずいぶんと内容を忘れていた。あるいは、ザックリ読んで読んだ気になっていたのかもしれない。

主人公のわたしは、15年ほど前上野公園で喜和子さんと出会った。「どんなお仕事?」と問われて「小説家」と言うには憚られていたのに、喜和子さんには「小説、書いているんです」と話したことからふたりの距離が縮み再会する約束を交わしたわけではなかったのに、上野の図書館に出かけると喜和子さんに会った。次第に喜和子さんの身の上話を聞くのだが、戦後復員兵のお兄さんと生活していたことがあるという不思議な時期があった。喜和子さんとわたしの現実世界の途中には、帝国図書館の歴史が挿入されており、現実世界から帝国図書館の歴史、上野の歴史の中にあたかも自分の身を置いているかのような錯覚に陥った。

江戸が明治とかわりつつある時代、上野戦争があり寛永寺の敷地が動物園や博物館となり、湯島に日本初の近代図書館「書籍館」が開館した。しかし、博物館との抱き合わせにより本がない!怒ったのは、後に永井荷風の父となる永井久一郎。近代図書館に情熱をかけ蔵書を増やしたのだが、開館した2年後に西南戦争により戦費がかさみ廃止となった。

その後も図書館は、火災や日露戦争、日中戦争など様々な苦難を乗り越え開館し続ける。その間利用者の中には、樋口一葉や菊池寛、谷崎潤一郎、芥川龍之介など多くの作家がいた。喜和子さんが、幼い頃になぜ上野に住んでいたのか。自分でも記憶があいまいな喜和子さんの生い立ちを、わたしは喜和子さんと関わりのあった人たちとともに明らかにしていく。帝国図書館の歴史と、喜和子さんの波乱万丈の生い立ちがリンクしているように感じた。上野は、どんな人も受け入れる懐の深い土地なのよ、というような喜和子さんの言葉は心に伝わるものがあった。

(レビュー:morimori

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本が好き!
夢見る帝国図書館

夢見る帝国図書館

「図書館を愛した」喜和子さんと、「図書館が愛した」人々の物語

上野公園のベンチで偶然、出会った喜和子さんは、作家のわたしに「図書館が主人公の小説」を書いてほしいと持ち掛けてきた。

ふたりの穏やかな交流が始まり、やがて喜和子さんは終戦直後の幼かった日々を上野で過ごした記憶が語るのだが……。

日本で初めての国立図書館の物語と、戦後を生きた女性の物語が共鳴しながら紡がれる、紫式部文学賞受賞作。

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