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【「本が好き!」レビュー】『邪馬台国は「朱の王国」だった』蒲池明弘著

提供: 本が好き!

*ネタバレ注意 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。

 これは仮説である、とまず言っておく。だが、作者の仮説は説得力がある。故に、僕は限りなく事実に近いと思った。とにかく、裏付けしているデーターの数が膨大なのだ。
 邪馬台国が、どこに存在していたかは古代史のロマンとして皆から興味を持たれていた。九州説と畿内説が有力で、纏向遺跡(奈良)の調査で畿内説が有力になり、僕はそれで決まりと思っていた。この本の作者は、九州説をとっている。「水行10日、陸行1月」の魏志倭人伝の記述に従うと、距離的には奈良っぽいが、彼らの目的は未知の世界の探検なので、鉱物資源である朱の生産地の調査も兼ねていたと、作者は最後につけたしのように述べている。だとしたら九州もありなのかもしれない。
 日本は朱=水銀の最大輸出国であったらしい。火山がその資源を与えたという。魏志倭人伝に出て来る伊都国らしき九州の地には、その繁栄と朱の生産地だったことがわかる証拠が数多く残っていた。
 古代において、朱は九州と四国と奈良に多く見つかっていて、後に伊勢にも見つかっている。
 神話、東征伝説は、枯渇した朱資源を求める為、新たな朱の生産地を探す旅だったというのである。確かに、そのルート上には朱の生産地があった。そして、目的地の奈良は、当時、日本最大の朱の生産地であり、その周辺には多くの前方後円墳があるらしい。それは東征してきた人たちの末裔によるものらしい。つまり、大和政権だ。
 前方後円墳は、突出してでかい墓だ。副葬品も豪華だ。かなり金がないと作れない。この時代、日本はバブルになっていたのだ。その根拠は、朝鮮に傭兵を出していた、その報酬と農業改革が信じられてきたが、作者は奈良は農業の適さない土地という。現代でも下から数番目で土地も狭い。それに、画期的な農業革命もなかった。なら、その金はどこからということになる。わざわざ、農地の少ない土地にどうして首都を置いたのかということになる。それは奈良が朱の最大の生産地であったから、つまり、朱の貿易によって財を得ていたのだ。
 しかし、バブルは衰退し朱の生産量も減る。そこで、ヤマトタケルの神話になる。彼は、伊勢で死んでいる。伊勢には伊勢神宮がある。その伊勢は、現在の水銀産出量3位の土地なのだ。北海道、奈良、伊勢らしい。伊勢神宮から少し離れた所に、その生産地跡は存在していた。つまり、朱の生産地を天皇家が独占するために、あそこを聖地にしたのか。
 さらに、作者は東大寺のお水取りの儀式と朱の関連も明らかにしている。
 膨大なデーターと資料が、朱が古代日本の社会を潤し、それが思想や宗教や権威と結びついていたことが、この本によって提示されています。
 あくまで仮説ではありますが、ここまで説得力があると、そうなのかと思ってしまいます。

ページ数 262
読書時間 6時間
おすすめ度 90%

古代史が好きな方は、すごく楽しめると思います。

(レビュー:m181

・書評提供:書評でつながる読書コミュニティ「本が好き!」

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邪馬台国は「朱の王国」だった

邪馬台国は「朱の王国」だった

長年、続く邪馬台国論争に一石を投じる画期的な論考の誕生。

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