「僕は嘘をつかずに、生きていきたい……。」
本書は、こんな冒頭からはじまる。
お母ちゃん、ごめんな。子どもたち、ごめんな。
けど、もう隠していたくないんよ……。
僕は嘘をつかずに、生きていきたい……。(P4より)
本書は、猿まわし師であり、 「太郎次郎」でお馴染みの村崎太郎氏による自叙伝だ。
猿まわし師として次郎とコンビを組み、観客を笑いの海へと誘う太郎氏。 しかし、舞台上で次郎と掛け合う彼からは想像できないような葛藤と戦っていた。
本書には、その変えられぬ「運命」に対して反抗し、あがき、苦しみながら、 成長していく一人の青年の姿がありありと描かれている。
本書で明らかになった光と影、波乱万丈の過去とは?
本書を執筆したきっかけは、2008年末に太郎氏の妻である栗原美和子氏が 執筆した『太郎が恋をする頃までには…』(幻冬舎)にあるという。
文化庁芸術祭大賞やACC全日本CMフェスティバル優秀賞を受賞するなど、 猿まわしの第一人者として、栄光とも言える道を歩んできた太郎氏。 しかし、これまでカミングアウトできなかった波乱万丈の過去があった。
そんな太郎氏は、妻とともにその過去を自身からカミングアウトし、 そして、それに挑もうとする。そして、今の気持ちを以下のように語るのだ。
「遂に、というよりも、やっと、 その部分をさらけ出して
正直にお話しすることができました。」(P312)
「差別なんて、くそ食らえだ。アホみたいにちっぽけなことだ。」
本書のクライマックスには、お世話になった人々や母親や家族とのエピソード、 彼に大きな影響を与えてきた父親へのメッセージがつづられている。 それは彼の波乱の半生を象徴するものであるといえよう。
本書を出版したことで、さらに大きな波が来るかも知れない。 しかし、ようやく一人の人間として、堂々と胸を張れる日が きたのではないだろうか。
本書の中で何度も出てくるこの文章が、眩しく読者を照らす。
あなたは、どうですか?
あなたも、そしてあなたの隣人も、
この国に生まれて幸せですか。
この国で、それなりに楽しく生きていますか。