新刊JP FEATURING 「ラクをしないと成果は出ない」日垣隆

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1. ラクをして成果を上げるのが基本中の基本

 どんな仕事にも必ず、「成果を上げるための方法」があります。

 ゼロからスタートしてさまざまな試行錯誤を重ね、より良い方法を見出そうという意気込みの人がいたら、「仕事熱心だな」と思うかもしれません。

 しかし、実はここに落とし穴があります。

 成果を上げる方法や仕事の技術というのは、ゼロから築くより、すでにあるパターンを盗んで組み合わせるほうが、ずっと効率がいいからです。

 この真実は、私自身その落とし穴から抜け出す経験の中で、遅ればせながら気づいたものです。

 私の人生最初の仕事場は、大学生協の売店でした。

 書籍以外の食品・文具の補充発注を任され、毎日の業務の一つがパンの発注です。

 その売店で扱うパンは、およそ四〇種類。前任者は、A、B、Cセットという三種類の注文パターンをつくっていました。Aセットはメロンパン、カレーパン、アンパンなど主だったパンが各五、Bセットは各三、Cセットならメロンパン以外は全部各一、といったシンプルなものです。

 これがあるから注文も簡単で、前任者はパンのから電話がかかってくると、「今日はBセット」「土曜日はお昼までの授業ですからCセットに」と、手短にすませていました。

 当時、その注文セットの根拠がわからなかった私は、毎日違う組み合わせでパンを頼んで、もっと売れる注文方法がないか、検証してみることにしました。

 「今日はメロンパン四つに、カレーパン六つ……」と四〇種類ものパンの注文をえんえんと読み上げ、翌日はまた微妙に違う組み合わせにして長電話をし、という具合です。

 一ヵ月後、自分が空回りの努力をしていたことがはっきりしました。売店における仕事の成果とは売り上げですが、パターンどおりの注文のときはきれいに売り切れたパンが、私のやり方では毎日余って赤字を出してしまいました。お客さんは「あるものの中から三つ選ぶ」というような買い方なので、パターン化という大まかな方法で充分だったのです。

 「前任者の知恵を拝借しよう」と納得してやれば、合理的かつラクに仕事ができます。そこで余ったエネルギーを、もっと重要なことに費やせば、さらに成果は上がるのです。

 いま思えば、あの「小さな失敗」は、そんな仕事のルールを学ぶための大切な経験でした。

 とはいえ、「全部にラクをしたら、成果は必ず下がる」というのもまた真実です。

 基本的なことは既存の方法に頼ってラクをし、細部を検証しながら、微調整していく。

 これこそ、成果に結びつく「正しい試行錯誤」と言えます。

Point!「ゼロから築く」のは通常大いなる無駄である。

2. ゴールを必ずイメージしてから仕事に取りかかる

 仕事の定義とは、と聞かれたら、「条件をクリアして期限までに納品すること」と私は即答します。どのようなアウトプットにするかゴールをイメージし、必要なものをインプットしていくのが基本です。

 執筆業の場合、仕事の流儀は、一〇〇を仕入れて一〇〇を書くタイプと、一〇〇を仕入れて一を書くタイプの二つに分かれます。

 前者は「せっかく一〇〇も仕入れたのに一しか使わないのは無駄な取材をしている証拠だ」と言いますし、後者は「一本の棒をしっかり立てるには九九の土台が必要だ。密度の濃い一をアウトプットするほうが大切なのだ」という言い分です。

 しかし、たいていの仕事はこの中間で、いずれにしろアウトプットを想定してインプットすることが大切なのは同じだと思います。

 インプットが重要な時代小説を例にとると、司馬遼太郎さんは古文書なども読むけれど原則的に一次資料にこだわらず、構想力で作品を大きく組み立てていくタイプです。

 吉村昭さんは、非常に緻密な取材をする作家の代表です。一次資料に徹底的にこだわり、刑務所の当直日誌といったものも、あらゆる手段で入手しています。

 吉村さんの『わたしの流儀』(新潮文庫)を読んでいて、驚いたことがあります。

 日本最高峰といわれる詳細な調査でありながら、取材旅行は二泊三日が限度だというのです。あまりに短い、といぶかりつつ読みすすめると、非常に合理的な取材方法をとっていることがわかりました。

「この資料はここにある」と入念な下調べをし、ピンポイントで攻めていく。「必要な資料が見つかるまで、一月でも二月でもかける」という発想ではなく、「とにかく二泊三日で新しいものを見つける」というゴールをイメージしている。さらに、「二泊三日で見つからないような資料は存在しないとみなす」と見切り方まで決めていたのです。

 アウトプットさえちゃんと出せれば、インプットに三〇日かかろうが二泊三日だろうが同じ、だったら短いほうが良いというスタイルで、とても参考になります。

 もう一つ、私たちが吉村さんから学ぶべき仕事術は、「インプットが三分の一程度になったらアウトプットを始める」という方法です。

 取材途中でゴールを意識して書き始めると、どんな情報が無駄で、どんな情報を新たに仕入れるべきかが、はっきりします。インプットがさらに合理化できるわけです。

 執筆に限らず、早い段階でアウトプットを始めれば、ゴールはより明確になります。

Point!麓ではなく、前景を眺めてから、山に登ろう。

3. 自分にできないことをしている人を素朴に尊敬する

 「この人には、かなわない」と思うことは、日常のなかにあふれています。

 パソコンならあの人、整理整頓はこの人がスゴイというように、小さなことまで含めれば、自分にできないことをやっている人というのは、誰のまわりにでも、山ほどいるはずです。

 そう感じたとき、陥りやすいNGパターンは二つ。

 一つめのNGは、嫉妬心。これは、あえて説明するまでもないでしょう。

 そして、いちばん多いのは二つめのNGパターンで、「ほかの指標をもちだして、理屈をこねること」。

 例えば、「顧客獲得数はコイツにかなわないけど、仕事全体としては俺のほうがすごい」という思考に走る。あるいは、「たしかにこの人は英語力があるけど、俺のほうがモテる」と、語学力にたいして、容姿というまるで別の指標をもちだそうとする─。

 このNGパターンに陥ってしまうと、「小さな進歩」がなくなります。

 小さな進歩の積み重ねこそが、爆発的なヒット商品や、大成功に必要不可欠なのにもかかわらず、です。

 なぜなら、大ヒットの理由とは、決して一つではないからです。

 ニンテンドーのWiiを例にとれば、大勢がゲームをできるようにしたとか、おじいちゃん、おばあちゃんも一緒に見ているだけで楽しめるからという単純なことだけでは、成功の理由を説明できません。

 売れるもの、ヒットする企画というのは、良いと思われることは、ほとんどすべてやっています。

「できること・できないこと」をじっくりと考慮し、優先順位をつけた一〇〇の要素を着実に積み重ね、一〇〇の小さな進歩を集めている。そのうえで、たとえ流行だろうと必要がないとみなしたものは、あえてやらない決断をしている─。だからこそ、成功しているのです。

 自分にできないことをしている人は、成功のための一〇〇になくてはならない存在です。

 ですから、「かなわないな」と思ったら、決して自分と比べることをせず、素朴に尊敬してしまいましょう。「素朴に」というところがポイントです。

 理屈をこねずに、ただ素朴に「スゴイ」と思うことが大切。そうすれば、あなた自身も「小さな進歩」を積み重ねていけるのです。

Point!「性格」と「能力」といった違う指標で理屈をこねない。

4. お金で自分の時間は買えない。他人の時間なら買える

 万人に平等に与えられているものは、なんと言っても時間。超多忙なアメリカの大統領も、一日中泣いたり寝たりしているだけでいい赤ちゃんも、一日に二四時間しか持っていません。どんなお金持ちでも、一日を二五時間にすることはできないのです。

 人類の歴史は、自分の時間の代わりに他人の時間を買うようになった歩みと言えます。

 私は自給自足の人たちと生活を共にしたことがありますが、彼らは他人の時間を買わず、すべてを自分たちでやっています。

 食べ物を用意する、家を建てる、水を調達するといったことを自分たちでまかなっている。これが人類最初のスタイルでしょう。

 やがて時の流れとともに、私たちは他人の時間を買うようになりました。いまや、たいていの人は、衣食住の何かしらをアウトソーシングしています。ワイシャツをクリーニングに出すのは、洗ってアイロンをかける時間を他人から買っているということ。

 そして、時間がかかるものほど値段が高いのが普通です。仕込みから含めれば一〇〇時間かかる料理のほうが、手軽につくれるものよりも高い。どんなに高級でも三万円のラーメンはないのです。

 自分の時間に限りがあるなら、誰にでもできることは極力アウトソーシングして、ラクをしたほうがいいでしょう。

 例えば、書類を届けるのにバイク便を使う三〇〇〇円を惜しんで、自分で届けようとする人がいます。しかし「書類を相手先にすばやく届ける」という作業は誰にでもできることで、他人に頼んでもなんら差し障りはありません。

 そういう仕事はどんどん人に任せて、そのぶん自分にしかできない仕事をすべきです。

 人の時間を買うことで生まれた「自分の時間」を最大限に活用し、得意なことを徹底してやったほうが、成果は上がるはずだからです。

 逆説的にいえば、代替性のない仕事をやらないと、コンピュータやより安い労働力にとって替わられて、仕事がなくなる時代になっています。

 子育てのように、すべてを人に委ねたら楽しみがなくなったり、問題が生じるものもありますから、つねに満足度とコストを考えてアウトソーシングしましょう。

 いかに「独創性のある仕事」をし、どれだけ成果を出していくかが、個人の生きがいにもなるし、収入の差となって現われてきます。

Point!ラクをする部分と、懸命になる部分のメリハリをつけよう。

5. 「ぜひ続編を」に即対応できるよう、素材は使い切らない

「発注と納品」がない仕事というのは、基本的にありません。

 発注が一回こっきりで終わるか、継続していくかというのは大事な問題です。

 一回だけなら、懇願する、コネを使う、あるいはたまたま偶然に発注されることもあります。しかし、二回目が来るには、前の仕事で高い評価を受けることが不可欠。

 執筆業に限らず、仕事をする人であれば、評価の代替指標として継続的に仕事が来るのが理想でしょう。上司に評価されて、次のプロジェクトも任される。取引先に「またお願いします」と再指名される。

 嫌な仕事を断るためにも、継続していく仕事は必要です。向こうから「お願いします」と言われる仕事が随時あれば、気が進まない案件を断る余裕ができます。

 そこで重要なのが、最初の仕事でした一〇〇のインプットの残りを、二回目以降のために、大切に保管しておくことです。

 これは、「ゴールをイメージして無駄なく合理的にインプットをする」というセオリーと決して矛盾しません。

 また、仕入れた材料を「一回目の仕事用」と「二回目以降の備蓄用」に分けるという、節約みたいな話でもありません。

 どのようなアウトプットにするかを意識しつつインプットしていっても、仕上げる段階で、「使いたいけれど、今回のテーマからはれる」「とてもいいネタだが全体のバランスをこわすから、涙を呑んで使わないことにしよう」という材料が必ず出てきます。

 そういった材料をたくさんもっている人が、続編を書ける作家であり、二回目の仕事に即座に対応できるビジネスマンです。

 具体的なネタの保管方法は、ごくシンプル。

 次の仕事に使えそうなものはメモにして残しておくこと。

 ときどき、記憶力に対して自信過剰な人がいて、一〇〇覚えておけると思ってメモをゼロにしてしまいます。このタイプは実際に記憶力が優れているので、九〇は覚えていますが、一〇は忘れてしまいます。

 一方、私のように、一〇〇のうち四〇しか覚えておけない普通の人間であれば、六〇をメモしておけばいいのです。記憶力がはるかに劣ったとしても、仕事の質はぐっと上がります。

Point!完成の過程でもれていく情報をストックしておく

6. 外部の人に自分の仕事のおもしろさが伝わらなければ、それはつまらない証拠

 夫婦には二通りあると、私は思っています。

 一つは、夫が自分の仕事について妻にまったく話さないという関係。

 もう一つは、職場の人間関係から取引内容まで、微に入り細をうがってペラペラしゃべる夫婦。私は男性なので「夫が」としましたが、妻と夫を入れ替えてもいいでしょう。

 これはもちろん、夫婦仲のバロメーターです。

 普段まるで話をしていないと、いざというとき相談できなくなってしまいます。リストラされそうになった、急な転勤を命じられたというとき、妻にそれを告げると、「じゃあ、辞めれば?」とあっさり結論を下されたり、「あっ、そう」と軽く流されたりします。

 この仕事にどれだけ力を注いでいるか、自分は職場でどういう役割を果たしているか、転勤を命じられたこと自体より信頼していた上司に言われたことがショックだった、などというディテールは、毎日話をしていないと伝わりません。

 悩みを打ち明けるには、共通の基盤が必要ですから、普段、仕事についてしゃべらないでいると人生についての相談もできないという状況まで引き起こす可能性があります。

 仕事について話すかかは、自分自身がどれだけ仕事をおもしろく思っているかのバロメーターでもあります。

 まったく話さないという人に理由を尋ねると、決まって返ってくる答えがあります。

「言っても、どうせわからない」

 しかし、言ってもわからない状態にした張本人は、その人自身です。

 どんな業界にも、共通認識や専門用語があります。同僚や同業者どうしなら、細かに説明しなくても、の呼吸でわかりあえます。

 ところが妻でも夫でも恋人でも、部外者に説明する際には、不可欠な要素がいくつかあります。まず、自分の仕事がどういうものなのかを自分自身、理解していること。次に、それをきちんと説明する言語能力。さらに、利害関係がないプライベートな間柄の相手にも興味をもって聞いてもらえる、話のおもしろさ。

 何より、自分自身「仕事がおもしろい」と思っていなければ、仕事を理解することも、おもしろく説明することもできません。もし、仕事がおもしろくてたまらなければ、誰かに話したい、わかってもらいたいと思うはずです。

 夫婦に限らず、部外者にどれだけおもしろく仕事の話ができるか試してみましょう。

Point!仕事のストーリーテーラーを目指す。

7. よくわからなかったら、現場に行って考える

「現場を見る」という行為は、捜査にゆきづまった刑事と取材記者の専売特許ではありません。

 ビジネスマンも無意識にやっているし、今後もどんどんやるべきことです。

 例えば不動産関係の仕事にいている人が、新たに中間所得者層を狙ったファミリータイプのマンションを開発する、高所得者層をターゲットとしたリゾートマンションを手がけるといったとき、類似物件を見に行くでしょう。

 しかし、これだけでは、まだごく普通の仕事に過ぎません。

 そこでもう一歩踏み込んで、仕事でなくてもちょっと関心のあることがあれば、現場に足を運んでみることにしましょう。

「記者クラブ」という所属記者だけが一次情報を独占できる制度が実質的に崩壊したいま、良質の情報を真っ先に取れるチャンスは誰にもあります。

 また、これだけインターネットが発達し、すべての調べものがパソコン一つでできてしまう時代だからこそ、逆説的に「現場に行くこと」が貴重な価値をもつのです。

 必要なのは「関心をもつこと」だけ。

 若い人の格差について興味をもったら、何を調べるかというのがわからなくても、とりあえず渋谷に行ってみる。

 会社で危機管理対策の担当者になったら、何かの事故が近くで起きたとき、報告書を作る必要がなくても、現場に駆けつける。

 すると必ず、その道の専門家やコンサルタントに何百万円も払って受けるアドバイスに匹敵する、貴重な情報が見つかります。

 何の準備がなくても、現場に行けば、おのずとさまざまなものが目に入ってきます。そうすれば、嫌でも何かしら考えます。発見はそこにあるのです。

 例えば、私はこれまで、「耐火金庫」とは、火事でも燃えない金庫だと思っていました。焼け跡から金庫がぽこっと掘り出されると考えていたのです。

 しかし耐火金庫とは実は、せいぜい耐火時間が一時間程度の、火事が起きてから最長一時間以内で誰かが持ち出さねばならない金庫のことを言います。だったら、五〇キロもある金庫を買ってもどうしようもない。せいぜい七キロ、犬か猫くらいの重さの耐火金庫がベストだということが、火災現場に行って焼け落ちた金庫の残骸を見ればわかります。

 空いた時間があったら、マウスを捨てて外に出ましょう。

Point!事件は現場で起きている!

8. 気になったら、まず買う

 男性と女性では、一般的に、買い物にかかる時間が違います。

 もちろん男のほうが短いわけですが、それはおそらく「目的買い」をするからだと思うのです。

 今日はワイシャツを買おう、今週中に手帳をと、ほんとうに必要かつ、いつも買っているメーカーの品を、短時間で求める人が多いのではないでしょうか?

 私が『何でも買って野郎日誌』(角川書店)という買い物日記を出したときも、共感してくれたのはほとんど女性で、インタビューに来た男性記者はピンとこないようでした。

 若い世代は別として、「子どもの頃から同じ床屋に通っている」とか、「あれこれ新しい店を開拓するより、なじみのレストランにいくのがいちばんだ」という男性は多いようです。しかし、そう簡単に「マイ・ベスト」を決めてしまっていいものでしょうか?

 子どもの頃から一心にゴルフだけして花開く天才もいるでしょうが、多くの親がゴルフも勉強もピアノも水泳も、とやらせるのは、ゴルフだけに専念しても花開かない子どものほうが、天才よりはるかに多いからです。

「一つに専念する」というのは、く響くものの、危険な行為。

 生き方でなく興味なら、一つより多いほうがいいに決まっています。

「買う」という行為は興味を広げるために有効ですから、女性を見習わない手はありません。ものを買うというのは「体験を買う」ことでもあります。

 歌舞伎に興味がなくても、とりあえずチケットを買って体験する。

「カジノでギャンブルなんてろくでもない」と眉をひそめていても、やったことがなければ「良い/悪い」を語ることはできません。

 Windows VistaでもニンテンドーDSでもブランド品でも、気になったらまず買ってしまいましょう。そうすれば、いろいろな学びがあります。

 例えば、iPodを買ってみるとします。買ったら気になるので、絶対にほかの店でもiPodをチェックするようになります。iPodミニを買ったあとで、よりコンパクトなナノが同じような価格で売られているのを見つけるかもしれません。

 だからといって、くやしがる必要はありません。iPodを買うことで、「iPodを体験」し、「iPodを見る目」がわれたのです。

 自分の買ったものが相場からいって高いか安いか、値段のわりに質が良いか悪いか。

 品物と一緒にそうした判断力を手に入れる方法として、「買い物」を楽しみましょう。

Point!「買わず嫌い」はもうやめて

9. 自分に対する優先順位を上げてもらうことが仕事の基本

 何らかのトラブルが発生したときや、大仕事を一緒にやろうというとき。

「私はA社の○○部長とは仲がいいから、大丈夫です」

 こんな一言ですべてを解決しようとする人が、どこの会社にもいるのではないでしょうか。

 仕事相手とのコミュニケーションがくいっていることは、もちろん悪いことではありません。

「同期の五人中、俺がいちばん上司に気に入られているな」

 そんな自負も、特段おかしくはありません。

 しかし、それだけで仕事も上手くいくと思っているとしたら、大いなる勘違いだと早めに気づいたほうが、あとあと幸せです。

 なぜなら、仕事においての人間関係で大切なのは、「相手にとって、自分の優先順位が高いこと」だからです。

 いつも気持ちよく仕事ができるA社の○○部長。飲みにも連れて行ってくれるし仲もいいけれど、しょっちゅう遅刻してきたり、「悪いね、月曜日の打ち合わせ、日程をずらしてくれない」としばしば言われていませんか?

「キミみたいに楽しい営業は、なかなかいないよ」と言ってくれるB社の担当者は、いざとなると、なかなか発注してくれないということは、ありませんか?

 つまり、その人と気が合うということと、仕事においてその人から信頼、尊重されているかどうかはまったくの別問題なのです。

 仕事が介在する人間関係であれば、よい雰囲気を味わっているだけでは仕方ありません。納期までに一定条件を満たしたものをかたちにするのが仕事の定義だからです。

 したがって、好きだろうが嫌いだろうが、あなたを優先順位の高い相手として扱ってくれる人が、一緒に成果を生み出せる相手なのです。

 いくら気に入ってくれている取引先でも、担当者が替われば人間関係はリセットされます。後任者はとんでもなく気難しい人になるかもしれません。上司にしても、社長にしても、いつ別の人に替わるかわからないのが現状なのです。

 好かれることより、相手にとっての自分の優先順位を八位から三位に上げるような人間関係を目指す。このセオリーを知れば、「取引先と相性が悪い」「上司とそりが合わない」といった無駄なストレスからも解放されて、ラクになります。

Point!誰もが「ハマちゃん」になれるわけではない。

10. 全体像と個別の処方箋を混同しない

 私は、タクシーのサービスにうるさい人間です。

「お客さん、タクシー業界って儲からないんですよねえ、まったくもう……」

 乗り込むなり運転手がぼやいたら、「じゃあ辞めたら」と答えて会話を打ち切ります。

 私は特別な要求をしているわけではありません。自分が努力しないことを棚に上げて、儲からないことをタクシー業界のせいにする姿勢がおかしいと思うのです。

 たしかに、全体としてタクシー業界の景気はよくありません。しかし、そのなかでも稼ぐ運転手とダメな運転手がいます。成績を上げている人も必ずいるものです。

 数年前、札幌に行った際、私のちょっとした問いに実に的確に答えてくれる運転手がいました。頼みもしないのに、ペラペラ観光案内を始められるとうざったいものですが、その人は「どんな質問にも答えられるよう準備しておくが、自分からは売り込まない」タイプ。さらに訊ねると、個人で観光ホームページを作っていて、札幌に来たら必ず指名の電話をくれる顧客が何十人もいるとのこと。会社は売り上げがアップして文句を言うはずもなく、個人としての歩合給も上がるので、いいことずくめです。

 会社自体で工夫しているところもあります。例えば国際自動車(kmタクシー)はハイグレードタクシーや行き先の登録カードなど、さまざまなアイデアを実現して着実に業績を伸ばしています。

 それなのに、何一つ努力せず、漫然と駅で客待ちをして、あげくの果てに関係ない他人に愚痴っていても、生産性が向上するはずもありません。

 たまたまタクシー業界を例にとりましたが、他の仕事だろうと世の中の仕組みだろうと、同じことです。世の中が不景気でも、トヨタは儲かっています。不況のときに景気がいい人もいれば、バブルのときに沈んだ人もいます。インフルエンザが流行っていても、地球上の人類すべてがインフルエンザに感染することはありません。歳とともに衰える人もいますが、老いてなお盛んな人もいます。

 全体と個とは関連していますが、完全にリンクしているわけではないのです。

 世の中の流れなり、業界の景気なりのトレンドを把握したうえで、個別の処方箋を独自につくっていく。今年の花粉症は去年の一〇倍きついという全体認識をしたうえで、「自分は」どんな対策を講じるかを考える。

 こんなあたりまえすぎるあたりまえのことを、仕事においても忘れてはいけません。

Point!トレンドに巻き込まれない技法を身につける。