新刊くん

お坊さんが教える「悟り」入門

お坊さんが教える
「悟り」入門

定価: 1,300円+税
著者: 長谷川俊道
出版社: ディスカヴァー・
トゥエンティワン
ISBN-10: 4799314688
ISBN-13: 978-4799314685

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著者インタビュー

― 『お坊さんが教える「悟り」入門』について、長谷川さんがこの本で一番伝えたかったことは何だったのでしょうか。

長谷川 : 僕はハワイのお寺で7年半ほどお坊さんをやっていたのですが、ハワイは日本より赤道に近いから、「春分の日」も「秋分の日」も昼と夜の長さが違うし、そもそもそんな日は定められていないわけです。
そうすると、僕らが「春のお彼岸は西方浄土が近くなって…」と説明しても通用しない。ハワイの仏教徒は100年ほど前にやってきた日本人の子孫ですから、お彼岸の文化自体は残っているのですが、背景になっている仏教の教えを若い人は知らないんですね。そういうのを見てきて、このまま何もしなかったら仏教の文化は消えていくんだろうなというのは思っていました。その危機感はこの本を書いた動機としてあります。
仏教というのは、現実生活に根差した宗教です。だからこそ、もっともっとお寺やお坊さんに若い人たちが近づいて、使ってもらいたいというのがこの本で伝えたかったことです。

― 「悟り」というと、とても高尚で、普通の人にはなかなか到達できない境地のように思えます。どんな人にでも「悟り」は訪れるのでしょうか。

長谷川 : 小さな悟りは誰にでもあります。大切なことは、「悟った」あとにその人の「行動」や「言動」が人々に「なるほど!」と賞賛されるほどに「変化」すること。でなければ、ただの「錯覚」です。

― 「悟り」とは一体どんなものなのでしょうか。

長谷川 : 「真実の人間」に近づくことでしょうか。

― 「仏教の教え」ということでいうと、お釈迦様の人生や教えを題材にしている本や漫画がありますが、ああいったものをお坊さんが読まれるとどんな感想を持つのでしょうか。

長谷川 : 中村光さんの『聖☆おにいさん』を全巻持っていますが、仏教の教えの入口としてはおもしろいと思いますね。また、手塚治虫さんの『ブッダ』はとてもわかりやすかった。どちらも、仏教のとっかかりとしてはいいのではないでしょうか。
ただ、私たちの教え、仏教の教えはあんなに軽くはありません。
宗教が本当に必要とされるのは、何もせずにいるとノイローゼになったり、自殺しかねないような、深刻な苦しみや悲しみに直面した時です。だから日本人が宗教離れしたり、それこそ漫画になったりするのは、それだけ日本が平和なのだと思いますね。

― 本書を読んで、一章が特に強く印象に残りました。「心を整える」という言葉がいいなと思ったのですが、長谷川さんが「心を整える」ために習慣としてやっていることがありましたら教えていただければと思います。

長谷川 : 私は毎朝5時半から座禅を組んでいます。それから朝課でお経を詠み、その後は馬の世話だとか境内の掃除を日課としてやっています。

― 座禅は確かに、心を整えるには良さそうですね。座禅を組む際に気をつけるべきことはありますか?

長谷川 : 一番は「調身、調息、調身」です。「調身」は背筋を伸ばして、体を決めて、三角形になるように座禅の体勢をとるのですが、これは人間が一番安定する格好です。
朝の座禅は30分くらいなんですけど、たとえ10時間でもそのままの体勢でいることができます。それくらい安定しているんです。
その次が「調息」、つまり呼吸を整えることです。「調身」で身を整えて、「調息」で息をコントロールしていくと、心が波のない湖のように静まってきます。

― 座禅の最中は何も考えてはいけないのでしょうか。

長谷川 : よくそうやって言われますが、死なない限りは無理ですよね。必ず何かしら考えてしまいます。
ただ、考えていることから距離を置くことはできるんです。たとえば「人間はどうして生まれてきたのだろう」と考えたとします。この問題に集中していると、どんどん近視眼的になって周りが見えなくなってしまう。
私たちが座禅を組む時というのは、これと反対のことをします。考えることをやめるのではなく、どんどん考える対象から距離を取って、俯瞰するのです。

― お仕事柄、人から悩みの相談を受けることは多いと思いますが、最近多い悩みはどのようなものですか?

長谷川 : やはり、鬱や自殺、経済的不安、親子関係などの相談が多いです。たとえば、自分の息子の仕事がうまくいかないとか、彼女にふられて自殺しようか迷っているとか…。

― 自殺を考えるほど思い詰めている方に対して、どんなアドバイスをされているのでしょうか。

長谷川 : さっきもお話したように、悩んでいる人というのは、その悩みが目の前一杯に広がってしまいます。だから、これを離してあげること、距離を取ってあげることが大事なんです。そうしてあげると、思っていたほど大きな悩みではなかったりします。
彼女にふられたことにしたって、男なら誰でも一度くらいはそんな経験は持っているでしょう。自殺するほどの問題か、ということです。彼女よりいい人に出会える可能性だってたくさんあるわけですから。そう考えたらふられたことだって「ラッキー」と思えるはずです。

― 先ほど「もっとお寺やお坊さんを使ってほしい」とおっしゃっていましたが、私たち一般人はどのようにお寺と付き合っていけばいいのでしょうか?

長谷川 : 日本には7万5千~8万山ほどお寺があるんですけど、基本的にお坊さんというのはいい人が多いですから、訪ねてくる人がいたら断る人はあまりいないと思います。だから、メディアに出ていたり、本を書いているようなお坊さんでもそうでないお坊さんでもいいので、おもしろそうな人がいたらどんどん訪ねていって、話してみるといいと思います。
ただ、お坊さんみんなが私のような考え方ではないですし、セキュリティ上の理由で門を閉めているお寺もあるので、注意が必要ですが。

― 突然訪ねても話し相手になってくれるんですか?

長谷川 : そういうお坊さんが多いと思います。基本的に時間はあるはずですからね、毎日法事があるわけではないですし。というか、お寺は気軽に立ち寄って世間話や人生相談ができる「地域のたまり場」です。いつ人が訪ねてきてもウェルカムというのが本来のお坊さんのあるべき姿なんですよ。

― 本書では、一般の人があまり知ることのない仏教のしきたりや決まり事も紹介しています。たとえば「お彼岸」や「お盆」など昔からの習慣が徐々になくなってきている、というような実感はありますか?

長谷川 : それはあります。ただ、昔に比べると、最近の若い人は日本文化だとか伝統の「意味」を知りたがっているというのも感じます。それをきちんと説明して、納得してもらえれば、まだまだ日本仏教も捨てたものではないと思いますよ。

― 昔は、お盆になるとナスやキュウリで作った動物をあちこちで見かけましたが、近頃はあまり見なくなりました。

長谷川 : それは土地の和尚さんがちゃんと教えないからです。お盆はご先祖様が子孫に早く会いたいから馬に乗ってやってきて、帰っていく時は後ろ髪を引かれる思いだからゆっくりと牛に乗って帰っていくというようなことを、昔からお坊さんが教えていたんです。
大事なことは、そうやってキュウリで馬を作ったり、ナスで牛を作ったりして、家族みんなでご先祖様に思いを馳せることなんですよ。でも、今はお盆というと海外旅行週間のようになってしまっています。それが悪いことというわけではないのですが、こうなってしまっているのは私も含めてお坊さんの布教が足りないのだと思います。

― とはいえ、日本は国民の98%が仏教式の葬儀をしているとも書かれていましたし、文化的には仏教の影響は強いのではないですか?

長谷川 : 今はそうですけど、これがずっと続くとは思いません。今の仏教的な風習ですとか制度というのは、私たちが努力をしないといずれ消えていきます。

― 戒名なども、最近は存在意義が問われることが多いですよね。

長谷川 : 要らないと言われることが多いですよね、俗名でいいじゃないかと。でも戒名にしても何にしても、仏教の制度や風習には意味があるんですよ。それをお寺やお坊さんの側が一般方々に説明して、納得してもらって、大事なものなんだと思ってもらえるような努力をしないと、いつか本当に「必要がないもの」になってしまいます。
お寺そのものにしてもそうです。こういうお寺が近所にあってよかったな、と思ってもらえるお寺作りをしないと、やがては消えていってしまうはずです。

― なるほど。同じような志を持っているお坊さんはいらっしゃいますか?

長谷川 : たくさんいます。小池龍之介さんとか、大阪の應典院さん、恐山の南さんもそうです。若いお坊さんは現状に危機感を持って様々な取り組みをされていますね。

― お坊さんとお話するのは滅多にない機会なので、気になっていたことをお聞きしたいのですが、初詣などでお寺の本堂の中に入ってお参りする時に、仏様の前に高そうな日本酒の瓶がたくさん並んでいるのが見えます。あれは最終的にお寺の住職さんが飲むんですか?

長谷川 : たとえば新潟などで多いのが、檀家さんに酒造所をやっている人がいるケースですね。そういう人は作ったお酒の一番においしいところをお寺に持っていって仏様にお供えするわけです。そして二番目においしいところを自分で飲んで、三番目以降を商品にして売るという。
そういうこともあって、昔からお寺にはお酒だけでなく色々なものが集まってくるんですよ。もちろん和尚が飲んでもいいんですけど、私はお盆やお彼岸で檀家さんが集まった時に振る舞っています。その方が楽しいですし、第一自分で全部飲んだら病気になりますよ(笑)。

― 本書をどんな人に読んでほしいとお考えですか?

長谷川 : すべての年代に読んでいただきたいです。特に、目の前の悩みにぶつかって身動きの取れない方々。明日命がなくなるかもしれないと考えれば、大抵のことは深刻に悩むことではないはずです。

― 最後になりますが、悩みや苦しさを抱えて生きている方々にメッセージをお願いいたします。

長谷川 : 「日々是好日」。毎日、「いのち」のあることに感謝し、家族に感謝し、自分の「ご縁」に感謝しましょう。そして、なるべく多くの「ありがとう」をもらう日常を送るように努力しましょう。「しあわせ」は、いつも「自分」が決めるのですから。
また、ぜひうちのお寺に来ていただきたいですね。もちろん、電話でもメールでも構いません。人それぞれ違った苦しみや悩みを持っています。中には本当に重い悩みを持っている人もいますし、苦しい病気を治せるわけではありませんが、少しでもお役に立てれば、喜びです。

お坊さんが教える「悟り」入門

定価: 1,300円+税
著者: 長谷川俊道
出版社: ディスカヴァー・
トゥエンティワン
ISBN-10: 4799314688
ISBN-13: 978-4799314685

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