新刊JPトップ > 特集 > 『PHPサイエンス・ワールド新書』
立ち読みをみる
書籍情報

書籍名:あなたにもわかる相対性理論
著者名:茂木 健一郎
出版社:PHP研究所
価格:840円
ISBN-10:4569772048
ISBN-13:978-4569772042

書籍を購入する

 私たちも身につけられる彼の生き方を「アインシュタイン力(りよく)」と名づけたい。アインシュタイン力を一〇にまとめ、そこから相対性理論が生まれた道筋をたどろう。

 最初の革命家ガリレオとニュートン
物理学において最初の革命を起こしたのは、一六~一七世紀イタリアのガリレオ・ガリレイと、一七~一八世紀イギリスのアイザック・ニュートンである。
ガリレオは、天動説が支配していた中世ヨーロッパの人だ。ポーランドの天文学者、聖職者コペルニクスが提唱した地動説を擁護(よう ご)し、宗教裁判で異端とされたが、「それでも地球は動いている」という言葉を残したことで有名である。
だが実は、ガリレオの発見で一番重要なのは、「ガリレオの相対性原理」だ。ガリレオは、運動の相対性という問題を最初に取り上げ、「互いに等速度運動をしている慣性系では、力学の法則は同じである」という「相対性原理」を発見したのである。

ガリレオは、天動説派が地動説を「地球が動いているとは感じられない」と批判したのに対し、こう反論した。

 「一定の速さで、一定の方向に、静かに進んでいる船に乗っていれば、動いているのを感じない。地動説は、それと同じである」と。
たとえば動く船のマストに上って物体を落とすと、物体は真下に落下する。それは静止している地上の塔から物体を落とした場合と同様だ。このことから、船が動いている時と動いていない時で、物体の落下には何ら変わりがないことがわかる。
つまり、動く船に乗っている人は、船の動きを感じることができない。地球を動く船と考えれば、動いている地球の上にいる人間が「地球が動いているとは感じられない」と言うのは当然だとした。動きを感じるのは、船が急な発進や停止、急な加速や進路変更などをした時に限られる。
この考え方が、運動の相対性、そして慣性系の概念へと結びついた。

 運動の相対性は、電車Aと電車Bが並行して走っている場合を考えるとわかりやすい。たとえば電車Aと電車Bが同じ速さで走っていると、乗っている人同士は、あたかも止まっているかのように感じる。しかし、止まっている人から見れば、AもBも動いているのだ。
あるいは電車Aが時速三〇〇キロで走り、電車Bが時速一〇〇キロで走っている時、電車Aに乗っている人から見ると、電車Bは逆方向に時速二〇〇キロで走っていることになる。もちろん、止まっている人から見れば、BはAに抜かれつつも同じ方向に動いている。

このように、動いている、動いていないというのはまったく相対的なことである。
また、動いている電車の中では、その電車が、同じ速度で直線上を動く「等速直線運動」をしている限りは、物体を落としたり投げたりしても、静止している地上で物体を落としたり投げたりする時と同じ「慣性の法則」が成り立つ。慣性の法則とは「物体にまったく力が加わらなければ、物体は等速直線運動を続け、静止した物体は静止したままである」ということだ。

ただし、電車が急な発進や停止、急な加速や進路変更(カーブを曲がるなど)をした時には、慣性の法則は成り立たなくなる。慣性の法則が成り立つ条件を満たすところを「慣性系」といい、慣性の法則が成り立たないところを「非慣性系」という。
こうして先述の「互いに等速度運動をしている慣性系では、力学の法則は同じである」という「ガリレオの相対性原理」が発見されたのである。

 ただし、ガリレオ・ガリレイの発見した相対性原理は、あくまでも力学の範囲であった。それに対し、アインシュタインの構築した相対性理論は、力学の範囲を越えて、光を含む電磁気を意識し、物理の理論全般に拡張されている。

ガリレオの「互いに等速度運動をしている慣性系では、力学の法則は同じである」と、アインシュタインの「互いに等速度運動をしている慣性系では、物理の法則は同じである」は革命的に違うのだ。
 古典物理学の光と影

ニュートンは、ガリレオが死んだ年に生まれた。彼は、ガリレオが地球上で起きる力学の法則について相対性原理を発見したのに対し、天体の運動も共通の法則に従うことを見いだして、物理学に大きな革命をもたらした。
それはまぎれもない事実であり、巨大な功績である。

 ニュートンは、運動の法則を三つにまとめた。
第一は、「慣性の法則」である。
すべての物体は、それに力が加えられない限り、いつまでも静止の状態を続けるか、または一直線上を一定速度で運動を続ける(等速直線運動)。
日常生活では、動いているものは自然と止まる。だが、それは摩擦や抵抗という力が加えられるからだ。摩擦や抵抗のない宇宙空間では、たとえばエンジンを止めた宇宙船の映像を見ればわかるように、動き出した物体は止まらない。

第二は「力の法則」である。
物体が外から力を加えられると、その力の働く方向に加速度が生じる。物体の加速度は、外から物体に加えられる力に比例し、その質量に反比例する。つまり、強い力を加えるほど物体の加速度は大きくなり、質量の大きいものほど加速しにくくなる。

第三は「作用反作用の法則」である。
すべての作用に対して、それと向きが逆で、大きさの等しい反作用が存在する。
ニュートンは、これらの運動の三法則に「万有引力の法則」を加えることで、当時知られていた地球上の力学的な現象から天体の運動まで含めてすべてを説明することに成功した。

こうしてニュートンの理論は、物理学、天文学、工学といったさまざまな学問の基礎となった。そして、アインシュタインの相対性理論が誕生するまでの二四〇年近くにわたって、科学の基礎理論として、多くの科学者によって受け継がれていく。

 しかし、物理学に革命をもたらしたニュートンの偉大さは、やがて停滞をもたらすことにもなった。
「物理学においては、個別的なことがらでの数々の成果にもかかわらず、原理的なことがらではドグマ的な硬直が支配していた」
これは、アインシュタインの言葉である。

ニュートンがもたらした革命から二四〇年の間に、ニュートンの力学の法則では説明困難な現象が次々と発見されていた。にもかかわらず、誰もそれに代わる理論を構築できずにいた。
そうした硬直状況を打破したのがアインシュタインの相対性理論だったのだ。ガリレオとニュートンによって築かれた物理学からの大転換を成し遂げたから、アインシュタインは革命家と呼ばれるのである。