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書籍情報

書籍名:寿命はどこまで延ばせるか?
著者名:池田 清彦
出版社:PHP研究所
価格:840円
ISBN-10:4569772072
ISBN-13:978-4569772073

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日本国内における100歳以上の高齢者が4万399人と初めて4万人の大台を突破した。これは医療、科学の発達によるところが大きい。 そんな「寿命」や「老化」について、生物学者の視点から考えるのが本書だ。
そもそも寿命とは何か? 例えばバクテリアやアメーバは原則的には死なない。単細胞生物から多細胞生物への進化が「寿命」―つまり、死すべき運命を与えたのだ。

本書のタイトルにもある『寿命はどこまで延ばせるのか?』という問題と日本人の死因1位でもあるがんという病気は大きく関係する。ヒトの最大寿命は120歳と言われるが、実際は多くの人が可能な寿命のはるか手前で死んでしまう。
その理由は「老化」だ。例えば、がんは老化に伴い、加速的に増加する。この老化を防ぐことが出来たら多くの人が120歳まで生きることも可能かもしれない。

本書ではゾウリムシやバクテリアなどを例に挙げ生物の起源、細胞について考え、がん細胞や、老化を遅らせる方法、遺伝子、クローン技術などからヒトの寿命や老化の仕組みを解説する。
08年の日本人の女性の平均寿命は、世界1位の86.05歳。がん、心疾患、脳血管疾患の3大疾患による死亡がなくなったら93.05歳まで伸びるという。本書の内容が実現したら平均寿命100歳も夢ではない。
(新刊JP編集部/田中規裕)

【はじめに】
 不老不死を願った人々
 不老不死は太古の昔から人々の永遠の望みであった。現世の栄華を極めた絶対権力者も大富豪も、老いと死から免れる術はない。四苦、すなわち生・老・病・死は万人に等しく訪れ、これを究極的に回避する方法は、今のところは見当たらない....

池田清彦 (いけだ・きよひこ)

1947年東京生まれ。東京教育大学理学部生物学科卒業。東京都立大学大学院生物学専攻博士課程修了。山梨大学教育人間科学部教授を経て、現在、早稲田大学国際教養学部教授。専門は理論生物学、構造主義生物学。多元的な価値観に基づく構造主義生物学を提唱して注目を集める。無類の昆虫採集マニアでもある。主な著書に『構造主義生物学とは何か』(海鳴社)、『新しい生物学の教科書』(新潮文庫)、『さよならダーウィニズム』(講談社選書メチエ)、『初歩から学ぶ生物学』(角川選書)、『環境問題のウソ』(ちくまプリマー新書)など多数。共著書に『虫捕る子だけが生き残る』(小学館101新書)、『正義で地球は救えない』(新潮社)など。
目次

はじめに
不老不死を願った人々
バクテリアの細胞系列は不死身
がん細胞の不死性
ヒトの寿命を延ばす夢

第1章
寿命の起源
生命のはじまりはどこにあるのか

生命の起源についての諸説
生物の二大特徴─代謝と遺伝
タンパク質とDNAはどちらが先か?
生命の起源についての有力な仮説
熱水噴出孔の周りでタンパク質が合成
されたという説

代謝システムと遺伝
DNA→タンパク質→代謝という順番
について
最初に発生した生物とは
原核生物と真核生物
代謝システムと動的平衡

生物はいかに進化していったのか
古細菌と真正細菌
細菌はどのように進化するのか
シアノバクテリアという細菌の出現
ダーウィニズムの呪縛を超えた共生説

寿命はなぜあるのか
原核細胞から真核細胞への進化
システムが複雑になると新システムの
開発は困難になる
不死性と寿命の背反する性質をもつよう
になった真核生物

第2章
生物にとって寿命とは何か
寿命をもつことの損得

ゾウリムシに寿命はあるのか
ゾウリムシの接合
なぜバクテリアには寿命がないのか
ボルボックス─nの細胞と2nの細胞

減数分裂とは何か
ヒトの染色体とは
「ジャガイモ飢饉」の原因
減数分裂の役割はDNAの修復
アメーバにもDNA修復装置があるはず
寿命は遺伝的に決まっているのか?
「生物は遺伝子の乗り物」などではない!

無性生殖と有性生殖と寿命の関係
動物と植物の細胞の違い
無性生殖する動植物の例
バナナはクローンで殖える
iPS細胞を作ることを禁欲した高等動物
屋久杉はなぜ長寿なのか
植物が有性生殖する理由
単為生殖で生きる生物
高等動物の分裂可能な細胞と非分裂性の細胞
皮膚の老化はなぜ早いのか

アポトーシス(細胞のプログラム死)とは何か
高等動物に組み込まれている自殺装置
五本の指も脳の機能もアポトーシスのおかげ
だった
がん予防としてのアポトーシス

第3章
ヒトの寿命は何で決まるのか

分裂細胞の寿命は決まっている
ヒトの細胞は分裂回数五〇回が限界
─ヘイフリック限界
なぜ細胞分裂のたびに染色体の末端が
切れるのか
不死の細胞─がん細胞と生殖細胞系列の細胞
遺伝しない遺伝病
テロメアが寿命を決めるのか?
進化のプロセスは多種多様
寿命と引き換えにヒトの可能性が開けた

長寿を妨げる要因─病気になりやすい遺伝子
ヒトの寿命は百二十歳が限界?
─長寿を妨げる要因
がんとは遺伝子の突然変異による分裂制御機構の崩壊
がんを抑制する遺伝子、がんになりやすい遺伝子

老化をもたらす要因とは
不老不死の技術はどこまで可能か
活性酸素による細胞の機能低下
フリーラジカルがもたらす老化
悪玉コレステロールLDLの正体
アルツハイマー病はベータアミロイドが原因
だった
アミロイド線維と糖化による老化
免疫系の劣化─悪質なT細胞の増加
T細胞のアネルギー(無能力)
正常に生き続けていることこそ老化の原因

第4章
ヒトの寿命は延ばせるか

がんを予防する生物学的発想
最大寿命にいかに近づくか
遺伝子検査をすれば予防は可能か
がん細胞はなぜ増殖するのか?
がんの転移を防ぐ方法
がん遺伝子の働きを止めることはできるか?

老化を遅らせる方法
活性酸素を制御する
カロリー制限
細胞内のリソソームにたまるゴミを処理する
リソソーム病を治す方法
脳に酵素を届けることは難しい
細胞内のゴミをすべて除去するのは難しい
細胞外のゴミを除去する方法
AGE(糖化最終産物)を分解する物質を開発する

人体システムの改造計画
がんをなくす方法─テロメラーゼを除去する
核DNAにミトコンドリアDNAの情報を転写する
超長寿人間は作れない?

第5章
長寿社会は善なのか

平均寿命があと二十年延びたら?
不老社会の平均寿命とは
個人の遺伝情報をどう扱うか
わからないほうが幸せ?
老化防止のコストは誰が負担するのか?
定年八十歳社会をシミュレーションする
社会の流動性を高める工夫が必要
先進国と途上国の寿命格差

不老不死の未来社会を空想する
無限に近い時間をどう生きるか
人口抑制政策が課題に
避妊薬を全世界に散布