だれかに話したくなる本の話

40代で渡米しジャズを一から学び直す。大江千里、人生の第二章の現在地

「あいたい」「格好悪いふられ方」など、80年代から90年代にかけて活躍したミュージシャンの大江千里さん。
2008年に日本国内の音楽活動に一区切りつけ、ニューヨークでジャズを勉強するために、愛犬のぴーすとともに渡米。現在はニューヨーク・ブルックリンを拠点に、米国を中心に世界各国でジャズピアニストとして精力的に活動を行う傍ら、個人レーベルを立ち上げて、ジャズアーティストの発掘にも乗り出している。

40代後半で国内音楽活動の休業を宣言し、愛犬とともに渡米。
一からジャズを学び直す――。

この大江さんの決断力の凄まじさ、そしてその後アメリカで活動を続けているバイタリティの高さには目を見張るものがある。

このほど出版された『ブルックリンでジャズを耕す 52歳から始めるひとりビジネス』(KADOKAWA刊)は、音楽に奮闘する大江さんの姿がつづられたエッセイであり、そして「個人レーベル」を経営し、ビジネスを展開するための考えがつづられたビジネス書でもある。

本書は3年前に出版された『9番目の音を探して 47歳からのニューヨークジャズ留学』(KADOKAWA刊)の続編にあたる一冊だ。ニュースクール大学でジャズを学び直し、そして音楽を学び直した大江さんが向かった次なるステージは「ひとりビジネス」だった。

■新しい人生を自分で切り開いていく

大江さんの目から見えるニューヨークの姿は、観光客として見たことのあるニューヨークの姿とはまた違ったものだ。

本書にはさまざまな国の人が登場し、そして、大江さん自身もいろいろな場所へ行く。そんな彼にとって、ブルックリンは「家」である。人々の生活の息遣いが聞こえるこの場所で、せっせと「ジャズ」を耕す。時に周囲の人々に迷惑を掛け、助けられながら、この場所から大江さんの音楽が世界へと旅立っていく。

ハラハラするシーンも目白押しだ。
例えばグリーンカード取得のエピソードでは、移民局のやりとりの中で「本当に永住権が取れるのか?」という緊張感が伝わる。 また、ニューヨークの芸術センターでのステージ、初日は大成功するも、二日目の本番中に映像が止まるというトラブルが発生。悔しい想いとともに、それでも一歩一歩前に進む姿は勇気づけられる。

年を取れば取るほど、自分の地位が固まれば固まるほど、新しい道へ踏み出すことに恐怖を抱きやすくなるものだ。その一方で、新しい体験に対する恋しさも強くなる。新しい道を突き進んでいる人を見ると、嫉妬すら感じてしまう人もいるだろう。

なぜ自分は新しい道に進めないのだろう。お金がなくなるのが怖いから? それとも今の生活でなくなることに恐怖を感じるから?
いざ、踏み出したら何が起こるか分からない。ただ、必ず何かをもたらしていける。本書の大江さんの言葉を借りよう。

生きているとお金はかかる。何にかかって何にかからないかを一旦冷静に把握してみる。自分に合ったやり方でいい。極端な性格の僕は貧乏を演じることで集中力が増す。ストイックな映画の中の役を演じ切る。もしかしたらお金は無くなりながらもどこかで種子を運んでいないか? (p275より)

40代後半という難しい年代に、自分自身の決断で大きく道を変えた大江さんは、「ひとりでビジネス」の観点から人生を見直し、ブルックリンという土地で、自分の道を歩んでいる。

「ニコニコチャンネル」と「note」で連載されていたエッセイをまとめた本書。個人でビジネスを始めたい人にとってのヒントとなる言葉も満載だ。

年度変わりの時期に差し掛かる今、自分の人生を考え直したい、少し新しいことに挑戦したいという人にとっては胸に突き刺さるはずだ。

(新刊JP編集部/金井元貴)

ブルックリンでジャズを耕す 52歳から始めるひとりビジネス

ブルックリンでジャズを耕す 52歳から始めるひとりビジネス

大江千里、たったひとりでNYで起業!その苦闘の日々を軽やかに綴る。

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金井元貴

1984年生。「新刊JP」の編集長です。カープが勝つと喜びます。
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audiobook:「鼠わらし物語」(共作)

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