表紙
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「僕には、川端康成の「眠れる美女」の一場面が浮んでいた。裸の美少女が真紅のビロードに包まれ静かに眠っていて、死期を意識した老人たちが静寂の中に、それをじっと凝視している、あれである。変と言えば、まったく変であった。・・・続きを読む

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書評

鶴は連れ合いが死ぬと一生孤高を保ち、鳩はつがいの間は決して離れない――。
フジテレビで22年間にわたり放送されたドラマ『北の国から』で演出を手がけてきた杉田成道さん。その杉田さんの『願わくは、鳩のごとくに』(扶桑社/刊)は、「離れることなく、いつも一緒に協力し合える鳩のような夫婦でありたい」という想いがタイトルに込められた“私小説”だ。

50代後半にして30歳年下の女医の卵と再婚。57歳で第一子、60歳で第二子、63歳で第三子と、結婚後、3人の子宝に恵まれる。
傍目には羨ましく見えるかもしれないが、30歳年下の女性との再婚で「犯罪者」呼ばわりされ、幼子と電車に乗れば「おじいちゃんと一緒でいいわね」と誤解される。
本書では、杉田さんが手掛けた数々のドラマの秘話、俳優たちとのこぼれ話とともに、60過ぎて初めての子育てに四苦八苦するさまが、その波乱万丈の人生が赤裸々なまでに綴られている。

本書のなかには、数々の“家族”が登場する。
再婚した家族、「北の国から」で描かれた五郎さんの家族、「北の国から」の俳優たちの家族、杉田さんの両親と兄弟、50才のとき癌で亡くなった前妻と息子、複雑な背景をもつ前妻とその養母(杉田さんにとっては義母)…。
例えば、『北の国から2002遺言』の撮影直前に俳優・地井武男さんは癌で妻を亡くされる。その上で撮影に臨み、地井さんは劇中でもツライ現実を再現するが如く、妻が癌により余命宣告を受けたことを五郎(役・田中邦衛さん)に伝える。そのシーンの迫真の演技は有名だが、本書で明かされる杉田さんと地井さんのやりとりは、杉田さんが出演者を通して彼らの“家族”とも真摯に対峙していたことがよく分かるエピソードだ。
そして、本書で描かれる杉田さんの“家族”は、ドラマに出てくるような、純粋で賑わいのある、私たち日本人が求めている原風景ではないかと思わされる。そこに至るには、悲しくも強い家族の物語があるのだが…。
先祖から代々受け継がれてきたものを子どもに受け継がせようとする親の想い。そして子どもの想い。こんなに素晴らしい家族がテレビ画面の外にも存在していることに感動させられる。

家族のあり方が問われる現代だが、どんな人にも“家族”がいて、人は必ず親から子へ、引き継がれ繋がって生きている。
今日も家族は繋がっていく――様々な家族のカタチを紡いだ本書は、老若男女全ての人に響く一冊だ。
(新刊JP編集部/金井元貴)

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