だれかに話したくなる本の話

チェーン店デザイン日本一の設計士が明かす、「リピートするお店」と「二度と行かないお店」の違いとは

コロナ禍で厳しい状況が続く飲食業界。その中でも、繁盛する店がある。

この苦境の中でも繁盛の兆しを見せる店は一体何が違うのか。
これまで20年以上にわたり、名だたる外食チェーン店の設計デザインを手掛けてきた大西良典氏。?野家、すき家、なか卯、ココス、とりどーる、すた丼、かつや、フレッシュネスバーガーなど、誰もが入ったことがある外食チェーンの設計をしてきた。

そんな大西氏による『コロナ危機を生き残る飲食店の秘密』(扶桑社刊)は、飲食店の集客のヒントが詰まった、まさにマーケティングの教科書的な一冊だ。
本書を上梓したばかりの大西氏にお話をうかがい、その頭の中にある様々な視点を教えてもらった。

(新刊JP編集部)

■「飲食業界や関連業界に対して自分が何か貢献できないかという気持ちで」

――『コロナ危機を生き残る飲食店の秘密』についてお話をうかがえればと思います。事例はチェーン店オンリーですが、広い業界で使える、すごく濃密なマーケティングの本でした。読者ターゲットはどこに置いていたのですか?

大西:おっしゃる通り、この本にはチェーン店の事例しか書いていないのですが、読者のターゲットはチェーン店経営者ではありません。

この本の帯裏に書かせていただいたメッセージが全てで、自分がこれまでビジネスをしてこられたのは、飲食店のおかげです。でも、コロナ禍で飲食業界をはじめ、飲食に関わるメーカーさん、食材屋さん、商社さん、そういった業界含めて全体の数字がかなりしんどい状態にあります。そういう状態にある飲食業界や関連業界に対して自分が何か貢献できないかという気持ちで書いたのがこの本なんですね。

だから、ターゲットをチェーン店経営者にするつもりは全くなく、飲食業界に限らずさまざまな業態でビジネスをされている方々に読んでほしい。それで、例えばメーカーさんが顧客の飲食店に行ったときに「調子どうですか?」「しんどいに決まっているじゃないですか」という会話をするのではなく、「こんな面白い本見つけたんですよ」と営業ツールみたいな感じで使ってもらえれば嬉しいですね。

――また、飲食関連の仕事をしている人ではなくても、「牛丼屋の看板がオレンジ色なのはそういう理由だったのか」「こういう風にテイクアウト商品をアピールされていたのか」といった学びがあるビジネス書でした。

大西:そう言っていただけると嬉しいですね。いろんなお店で使ったアイデアを書き込んでいますが、飲食業界以外のビジネスマンでも使えることが多いと思います。市場を開拓するときに気を付けること、市場に合わせた目線の作り方も書いています。

――大西さんご自身は、マーケティングの素養はどのように培っていったのですか?

大西:実は僕、30歳で日本を2周するくらい飛び回っていますし、世界も一周はしていますね(笑)。日本だけでなく、世界各地に出店されるチェーン店の設計を担当しているので、そのために現地に飛ぶんです。

チェーン店が出店される場所って、その国の一番大きな都市の一番人気の場所が多くて、例えばニューヨークのど真ん中とか、香港で最も家賃の高い地域だったりするんですけど、そういう場所にいると、その国の流行の最先端が見えるんです。だから情報や人の動向に対する感度が高くいられるのだと思いますね。

――現地に行って、仕事をしながら最先端の情報を仕入れていらっしゃる。

大西:そうです。そうしたら、このアイデアは日本でも受け入れられるだろうということも分かってくる。叩き上げではあるんですが、世界をまわることによってそういった感性が磨かれてきたことが大きいですね。

国や地域によって宗教も食べ物も違うし、好まれる色味も異なりますが、実は日本国内でもそれは同じです。都市部と田舎部では全然違うじゃないですか。そういうことを通して見るべき視点がどんどん広がっていったのかなと。だから、流行の掴み方、アイデアを取り入れる方法なんかも、この本を読んでもらえれば学べると思います。

■「ダサカッコイイ」がキーワード。店の中のちょっとした部分がリピーターを逃す

――大西さんのデザインポリシーは「郷に入れば郷に従え」とありました。今、おっしゃっていましたけど、やはり地域によって全く違うものなんですか。

大西:そうですね。例えば色味でいうとタイでは黄色が好まれます。以前、黒を基調としたかっこいい店舗を作ったのですが、「それはタイ人には好まれないからやめてほしい」と言われたんです(笑)。国によってルールは異なるわけですね。

特に海外では、現地の文化を受け入れて、その市場を理解した上で店舗をデザインしていくことが必須です。アイデアも感性だけで取り入れるのではなく、ある程度マーケティングできている状態の中で、合いそうであれば取り入れる。

「デザインID」と僕は呼んでいるのですが、野村克也監督が提唱した「ID野球」みたいに、「デザインにも数字的根拠を」と言っているんですね。

デザインはただ考えるのではなく、例えばその地域の人口から、住む人たちの平均年収、カップルの数といったデータをはじめ、売上やコストも数字ですし、そういった要素をデザインの根拠にして設計していく。そういうことが大事だと考えているんです。

――なるほど。具体的にどのように数字を使うのでしょうか?

大西:例えば物件を見たときに、その物件の前を歩いている人が女性8割、男性2割だったら、?野家をそこに出店してもあまりお客さんは来ませんよね。それは、所得が低い人たちが多く住んでいる地域で高級レストランを出店してもお客さんが来ないのと同じで。

そうなると、「この部分はこだわらなくてもいい」というところが出てくるわけです。この本のサブタイトルに「ダサカッコイイ」の法則という言葉を入れていますが、それはダサいことが良いということを言っているのではありません。

例えば回転率の高い店舗が見込めるなら、スタッフの作業効率や商品提供の効率を考えた厨房の配置を優先して、冷蔵庫がお客さんから見えても良いデザインにするとか。冷蔵庫が見えちゃうのは見た目的にはダサいかもしれないけれど、優先すべきことがあるわけです。そういう意味で「ダサカッコイイ」という言葉を使っているんですね。

――その「ダサい部分」は、経営に対して大きなデメリットにならないわけですね。

大西:そうです。ある部分を重視することで別の部分がダサくなっても、そこは妥協しないといけない。デザイン的に完璧に作り上げても、結局従業員がしんどくなったり、お客さんが気を使ってストレスになるのであれば、それは非効率ですし、お客さんも遠ざかります。

チェーン店ですし、ダサい部分がある方が、敷居が広くてリラックスしやすい。そういう意味でも「ダサさ」というのは必要です。

――ちょっとお話を戻しまして、「郷に入れば郷に従え」のお話で日本でも地域によってチェーン店のデザインを変えたりするのですか?

大西:もちろんです。例えば高齢者しか住んでいない場所で、大きいステーキを出すお店を出しても絶対に食べに来ないですよね。だから、そこにいる人たちに合う形でデザインすることが大事で。そうなると、関東と関西でカップうどんの「どん兵衛」の味が違うという話は有名だと思いますが、味のベースも醤油ベースか出汁ベースで変えてみたほうがいいとか、そういう提案もできます。

――なるほど。店舗の入りやすさから、メニューの好みまで、同じチェーンでもすべて同じではない。

大西:そうですね。あとは、福島県のある店舗で券売機を導入したのですが、やはり高齢者の方々はすごく使いにくそうにしていたんですよ。居酒屋とかでもタブレットに戸惑う高齢者の方っていますよね。

券売機やタブレットは、駅前のサラリーマンや若者が集まるお店だったら良いと思うんです。注文も効率的になるし。でも、市場調査で高齢者が多い地域だと分かっていたら、そういうデザインにはせずに、ニーズに合わせていくほうが素敵だと思うんです。

――1回、使いにくいなと思われたらもう来店されなくなりそうです。

大西:そうなんです。ところが、お客さんが小さいストレスを感じるタイミングって意外とあって。例えば、「すみません」って声をかけて気付いてもらえなかったり、商品提供がちょっと遅かったり、そういうところでストレスがかかってしまうんです。

そのストレスをゼロにするという考え方を最初から持てれば、作業効率が早くなる厨房設計にできたりするわけですよね。そういう視点はデザインの段階から入れていいのではないかと思っています。

これは海外の事例なんですが、中国の重慶と大連に全く同じ作りの店舗を出店しても、片方は上手くいかないはずです。それはなぜか。中国人って地域によって平均身長が違っていて、大連はロシア系の血が入っているので、女性でも170cmを超える人が多いんですよ。一方、重慶はどちらかというと小さい女性が多い。

だから、レジの高さを5cm変えていたりするんです。標準化しているようでしていない。日本ではそういうことはないんですが、海外では同じ国の中でそういう違いがあったりしていて、その違いを店舗作りに反映していくことが大事だと思っています。

――みんな同じように見えるチェーン店でも、設計やデザインは違っているものなんですね。

大西:そうですね。レジの高さの5cmでも結構なストレスになりますからね。低いと身体の大きな人は腰を痛めてしまうかもしれないし。そういった部分が、実は隠されている「ダサカッコイイ」デザインの1つの事例です。

他にも北海道で「なか卯」や「すた丼」をたくさん設計してきましたが、寒くて雪が積もる地域なので、冷たい風が入ってこないように入り口に風除室を設置したり、ドライブスルーのために雪が溶けるような地面にしたり、あとは屋根の雪を除雪する機材を入れたりしました。そういう対応が実はお客さんを引き寄せるのだと思います。

(後編に続く)

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