だれかに話したくなる本の話

成功するIT化による業務改善。その道筋を作るためにすべきこととは

昨今、政府が「DX」(デジタルトランスフォーメンション)を推進するなど、世の中は「IT化」「デジタル化」の流れが加速している。

企業にとってIT化は非常に重要だ。変化の速い現代において、成長のスピードを上げるために業務改善による効率アップは必要不可欠であり、残業削減や利益の拡大にもつながっていく。しかし、「IT化」といってもどうすればいいのか分からない、予算面で難しい部分がある、そういった不安な声も一方で上がる。

今回はそんな中小企業の不安に対して丁寧に応えてくれる本『御社にそのシステムは不要です。』(あさ出版刊)について、著者であり株式会社ジョイゾー代表取締役社長の四宮靖隆氏にインタビューを行った。その前編では、IT化を進めるために必要なことについて聞いている。

(新刊JP編集部)

■どうする会社のIT化。なぜ不要なシステムができてしまうのか?

――四宮様のご経歴としては、ずっとSI業界にいらっしゃるのですか?

四宮:そうですね。最初はSIerの会社で情報システム部門に配属されまして、社内のシステム運用管理を4年弱やっていました。その後、お客さんを相手としたSIの仕事をしたいというところで、独立系SIerの会社に転職をしました。そこで業務システムの開発作業に携わり、グループウェアを開発するサイボウズとも知り合いまして、その後今に至るまでサイボウズさんとお付き合いさせていただいています。

――サイボウズとは長くパートナーとしてお付き合いされているんですよね。

四宮:そうですね。独立系SIerの会社にいたときから、「サイボウズGaroon」という大規模グループウェアの構築作業をやっていました。

その後、2010年12月に独立をしてジョイゾーという会社を立ち上げるのですが、ちょうどクラウドがこれから定着していくという頃で、クラウドビジネスをメインビジネスにしていこうという思いはあったのですが、具体的な構想まではありませんでした。(笑)そうしたら、起業から1年後にサイボウズが「kintone」という業務改善プラットフォームのクラウドサービスを始めてたのですが、実際に触ってみて「kintone」の可能性を感じ、ジョイゾーのビジネスを「kintone」のシステム開発の事業に完全シフトすることにしたんです。

ジョイゾーは今年で創業10周年になるのですが、現在も「kintone」を使ってお客様の業務システムを開発するSlerという形で活動させていただいています。

――本書を執筆された経緯について教えてください。

四宮:この本の企画が持ち上がったのは去年の夏頃です。「kintone」のビジネスが軌道に乗ってきて、相談件数もかなり増えてきていたので、ここまで培ってきたノウハウを言語化して、体系的にまとめて世に出せないかと考えていたんですね。

また、このコロナ禍の影響もあります。ちょうど今、政府の方でDX化が推進されたり、デジタル庁が今年9月に設置されたりという流れの中で、このタイミングで企業のIT化の後押しができる本を出せないかということで、執筆を始めました。

――IT化による業務改善は企業の成長スピードの加速にもつながります。そのため、多くの企業にとって急務であると感じますが、IT化が進まない会社の課題はどこにあるとお考えですか?

四宮:中小企業さんにお話をうかがってみると、IT化しないといけないのは分かっているけれど、特に現場が困っていないから手をつけていない、つまり優先度が低いという反応が多いですね。あとは、ヒト、モノ、カネのリソースが不足していると考えている企業もあります。業務改善をやっている余裕がないというか。

また、以前IT化を進めて業務改善を試みたけれど、間違ったシステムを入れてしまい、その後使われなくなったということから苦手意識を持ってしまってなかなか先に踏み出せないという会社さんもあります。

――まさに本書のタイトル通り、「御社にそのシステムは不要です」という状態ですね。でもなぜそういう事態が起きてしまうのでしょうか。

四宮:それがこの本のメッセージのメインの部分になるのですが、やはりIT化を目的化してしまっているところがあるのではないかと思います。

それは最初から「IT化する」ということが目的になってしまっていることもあれば、気づいたらそれが目的化してしまっていたという場合もあります。例えば、業務改善をするために社長の号令で「kintone」を全社導入したけれど、業務改善ではなく「kintone」をどう使いこなすのかが目的になってしまったり、他社が使っているシステムを何も考えずに自社も入れてみようと判断したり、といったことがあります。

本来は業務改善が目的であるはずなのに、IT化することが目的になってしまっている。そうすると、不要なシステムがどんどん増えていくわけです。

――IT化による業務改善を進める上で、旗振り役、推進力となる担当者が必要になると思います。どういう人がその推進役に適していると思いますか?

四宮:まず気を付けないといけないのが、ITにちょっと詳しいからという理由だけで担当者にするみたいな人選をしないことです。確かに知識や業界の動きは詳しいかもしれませんが、その人が本当に業務改善についてしっかり分析をして、課題解決案を出せるのかということは別の話です。

では、どういう人は推進役にふさわしいかと言いますと、3つの欠かせない要素があると思っています。

まずは「顧客目線を持っている人」ですね。社内システムは基本的に社内の業務改善を目的に導入しますが、そのシステムを導入することで、影響がお客様や仕入れ先、パートナー企業といった様々なステークホルダーにも及ぶということをも考えなくてはいけません。

だから、そういった社外の関係する人たちの目線を常に持ちつつ、「この業務の流れの中でお客様にとって不便なところはどこか」などといった事を考えながら、改善ポイントを探さないと、本質的な課題解決に結びついていかないんです。

二つ目は「IT化に取り組む熱量のある人」です。これも大事な要素の一つで、業務改善には二つの力が必要です。

一つは短距離走的な力で、IT化導入時には課題と解決策を見つけて一気にシステム導入を進めるスピード感が必要です。もう一つは長距離走的な力で、この力はシステム導入が終わり運用フェーズに入った時に必要です。システムは導入したら終わりではなく、むしろ始まりなので運用を始めた後に出てきた改善ポイントをしっかり見定め、改善を繰り返していかなくてはいけません。この二つの力が必要になってくるので、相当な熱量を持っていないと続かないんです。

最後は「失敗を過度に恐れない」ということです。業務改善は常に仮説を立てながら進めていくもので、仮説が必ず上手くいくということはないんです。なので、小さな失敗が出てきてもいいから、まずは動かしてみて、失敗したらフィードバックをして成功に結び付けていくという実践をとにかくやっていく。トライアンドエラーを繰り返すことができる人であることはすごく大事だと思います。

――実際に業務改善に向けてスタートする際におさえておくべきポイントや、どんな準備が必要か教えてください。

四宮:一番大事なことは、先ほど言った「何を目的に業務改善を行うのか」ということです。その一番大きな方針を決めて、経営者や担当者含めてプロジェクトに関わる人たちがしっかり認識するということが大前提になると思います。

ここさえ認識が合っていて、それ以降の作業でもその目的さえブレなければ、大きな失敗は起こらないと思います。

――逆にこの部分が抜けている会社が多いからこそ、問題が起きてしまう。

四宮:そうですね。あとは途中で忘れてしまうということもあります。業務のIT化に向けてツールを探しているうちに、どんどん夢が膨らんでしまうことって多いんですよ。このツールは他の業務の役立ちそうだから取り入れてみようとか、そうなっていくと目的からずれていってしまう。

――業務改善ツールを営業してくる方との付き合い方ってどうすればいいですか?

四宮:話を聞くというよりは、どんどん質問をしていったほうがいいと思いますね。

営業が言ってくることって、自社のサービスがいかに良いかというところから始まるじゃないですか。もちろんそれはお客様がどういう業務をしているかちゃんと把握できてないところから商談を始めるわけですから、自社の製品をアピールすることはおかしなことではないと思うんです。

ただ、導入する側は、自社の課題を解決することが大切ですから、その課題に対して提案しているツールを使うことでどう改善が図れるのかといった質問をしていくことが大事なんじゃないかと思います。

――なるほど。「こういう営業マンは危険」というポイントはあるのでしょうか。

四宮:その課題に対して「幣社のツールだったらこういうことできます」とか、全てツールで片付けようとしている営業だったら、ちょっと危ないかもしれませんね。

(後編に続く)

※SI:システムインテグレーション。コンピューターやソフトウェア等を組み合わせて利便性の高いシステムを作ること。
※SIer:システムインテグレーター。顧客のシステムインテグレーションを請け負う会社や人。

御社にそのシステムは不要です。

御社にそのシステムは不要です。

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新刊JP編集部

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