だれかに話したくなる本の話

妻の死をきっかけに62歳で海外一人旅へ 新たな人生の「記録」

60歳を超えて、色々なところに二人で旅行することを楽しみにしていた矢先、妻が闘病の末に亡くなった。絶望の淵に沈み、桜咲く並木道を歩くのも辛い。妻が眠るお墓があるお寺の住職に相談したところ「旅に出なさい! 家でじっとしていたダメだ」と言われた。

こうして、62歳・菊池亮さんの壮大な計画が始まった。テーマは「二人分の旅を一人でする」。亡き妻の分まで旅をする、というわけだ。行き先は海外。ツアーを使わず、すべての手配を一人でやる。旅費滞在費を極力安く済ましつつ、現地では語学の勉強もする。

『62歳、旅に出る! 覚悟の海外一人渡航日記』(幻冬舎刊)は、そんな菊池さんによる渡航日記だ。大きな転機を経て、自ら行動を起こして海外で奮闘し、異文化の中で様々な人たちと交流をしながら、新たな人生を歩んでいく一人の男性の心情がつづられている。

■異国にギターを持ち込んで国際交流

この本には2012年から2018年までに菊池さんが訪れた国々の記録が記されている。

最初に行った国は地中海に浮かぶ島国・マルタ共和国。3ヶ月滞在し、現地の英語学校で英語を学ぶというプログラムだ。菊池さんは学校の寮に入り、いろいろな国々から集まってきた寮生や、英語学校の生徒たちと交流を交わす。

コミュニケーションは言葉だけではない。菊池さんがマルタに滞在するにあたって持ち込んだものがギターだ。生徒たちが自国の料理を持ち寄って交流するInternational Food Festivalでは、パーティーが盛り上がってきたタイミングでギターを取り出して会場の中央へ行くと、日本人の生徒たちと一緒に長渕剛の『乾杯』を歌った。そして、菊池さんの周囲にはたくさんの生徒が集まり、手拍子で歌を盛り上げた。

その交流から、若者たちとの関係がぐっと近づいたと菊池さんは回想する。自身がギターを初めて覚えたとき、「世界が少し広がった気がした」とつづっているが、まさにそのギターが異文化をつなぎ、自身の世界を広げたのだ。

■「マラソン大会」は海外渡航の一大イベント

この本ではつづられているのは、マルタをはじめ、南アフリカ、コロンビア、ブラジル、ドイツ、台湾、東南アジア諸国の渡航日記だ。

その各国でやっていることが「ランニング」だ。走ることで体調を整えており、渡航先でも日々ランニングをする様子がつづられている。

そして、菊池さんの旅の一大イベントとして欠かせないのが「マラソン大会」への参加だ。刺激をたっぷり受けたマルタからの帰国直後、その旅の最終目的地として選んだのが「第62回別府大分マラソン」だった。さらに、2013年5月に訪れた南アフリカのスタートは「第88回コムラッズマラソン」への参加だ。そして2014年9月にはドイツで「第41回ベルリンマラソン」を走破している。

走りながら、その土地の風景を楽しむ。どんな場所なのか観察する。菊池さんの「ランニング」を通して見る各国の姿は、ガイドブックだけで楽しむその国の姿とは違ったものを見せてくれる。

 ◇

菊池さんはあとがきで次のようにつづっている。

ギターを始める前、「僕にはダメ」と思い込んでいた。友人からランニングに誘われたときは「苦手なんだけどなあ」と躊躇していた。しかし、どちらも一歩踏み出すと楽しい世界が広がっていた。(p.237より)

そして、妻の死をきっかけに飛び出した世界で、ギターとランニングで様々な人たちと交流をした。
新しい世界に踏み出すには勇気がいる。しかし、一歩踏み出せば、思わぬ感動とワクワクが見つかる。本書は、そんなことを教えてくれる一冊だ。

(新刊JP編集部)

62歳、旅に出る! 覚悟の海外一人渡航日記

62歳、旅に出る! 覚悟の海外一人渡航日記

世界中を渡り歩いた記録を通じて人生の楽しみ方を伝える、唯一無二の旅エッセー。

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