だれかに話したくなる本の話

DX成功に必要な経営者の「感性」とは?

DX推進が叫ばれている日本だが、そもそも「DX」とは何なのか、という定義をはっきり持っている人は少ない。システム化によって業務を効率化することだろうか。それとも集客を自動化することだろうか。それはかつて言われていた「IT化」と何が違うのだろうか?

『日本型デジタル戦略 - 暗黙の枠組みを破壊して未来を創造する』(柴山治著、クロスメディア・パブリッシング刊)は、遅々として進まない日本のDXに光を投げかける一冊。「DXとは何か」について明確な答えを出し、DXが持つ真の力を解き明かしていく。

DXの本質はどこにあり、そしてDXを推進すると何が起きるのか。本書の著者で株式会社YOHACK代表取締役の柴山治さんにお話をうかがった。後編の今回は企業のDXに必要とされる「感性」について語っていただいた。

柴山治さんインタビュー前編を読む

■「あらゆる企業はソフトウェア企業である」

――本書は経営者向けに書かれた一冊ですが、経営者はいかに自社がDXで変わる可能性を見出すかについてアドバイスをいただければと思います。

柴山:繰り返しになりますが、とにかくトライアンドエラーを繰り返すことでしょうね。そのためには、特に大企業では経営者が4、5年で退かなければいけないので、もっと長い目でチャレンジできる環境を整えることが必要です。

その意味では「ワンマン」がやりやすい中小企業の方がDXは成功しやすい。チャレンジ精神を失っていない経営者が背中を見せることで組織に「失敗してもいいからチャレンジを」という文化が醸成されやすいんです。

――本書では「あらゆる企業はソフトウェア企業である」という言葉が引用されていました。デジタル技術によってあらゆる企業が恩恵を受ける可能性があると考えていいのでしょうか?

柴山:まちがいなくそうだと思います。あらゆる企業が恩恵を受けるでしょうし、逆にいえば、広義の「ソフトウェア企業」に変貌していない会社は淘汰される可能性が高い。

たとえば、企業が決済機能を電子化していない場合、世の中の人がみんな電子決済を使うようになってしまったら、必然的にその企業は決済をデジタル化するしかないじゃないですか。これだけモノとコトのデジタル化が急速に進んでいる状況で、ソフトウェア企業への変貌は避けて通れないと思いますし、ソフトウェア企業に変貌することであらゆる企業が恩恵を受けると思います。

――「理性」に加えて「感性」が企業のデジタル戦略に重要になると指摘されていました。デジタル戦略に必要な感性とはどのように磨くことができるのでしょうか。

柴山:最初にお話ししたように、DXまでの道のりを五階建の建物にたとえると、
一階が「事業運営に最低限必要なシステム基盤の整備」
二階が「コア業務の業務改革および業務の効率化」
三階が「集客を仕組み化」
四階が「経営の見える化と事業の高度化」
となって、最後の五階「イノベーションとサービスの多角化」こそがDXなのですが、一階から四階まではコモディティ化していて、ここで他社と差別化はできません。

差別化できるのは五階「イノベーションとサービスの多角化」によってのみで、たとえば外部連携でどことタッグを組むか、どこと共同研究をするかでそれぞれの会社の独自性が出るわけです。そして、その「どこと組むか」というのは経営者の感性そのものです。答えは会社ごとに違いますし、会社それぞれが自分で見つけるしかない。その意味でデジタル戦略は感性が大事だと書きました。

うちの会社のミッションは「世界を見て、世界を知り、世界を拡げる手助けをする。」なのですが、クライアント企業が自社なりのデジタル戦略を描けるような支援をしています。

デジタル戦略の感性はトライアンドエラーを繰り返すこと、チャレンジを続けることでも磨かれるでしょうし、自然を楽しむこと、日本古来の伝統文化や芸能、芸術など美しいものに触れることでも磨かれると思います。哲学や科学などが何から生まれたかというと、元をたどれば潮の満ち引きや惑星の動きなど自然の摂理なのですから。

――最後に、本書の読者となる経営者の方々に向けてメッセージをお願いします。

柴山:今回の本は、日本企業ならではの独自性と競争優位性を築くために必要な知識や思考を経営者の方々が得ることを目的に書きました。私自身の国内外での経験や独自に見極めた方法論を、日本企業の課題を解決するために提供する「試みの書」だと思っています。

DXはイノベーションそのものです。だからこそ従来の方法や世界の見方をアップデートする必要があります。たとえば経営者もそうでない人も含めて、今の日本人は欧米中心主義から生まれた手法や思想の中で育ってきた人がほとんどですよね。でも、日本企業が世界の中で独自性を獲得するには、その暗黙の枠組みを飛び出さなければいけません。その先に日本人だからこそ実現できる経営があると私は考えています。

そしてデジタルの概念は、これまでの日本企業とは違った独自性、競争優位性を築いて世界に進出するために不可欠です。「日本と世界のハブになる」というのがうちの会社のビジョンなのですが、そういう企業がたくさん生まれる未来を創ることでこのビジョンを実現したい。この本が日本中の経営者の方々と共に、未来の日本を作るために何をすべきなのかを考え、高め合っていくための「思考の書」になればいいなと願っています。

(了)

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