だれかに話したくなる本の話

「SMAP解散」情報リークの真相――「週刊新潮」編集長に聞く(1)

新潮社が発行する週刊誌「週刊新潮」が2月6日、創刊60周年を迎えた。

 創刊以来数々の社会不正を糾弾し、スキャンダルを暴いてきた同誌は、最近でも「SMAP分裂騒動」を報じた記事や、「川崎中一男子生徒殺害事件」の犯人少年の実名報道が大きな話題を呼んだ。

 「週刊文春」(文藝春秋発行)と並び、日本の週刊誌のトップに君臨する「週刊新潮」がどのように、どんな理念で作られているのか。同誌編集長の酒井逸史氏にお話を聞いた。

 「SMAP独立騒動」や「報道の自由」、そして「紙媒体の未来」まで、様々な話題が飛び出した注目のインタビュー前編をお届けする。(インタビュー・記事/山田洋介・金井元貴)

■「SMAP分裂騒動」ジャニーズ事務所の情報リークは読めていた

――「週刊新潮」創刊60周年ということで、まずはご感想からうかがえればと思います。


酒井:60周年ということで普段の「週刊新潮」とは別に創刊号の復刻版を作ったのですが、それを見ていると、書き方にしてもテーマにしても切り口にしても、時代を感じるところがある一方で、変わっていないなと思うところもあります。

新聞が「建前のメディア」だとすると、我々のような週刊誌は「本音のメディア」です。その本音の部分を報道するためには、やはり時には「興味本位」にならざるをえない。僕は興味本位が悪いこととは思いませんが、その興味の内容といいますか、私たちが「えっ!?」と思わず立ち止まったり、ギョッとしたりすることは今も昔もそんなに変わっていないと感じています。

それは、もしかしたら「今起きていることは昔起きた出来事が繰り返されただけで、新しいことなど何もない」ということかもしれません。もしそうだとしても、同じ大枠の中でその時代その時代に合ったニュースの取り上げ方を模索しながら記事を伝えてきたのが「週刊新潮」なのかなと思います。

――創刊号復刻版を読むと、今の「週刊新潮」よりも文章がやや硬い印象を持ちました。

酒井:文章については書き手にもよるんですよ。たとえば「週刊新潮」の特集記事は「デスク」という、編集部である程度経験を積んでいて技量のある人が書くのですが、どのデスクが書くかで文章の味は多少変わります。

「週刊新潮」は今出ている総合週刊誌の中では文章が上手な方だと自負していますが、書く人によって振れ幅はありますし、それは復刻版の中にもありますから、かならずしも昔の文章の方が硬かったということではありません。ただ、あまりにも難しい文章はダメだとは思っていて、最近は「ワイド特集」のような短い記事でも冗談を入れようよ、という話はしています。

ダジャレであっても記事に冗談が入ることで、読んでいて楽しい記事になりますよね。まあ、つまらなかったら僕が消すんですけど(笑)

――100ページ以上ある雑誌を週に1度のペースで出し続けるというのは、私たちのようなウェブメディアの人間からすると驚きなのですが、誌面づくりには何人くらいがかかわっているのでしょうか。

酒井: 70人から80人くらいですね。もちろん全員が記者というわけではなくて、カメラマンやデザイナーや事務方のスタッフなどかかわっている人を全て含めてそれくらいです。

特色としては、正社員の多さがあります。カメラマンや記者はフリーランスの人も何人か出入りしているのですが、そういう人の割合は他の雑誌と比べると極めて少ないはずです。

――雑誌ができあがるまでの1週間のサイクルはどうなっていますか?

酒井:「週刊新潮」が発売される毎週木曜日は本来休業日なのですが、そこから次の週の準備が始まります。編集部は4つの班に分かれていて、各班が交代で木曜日に出社し、手持ちのネタや企画をレジュメのような形にまとめます。それを基に、デスクが「来週はこんな風に雑誌を作ったらどうか」というたたき台を作る。それを僕が金曜の朝に読んで取捨選択、大体の方向性を決めます。

そして、金曜の昼、テーマごとにデスクと記者を振り分けて、よーいドンでスタートです。そこから金土日月で記事を煮詰めていきます。
「特集記事」、「テンポ」という短い記事、「連載」、「グラビア」がこのスケジュールで並行して動いていて、特集の場合は、日曜日の夜から月曜日にかけて一斉に記事にまとめていくという感じです。

その翌日の火曜が校了日で、出てきたゲラを校閲にかけると同時に、僕が読んで直しを入れます。完成したものを印刷所にまわすのが21時から22時位ですかね。ただ特集全部を同時に校了できないので、半分くらいは月曜に校了して、連載も早いものだと金曜に校了というように多少の時間差は設けています。

――酒井さんは2009年に編集長に就任される前はデスクを、その前は写真週刊誌の「FOCUS」(現在は休刊)の編集部に在籍されていたと聞きました。週刊誌での経験が長いということで取材時のエピソードをたくさんお持ちなのではないですか?

酒井:入社から2001年に休刊するまでずっと「FOCUS」にいたので「現場の切った張った」みたいなエピソードはたくさんありますが、それを話しても「写真週刊誌血風録」みたいになってしまうんですよね。

「週刊新潮」に移ってきてからだと、つい最近の話ですが、山口組の分裂騒動があった時に、渦中にいる組長4人と会って取材したことがありました。男5人で小指は全部で10本あるはずだけど数えたら6本しかなかった。

――怖すぎます。

酒井:あと、SMAPの独立騒動の時はジャニーズ事務所に行ってメリー喜多川副社長にインタビューしてきました。編集長ですが自分で取材をすることもあります。

――SMAPの独立騒動の時は「週刊新潮」が報道する前にジャニーズ側がスポーツ紙に情報をリークして、結果的にスクープは潰されてしまいました。こういうことはよくあるんですか?

酒井:それはもうしょっちゅうです。ただ、この件についてはこちらも読めていました。「日刊スポーツ」と「スポニチ」を使うのはジャニーズの常套手段ですからね。

ただ、僕らもあまり大きな口をきけなくて、SMAPの独立騒動については、以前から「日刊」も「スポニチ」も知っていたんですよ。事務所に抑えられて書くことができなかったというだけで。

だけど、僕らがこの件を記事にするとなったら、ジャニーズ側としてもずっと抑えていた人たちには仁義を切って“「週刊新潮」が書く”と言わざるを得ないでしょう。そこまでは読めていましたし、たぶん木曜までは持たないと思う、とジャニーズ事務所側からも匂わされていました。

だから、どこかのタイミングで事務所が情報を解禁するのはわかっていましたが、その二紙にしか書かせなかったのはさすがと言うべきでしょうね。他誌はきっちり抑えましたから。

次回「川崎中一男子生徒殺害事件」実名報道の反響 は3月14日(月)配信予定!

この記事のライター

山田写真

山田洋介

1983年生まれのライター・編集者。使用言語は英・西・亜。インタビューを多く手掛ける。得意ジャンルは海外文学、中東情勢、郵政史、諜報史、野球、料理、洗濯、トイレ掃除、ゴミ出し。

Twitter:https://twitter.com/YMDYSK_bot

このライターの他の記事