だれかに話したくなる本の話

ラジオ『水滸伝』で400役をこなす声優・野島裕史さん。そのプロの役作りについて聞く

アニメでも実写ドラマでも、「声」がキャラクターのイメージをある程度形づくる。話し方、声の高低、感情の入り込み具合などは人それぞれ違うので、一人二役、一人三役というときは「演じ分け」というプロの技術が必要だ。

声優として数々の作品で活躍中の野島裕史さんは、ラジオ放送局・KBC九州朝日放送で2011年から放送中の『ミヤリサン製薬presents 北方謙三 水滸伝』(原作は北方謙三著『水滸伝』)において、1人で400人以上の男性キャラを演じている。

『水滸伝』は中国の明の時代にまとめられた伝奇的な歴史小説で、かつて起きた反乱を基に物語が組み立てられている。

作家の北方謙三氏は、1999年から2005年にかけて、『水滸伝』を原典に大胆なアレンジを加えた歴史小説を文芸雑誌に連載。

この北方氏による『水滸伝』は『北方水滸』とも呼ばれるなど、ファンからの人気は高い。文庫版は19巻(+別巻)刊行されており、総ページ数は約7500を数え、登場人物も膨大な数となっている。

その作品がラジオ活劇化され、野島さんは1人で400人以上の人物を演じているのだ。

こうなると、野島さんがどのようにキャラクターと向き合って演じ分けているのか知りたくなる。新刊JPは、そんな野島さんにその研ぎ澄まされたプロの技についてお話を伺った。

■『水滸伝』を読み込み、キャラクターの気持ちになりきる

――ラジオ活劇『北方謙三 水滸伝』で400以上の役を演じることは、最初から決まっていたのですか?

野島:オーディションに合格してこの仕事が決まった段階では、どの役を演じるかは分かりませんでした。その後に100以上演じるということは聞いたのですが、まさか400以上になるとは思いませんでしたね。

ただ、放送が始まってから、どんどん新しいキャラクターが登場してきて「もうちょっと行ける、もうちょっと行ける」と演じていくうちに、引き出しが増えていったという感覚です。

――それだけ膨大な数の役を一人で演じ分けるということは、一般の人からすると想像もつかないことです。役作りの方法について教えていただけますか?

野島:作者の北方謙三先生が、数百のキャラクターの生い立ちや設定、性格をしっかり描かれていたので、その部分を読み込んで気持ちを作りました。

演じるということはキャラクターの気持ちになることです。人物によってある程度、声色やしゃべり癖、高低、抑揚などは変えていますが、僕自身は気持ちを最重要視しました。

そうすることで、ラジオ活劇を聞いているリスナーの皆さんが(キャラクターを)聞き分けてくださるようになるんです。だから、北方先生とリスナーの皆さんのおかげで400以上の役ができているのだと思っています。

――人物は一人ひとり違う気持ちを持っていますが、その一方で気持ちとは別に、話し方の癖というのも個々人で違います。その部分はどのように作り上げたのでしょうか。

野島:そういった部分は全部ノートにまとめていきました。プロデューサーやディレクターと「このキャラはあまり口を開かずにしゃべるタイプじゃないかな」みたいに相談しながら。

例えば髭が生えているキャラクターならば、上唇が動かしにくいだろうと。また、顔の右側に傷がある男は、傷がある側は口をあまり動かせないだろうから、声をあてるときも動かさずに出したりしました。

キャラクターの切り替えは、はじめのうちは出来なかったけれど、放送が1400回を超えて、積み重ねで出来るようになった感じですね。今では、キャラクターがどんな性格でどんな風貌で…とちゃんとイメージでてきれば、すぐに切り替えられます。