だれかに話したくなる本の話

人が辞めない会社のリーダーが実践する「関心」と「言葉」の哲学

慢性的な人手不足に陥っている業種の中でも、特に問題視されているのが介護業界だ。介護は他業種と比べても離職者が高い水準にあるといわれている。

そんな離職率が高い介護業界で「社員定着率96%」という驚異的な数字を誇る会社がある。
埼玉県さいたま市に拠点を置くリハプライム株式会社だ。

2011年に創業した同社だが、当初は多くの離職者、離職希望者が続出していた。しかしその後、社員と「理念」を共有する経営に邁進したところ、離職者は減少。年々、社員定着率は上がり続け、2017年には96%になったという。

そんなリハプライム株式会社代表取締役であり、『日本一社員が辞めない会社』(ぱる出版刊)の著者である小池修氏に、人が辞めない会社づくりのためにどんなことに取り組んできたか、介護業界に限らず、人が辞めない会社を作る上で経営者やリーダーに必要なものについて語っていただいた。

後編のテーマは、人が辞めない会社づくりのために社長やリーダーが率先してやるべきことについてである。

■社員の「心に火のつくポイント」を掴んでいるか?

――社員が辞めてしまう会社と働き続ける会社の最大の違いは何だと思いますか?

小池:私の見識から言うと、社長が社員に関心を持っているかどうかだと思います。
私の会社が上手くいっていなかった時と、今を比較してみても、社長である私の社員に対する関心度合いが違うことは大きいですね。

人の心に火をつけて人を活かそうと考えると、社員に関心を持たないとできません。人によって心に火のつくポイントが違います。たとえば、「給料を上げるぞ」と言って火が点く人と、そうでない人がいるわけで。

悪い意味での歯車として社員を扱えばすごく簡単です。目標値だけ言って「そこまでやれ」で済みますから。でも、社員に関心を持ち、普段を知っている私は、「これをやる目的はこれだよね」「この目的を達成したと言える数値はこれだよね」「だからこれを目標にしよう」「あなたならどういうやり方をしたい?」という話から入っていくんです。
そうすると、その共有の過程の中で、相手の顔を見ていれば、心に火がついたかどうかっていうのはすぐにわかるんですよね。

今私たちがやっているタクシー移送の事業でも、足の悪いご両親と同居する主婦スタッフなどは「私やりたいです!」ってタクシー免許を取ってくれたりするんです。でも、単に「お金稼ぎたいです」という人に、タクシー移送という話をすると「タクシーですか?」「それ、僕がやるんですか?」という反応が返ってきます。

そんなふうに、一人一人の火のつくポイント、その人にとっての興味をリーダーが掴んでいるかどうかは、特に小さな会社では大事ではないかと思います。

――5、6人くらいの規模の小さな会社ほど、関心を持って、社員の火のつくポイントを探るコミュニケーションがとれそうなものですが、そうではないのでしょうか?

小池:逆だと思いますね。「一緒にいるからわかっているだろう」「一緒にいるからわかる」となりやすいので。

私の会社も今では100人を超えていますが、最初の一店舗4人だけのときはミーティングなんて一回もしていなかったですから。横にいて一緒にやっているからわかっている気になってしまうんですよ。
話してみると実は、社員が仕事でやっていることと、実際の関心事はちょっと違っていたりします。
ただ、本人が認識していないだけで、社員の最大の関心事を掘り下げていくと「家族の幸せ」であることが多いです。
「家族の幸せ」が最大の関心事なのに、「今日はここまでやれば目標の数字を達成できるから、遅くまで頑張ろう!」と言っても、それで家族の誕生日に帰れないのであれば、火のつきようはないわけです。

そのために、私は社員一人一人と、定期的に一対一で面談する機会をつくっています。
面談では目標数値とかの話は一切しないです。面談相手の関心事と、会社の理念についてだけしか話しません。
「今、会社はこういう方向に進んでいて、こういう理想の会社をつくりたいんだよね」「あなたの興味や関心があるのはここだっていうことだから、ここで協力してくれない」って。「あ、でも、私のこの部分は不得手なんです」「じゃあ、その部分は他の得意な人にやってもらうから」って。

そんなふうに一人一人と話して、会社の理念や理想と社員の火のつくポイントをすり合わせていくんです。これは一対一で話すからこそできるやり方ですね。

――なかなか社員の関心とスキルと、会社がやっていきたいところを重ねて適材適所に持っていくのは難しいと思うのですが、それを一対一の対話という形で実践しているんですね。

小池:社員の心に火をつけるのが私の役目なので、細かい指導はしないんですよ。営業担当に「こうしたほうが上手くいくよ」と言ったことは無いですし。
私は、どちらかと言うと「こうなったら面白くない?」「こうなったらすごくない?」という話をするんです。それで「そうですね!」って相手が乗ってきたら、もうあとは任せて大丈夫。「こうやろうと思うんですけれど」と相談してくるので。

■リーダーの言葉で、社員に「本音」が伝わる

――今のお話を聞いていてもそうですが、本書では「プラス言葉への言い換え」や「大げさな順調ぶりの表現」、「8褒めて、2惜しいの絶妙レシピ」など、普段の言葉遣いに関する部分も印象的でした。リーダーや経営者にとって「言葉」とは、どうあるべきだとお考えなのでしょうか?

小池:言葉は信頼関係をつくるベースだと思っています。
よくリフレーミングで「言葉を言い換えましょう!」と言っても「それって言葉遊びでしかないですよね」「良いように言っても、悪いものは悪いですよね」という反応をする人もいるのですが、それって目的がちょっと違うんですよ。

言葉は「本音」を伝えてしまうものなんです。
たとえば、母親が誰かから「お宅のお子さんはケチねぇ」って言われたら「いや、うちの子は節約家なんです」と言いかえたりしますよね。

正解不正解で言ったら、その子どもは、本当にケチなだけなのかもしれないですよね。でもそれを「節約家なんです」と言うと、子どもは「お母さんは私のことを節約家だと思っているんだ」と、その言葉を母親の本音として受け取るんです。
本人自身もケチだと自覚していたとしても。そこで「そうなのよ、うちの子はケチなのよ」と言えば、それが母親の本音として子どもに伝わりますよね。

リフレーミングをして「ケチ」を「節約家」とポジティブに言い換えられたら、その子は母親のことを「お母さんは自分の味方だ」と感じます。それは職場の人間関係でも同じだと思うんですよ。
上司は裁判官ではないので正解か不正解を判ずる必要はなくて、大事なのは「味方である」ということを示すことかなと。

特に少人数の会社は、上司やリーダーが裁判官として存在してはダメです。

社員や部下がミスをした時に、厳しく「お前何やってんだよ!大事なお客さんの時に!」と言うと、「いや、だって、あれは……」と言い訳とか反発心を生むんですよね。そんなミスをした時でも「おまえらしくないな」とか、「俺がもう少し丁寧に教えればよかった。すまんな。」などと味方になる言葉を使えば、相手の態度も変わってくるんです。
味方から「遅刻はダメだよ」と言われたら、納得もしてくれるし受け入れてくれるものなので、リーダーはまず「味方になる」というところを大事にしたいですよね。

だから、リーダーでもミスを正す事を厳しく言う人がいると、面談の時に「たしかに君は正しいし、倫理観とか正義感があるよね」「でも、言葉は本音を伝えてしまうものだから、君が『あいつはさぁ!』とミスを断罪して言うことで、相手と信頼感を作り損ねているんだよ」と伝えるようにしています。

それがリフレーミングや言葉を言い換える理由なんです。

――最後に離職者の多さに悩んでいる経営者やリーダーの方々にメッセージをお願いします。

小池:そもそも離職したい人はいないですし、入ってきたときには夢を持ってきているので、社員の味方になって、その人との信頼関係をしっかり築いてくれるリーダーが増えてもらいたいと思っています。

経営者やリーダーは、信頼関係をしっかり作って社員一人一人が自分で目的を考えて動けるように支援していくことがすごく重要です。そのためには社員にわかりやすく伝わる理念を作って共有していき、経営者やリーダーが率先して体現する。さらに、言葉や態度を変えて、一人一人の社員とのコミュニケーションを深めて信頼関係を創っていく。
当初は私もそれができていなくて、会社の経営が上手くいかない時期を味わいました。でも、いろいろな経験や勉強をしてこのスキームでやってみたら上手くいくようになったので、ぜひ皆さまにも試していただけたらと思います。

(了)

・どう「人が辞めない会社作り」をすべきか? 退職者が続出する3つの理由とその対策(小池修インタビュー前編) を読む

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