だれかに話したくなる本の話

リピーターが絶えないABCクッキングが「夜10時」まで営業する理由とは?

世の中には「繁盛店」と呼ばれる、リピーターの絶えない店があるが、繁盛させるために必要なものは一体何だろうか。
飲食店なら美味しい料理をつくる、モノを売る店や会社なら品質の良いものをつくる。それだけで繁盛するかといえば、答えはNOだろう。

このモノ余り時代に、多くの競合他社から抜け出て繁盛する店や会社は、商品やサービスの質の良さを追求する以外の視点を持っている。それは顧客の「感情ニーズ」だ。
繁盛店は、顧客の「感情ニーズ」をつかんでリピーターをつくり、そのリピーターが続々と新たな顧客を連れてくるという仕組みができている。

そんな、顧客の心を掴み、リピーターの絶えないビジネスノウハウを、『8割のお客様をリピーターに変える「すごいお店」の秘密』(KADOKAWA刊)の著者であり、これまで数々のビジネスモデル構築や戦略・戦術の策定をアドバイスし、多くの中小企業の業績向上に貢献してきた高井洋子氏にうかがった。
インタビュー後編となる今回は、顧客ニーズを的確に掴んでいるビジネスの実例とそのポイントについてお話しいただいた。

(取材・文:大村佑介)

――本書で、モノは「顧客ターゲット」「売り方」「商品」の777(スリーセブン)がそろわないと売れないというお話がありましたが、この3つの中で一番見落とされがちな要素はどれでしょうか?

高井:顧客ターゲットです。多くの方がターゲットを絞り込めないんですよ。

――それはなぜでしょうか?

高井:売れなくなるのが怖いからです。
よく見るのが、ひとつの商品を「20代~60代の女性をターゲットにしています」という方ですね。でも、それだとターゲットが明確でないから、商品のつくり方も中途半端になるんです。

たとえば、青汁を20代の女性に売るのであれば、「青汁スムージー」みたいな名前にして可愛らしいパッケージに入れたほうがいいでしょうし、ダイエットを打ち出す売り方もありますよね。
でも、60代の女性に売るのであれば、抹茶色のパッケージで「毎日元気に青汁」みたいなコピーが響くでしょうし。

だから、同じ青汁でも、20代から60代まで全員に飲んでもらおうと思ったら、コンセプトが明確にならないと難しいんですよ。

――なるほど、そうですね。

高井:ターゲットの例で言えば、「ラウンドワン」というアミューズメントは明確です。

「ラウンドワン」は昔のボーリング場やゲームセンターの進化版のようなところですが、ゲームセンターも、ターゲットが「ビジネスマンの暇つぶし」か「最新のゲームで遊びたい子ども」なのかで、サービスも商品も立地も変わってきますよね。
その中の「子ども」にターゲットを絞るのであれば、今はネットに繋いで家でもゲームはできるわけです。だから、ミニバスケットやフットサルといった体験型のアトラクションを取り入れた結果、大人気なりました。

だから、どんな人が、どんな感情を満たすために、そのお店があるのかというターゲットのセグメンテーションができていないと上手くいかないんです 。 「顧客ニーズ」がわからない限り、商品も売り方も変わってしまいますよ、というのが777(スリーセブン)の考え方です。

今の時代は完全に体験型が強いですね。なんでもネットで情報が引っ張ってこられる時代になると「いかに体験させるか」が重要になりますから。

――自社のビジネスに「体験型」を取り入れられないかを考えてみるのも面白そうですね。

高井:それは面白いと思います、これからの時代。
やはり体験型で持っていかないと、「便利」や「気軽」という点で、アマゾンのような大手には勝てないですから。でも、アマゾンも「アマゾンスピーカー」のように、すでに体験型を始めていますからね。

――今、「アマゾンGO」というレジのないショップも出てきていますが、大手にそれをやられてしまうと小売店舗は大変ですよね。

高井:だからこの本を書いたんです。顧客と家族になって、顧客が自分の事を応援してくれるようにならないといけない。やはり顧客との関係の根源にあるのは人間関係ですから。そこを意識しないとネットや大手企業にかなわないですからね。

――他にも「顧客ニーズ」を的確にとらえているなと思う会社やお店はありますか?

高井:料理教室の「ABCクッキング」も体験型で、顧客ニーズをしっかりわかっていますよね。 ABCクッキングでは、生徒さんが楽しく料理をしている姿がガラス張りで見られるようになっていて、そこに「自分もやりたい」というワクワク感を起こさせる仕掛けがあるんですよ。

「料理がつくれるようになりたい」という表面的な感情ニーズだけを見ていると大失敗しちゃうんですよね。「お料理がつくれるようになりたい」「お料理を学びたい」に加えて「自分で体験してみたい」がないといけないんです。

もっと言うと、ABCクッキングは夜10時まで開いているんですが、それは、顧客ターゲットが独り暮らしのOLさんだからです。
一人暮らしの女性には、「コンビニ弁当を買って帰って一人でさみしく食べるくらいだったら、教室でみんなと一緒に料理を作って、仲間たちと食べて、楽しく喋って後片付けをして帰りたい」というニーズがあるんですよ。そのニーズがわかっているからこその「夜10まで」なんです。

――先ほど、アマゾンの話も出ましたが、海外で日本人以外の人をターゲットにしたビジネスでも、リピーター獲得のためのプロセスは基本的には同じであると考えていいのでしょうか?

高井:結局は一緒だと思いますね。
商品の話になってしまうと、飲食店なら甘いものが好きとか辛いものが好きといった味覚の話が出るとは思いますけれど、人間の消費行動という意味では、基本は一緒ですよ。

――基本は同じということを踏まえた上で、日本人と、中国人や欧米人を相手にビジネスをする際に「ここは違うな」と違いを感じることはありますか?

高井:たとえば、一口に中国と言っても国土がものすごく広いじゃないですか。上海なんかは日本のレベルを超えるような大都市になっているわけですよ。でも、一ヶ月4000円くらいで生活できるものすごい田舎もあるわけです。

だから、どこの国だからこう、というふうに考えるのは難しいですよね。同じ国でも上海のような大都市と田舎に住んでいる人の感情ニーズは全然違いますから。

――そうなると、その地域における年収や生活レベルのような枠組みで考えたほうがいいのでしょうか?

高井:そうですね。そこに住む人たちの世帯年収やライフスタイルなど、基本的なところを押さえておくことが大切になります。

また、宗教観は多少関係してくる場合もあるとは思います。宗教的に豚肉を食べないとか。でもそれは、「顧客ターゲット」よりも「商品」の話になってきますから。
やはり大切なのは「かわいい」とか「便利そう」といった感情ニーズになってきますね。

――なるほど。感情ニーズを押さえるというどんな人にでも通じる基本を知ってさえおけば、どこの国や地域でもビジネスはやっていけそうですね。

高井:私も海外でビジネスをやっていますが、そのノウハウでやってしっかりできていますから。 飲食の宗教的な部分で「この商品には豚肉は入っていません」と書かなければいけないといったことはありますが、それは配慮のうちです。

なので、私が日本で皆さんにお伝えしていることと、私が今住んでいるシンガポールでやっていることは、基本的な部分での違いはないですね。これは世界規模で通用するビジネスの極意です。

――最後に、リピーターが獲得できずに悩んでいる経営者の方々にメッセージをお願いします。

高井:「誰にでも売らないこと」はとても大切です。
恣意的に自分がセグメンテーションしたお客様にモノを売る――私がABCクッキングですごいなと思った話があるんです。

料理が得意な経営者の男性がいて、その人がABCクッキングに体験に行ったんです。 その人はすごく食にこだわる人なので「蕎麦打ちをやりたい」とワガママを言ったら、教室の先生が「うちには蕎麦打ちのコースはありません」と。
でも、その男性はさらに「こういうので出汁を取ってね――」と話し出したんです。そうしたら、先生は「私たちは楽しく家庭料理がつくれるようになることを目的にしています。そういうコースをつくる予定もないですから、他の教室に行かれたほうがいいと思いますよ」とハッキリ言われたらしいんですね(笑)

それを聞いて、私は「さすが」と思ったんですよ。
そういう人を説得して無理やりお客さんにするのではなくて、「この人を徹底的に幸せにするんだ」ということ明確に決めて、その人に届く告知を徹底的にする。

それで、来ていただいたお客様と信頼関係を築いて、自分の思いに共感していただいて、お友達やご家族を紹介していただく。そんなふうに、大事に人間関係を構築していくことがリピーターを増やすためには大切だと思います。

(了)

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この記事のライター

大村佑介

大村佑介

1979年生まれ。未年・牡羊座のライター。演劇脚本、映像シナリオを学んだ後、ビジネス書籍のライターとして活動。好きなジャンルは行動経済学、心理学、雑学。無類の猫好きだが、犬によく懐かれる。

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