だれかに話したくなる本の話

経済成長のカギを握る「企業強化推進策」の意味と課題とは?

近年、「コーポレートガバナンス」という言葉を新聞やメディアで見聞きするようになった。第二次安倍政権はコーポレートガバナンス改革を推進し、2015年3月に金融庁と東京証券取引所によってコーポレートガバナンス・コードが取りまとめられ、同年6月から上場会社への適用が開始された。

コーポレートガバナンスは日本経済の未来予測において非常に重要な意味を持つ。
一部上場企業20社以上のアドバイザーをつとめ、上場企業3社の社外取締役・監査役を兼任する『乱高下あり! バブルあり! 2026年までの経済予測』(集英社刊)の著者、渡辺林治氏に、コーポレートガバナンスの重要性とその意味について語って頂いた。

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会社から何か指示が出たときに、その背景にあるのはどんなことで、自分が何を求められているのか、また、お取引先様のリクエストは何を求められていることなのか。その背景がわかると動きやすいですよね。その背景にあるのが**「コーポレートガバナンス」**なんです。

コーポレートガバナンスというのは、会社をどのように経営していくのかについての指針です。
第二次安倍政権でコーポレートガバナンス改革というものが打ち出されてから、会社法の改正とか証券取引所に株式を上場している会社への指導が行われました。つまり、「コンプライ・オア・エクスプレイン(コーポレートガバナンス・コードを遵守するか、遵守しないのであれば、その理由を説明することを求めるもの)が導入されたわけです。

上場企業はそういう論理の下で動いているので、それを知っておかないと自分たちも仕事で失敗することもあり得るわけです。つまり、企業経営者、もしくは働いている方々が、会社の中で活躍したいと思ったときに、ビジネスチャンスを掴むためにはコーポレートガバナンスが持つ意味を知っておく必要があるのです。

コーポレートガバナンスで言われていることは、長年停滞していた経済を活性化させるために、企業も売上を伸ばして利益を積み上げ、「伸びて儲ける会社を目指そう」という話です。「成長性」と「収益性」を引き上げようということですね。

それは一般消費者の目線から見ても大きな意味を持ちます。「伸びて儲かる」ということは業績が改善するということです。そうすれば雇用が拡大して、働く人たちにとっても仕事が増える。また、株式を持っている人に対しては、配当が増えたり株価が上昇したりすることになります。

結果として、リーマンショック後の就職氷河期から比べれば、就職はしやすくなりましたし、若い世代が10年前より明るい未来を考えやすくなりました。
また、株価も上昇したので、年金のリターンも改善しました。以前は「私たちが払った年金は戻ってくるのだろうか」という議論がありましたが、最近は少なくなりましたよね。年金管理の問題は別にしても、年金リターンが良くなったということはあまり報道されませんが、これはリターンについては改善しているからなんです。

国民の年金を運用しているGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は、2011年度からのリターンが年率3.39%です。1.7%位を目標にしていたのに対して3.39%の実績が出たということは、考えていたよりも良かったということですよね。
もし、株価が下がり続けたままだったら「年金が支払えないので、皆さんもっと払ってください」となっていたはずです。それがなくなったということ自体、大きな意味があるということです。

ただ、コーポレートガバナンスには、まだまだ課題があります。
企業からすると、急に政府から要求されたので自分たちがどう対応したらいいのか困惑している面があります。
今回は特に、ROE(自己資本利益率)の重視や株主の視点での企業経営を強化するということが狙いだったわけですが、そうするとこれまでCSR(企業の社会的責任)を重視していた企業としては「自分たちはどうしたらいいのだろうか」となってしまうわけです。

また、一方で、この取り組みを推し進めた政府や学識経験者の中には、実際に企業経営をしたことのない方もいらっしゃるので、実際の経営がどれだけ大変かを知らず机上の空論になりがちなのは否めません。

ということで、企業側にとっても、政府や学識者側にとっても課題はあります。
でも、課題をどう解決していくかが大事で、そういう意味では、政府は新たにESG(Environment=環境、Social=社会、Governance=ガバナンスの頭文字を取ったもの)のように、幅広い考え方を持って企業を経営した方がよいと示すようになっています。

ガバナンス強化が不足している企業に共通することは、企業規模が小さく、ネットワーク力が弱いことです。「うちではガバナンスの強化なんてできない」と考える企業も少なくないでしょうが、そこに対応できないと淘汰されやすい。
規模が小さくても情報やネットワークに強ければ生き残っていけます。そこで一番重要なのは、経営者の人柄と能力です。会社は経営者で決まりますから。

団塊世代の経営者から社長を引き継いだ若い二代目経営者は、情報やネットワークに触れてきた世代ですから、競争に勝っていける可能性は大いにあります。日本にはまだまだ希望があります。

特に今は時代の転換期なので変化が著しい時代です。変化への対応力は大企業よりも中小企業のほうが勝っています。その意味で、中小企業経営者は激動期においてはビジネスチャンスを機敏に見つけていくことが大切です。

(次回に続く)

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この記事のライター

大村佑介

大村佑介

1979年生まれ。未年・牡羊座のライター。演劇脚本、映像シナリオを学んだ後、ビジネス書籍のライターとして活動。好きなジャンルは行動経済学、心理学、雑学。無類の猫好きだが、犬によく懐かれる。

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